7月10日 18:00 自室にて
「ブライトです。中に入られてもよろしいでしょうか?」
「失礼致します。御夕食の用意が出来ましたのでお呼びに参りました。
お体の調子はどうですか?
というより、いつからそんなに陽射しに弱くなられたのですか。
やはり、荒れているとはいえ、以前のようにお庭を散歩する時間を設けた方がよろしいと思いますよ。そんなに本ばかり読んでいないで」
「お庭のことでパルサーさんがものすごく喜んでいましたよ。あなた様のことをたいそう誉めておりました。日が落ちるまでお庭の掃除をしていましたよ。日が落ちた今は土を耕し、明日の朝にでも種まきをするとはりきっております。
どうやら彼女を止められそうにありませんね。思い通りのお城を作ると言って張り切っておりますので……、お庭が綺麗になることは喜ばしいことなのですが、やはり不安は拭えませんね。
半年前の盗賊は間違いなく何かを知ったうえで庭を荒らしていましたからね。また彼らのような盗賊がやって来て城を荒らすということも考えられますし、せっかく綺麗にしたお庭を荒らされたら、あの元気なパルサーさんも落ち込まずにはいられないでしょう」
「もちろんその事もお伝えいたしましたよ。ですが、何か秘策があると言っておりますし、何より彼女の性格からして私の忠告に耳を貸すことはないでしょう。この城に来た時から、何か特別な思いを抱いているようですが、私には分かりません。
しかし、彼女は本当に勘の良いお方で、出会ってから私は驚いてばかりです。この城の構造について既に疑問を持ち初めておりますし、あの開かずの扉の先に何があるのか私に聞いてきましたよ。上手にはぐらかしたつもりだったのですが、もしかしたらあなた様のところにも聞きに来るかもしれません」
「そうですか、来ましたか。
いかがなさいましょうか。いずれ、この城に共に住み続けるのですし、早くにこの城の全てをお伝えしてもよいかもしれませんが……」
「まだ早いですか。
いえ、私もそう思うのですが、思ったより早く事を始めなければならないかもしれません。明日、パルサーさんに麓の村まで足を運んで貰えるようにお伝えしておきたいと思います。
麓の村の様子を見てから、私たちがこの山を降りるかどうかを考えましょう」
「重たい空気になってしまいましたね。せっかくの御夕食だというのに申し訳ございません。食堂まで歩くのもお辛い御様子だとパルサーさんが言っておりましたので、此処までお持ちいたしましたが、食べられますでしょうか?
そうですか。わかりました。それではここに置いておきますので、食べ終わりましたらそのままにしておいて下さい。後で片づけに参りますので」
「そうそう。パルサーさんについて、購入する前に一つ嫌な情報を事前に頂いておりましたが、やはりあれはデマだったのでしょうね。毒グモというあだ名にはずいぶんと酷いことを言いなさると思いましたが、その点については心配はなさそうですね。あなた様の勘はやはり正しかったようで。
何かご用があればすぐにお申し付け下さい。
では、失礼いたします」