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書を捨て街へ出よ

 テーブルの上に広げた地図上の四ノ原駅に人指しを置いて、それから彼女はつつっと指を下にスライドさせた。

「四ノ原駅から南北に伸びる国道12号線。南に2キロ下ると泊山はくやま大学がありますね」

 頷く。僕らが通う大学である。国立大学にしてはそこそこの規模を有する大きな大学だ。

「あなたはこの道のどこかで東に折れた。恐らくは四ノ原駅の付近で」

 また頷く。なんだか取り調べを受けているみたいだ。

「恐らくはこの道を」

 彼女は駅からすぐ近くに存在する細い線を辿った。

「行ったすぐの場所だとあなたは記憶していた」

「その通り」

 彼女の指の近くには不動産会社の名前が見える。恐らく、あの背の高い雑居ビルを占めているものの一つであろう。

 その時、彼女の指を辿っていた僕はふと不思議なことを発見した。

「あのさ」

 そう言って僕も地図の一角を差す。

「ここにこんな神社あったっけ?」

 それは、四ノ原駅から1キロほど東に存在する鳥居のマークであった。氷谷ひたに神社と書いてある。地図上ではけっこうな敷地を有しており、大きいことが伺える神社だ。

「僕は時々電車代をケチって2駅くらいこっちに歩いて行くことがあるんだ。四ノ原から東方面にこんな堂々とした神社なんてあったっけ?」

 すると、彼女は複雑そうな表情になった。

「ありましたけど……確かに」

 この地図が古いものだと言うことを加味しても、こんな大きな神社が数年で消えるとは考えにくい。どうも腑に落ちない。だが、どうしてか彼女は何故かやりにくそう、と言うかこれ以上この話題に触れて欲しくなさそうに言った。

「先輩が知らない大社だってあるかもしれません。それより、これからは四ノ原を徹底探索します。ルートを先輩も覚えて下さいね」

 そうして、彼女は駅周辺の細い道を指でぐにゃぐにゃと辿って行った。恐らくこれから歩くルートだろう。僕としては、探索しても見つからないことに賭けてもいい。賭けるものは……そうだな、高校時代の思い出とか。これじゃ勝っても負けても勝利だ。賭けとしては成立しないな。

「ちょっと、ちゃんと見てますか」

「見てる見てる。動物園で象を眺める公務員程度には真剣に見てるよ」

「その言い回しが既に真剣ではないのですが」

 おっと……顔を突き合わせてまだ間もないと言うのに中々鋭いな。僕は肩を竦めた。

「アダルトビデオを眺める中高生ぐらい熱心だよ」

「下品な例えです。それに、そこまで真剣には見えませんがね」

「視聴してるのは女子高生だと仮定する」

「つまり嫌悪して見てるということですか」

 僕は首を振った。

「興味深深だよ」

「それは有り得ないですね」

「それならば、そういうことだよ」

 思わず笑ってしまうと、手玉に取られていたことに気が付いたのか彼女はムッとしたように頬を膨らめた。

「くどいですね。あなたの過失からこうなったことをお忘れなさらないように」

 やれやれ、藪を突いてしまったようだ。

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