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毒蜘蛛パルサー -romance for you remix-  作者: 朝比奈和咲
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7月10日 13:00  自室にて

『パルサーです。お昼御飯をお持ちいたしました。

 お部屋に入られてもよろしいでしょうか』



『失礼いたします。いつまで経ってもお部屋から出て来ないのでブライト様が心配なされていましたよ。少しは自発的にお部屋から出られたらどうですか?

 無理にとは申しませんけど。お昼御飯はどちらに置かれたらよろしいでしょうか?』


『はい、そちらの机の上にですね。かしこまりました」



『御用件はこれだけなのですが、あなた様に御願いがございます。どうかお聞きいれて下さると嬉しいのですが、申してよろしいでしょうか?』


『ありがとうございます。では申し上げさせて頂きます。


 御願いとはお庭や城の清掃についてのことでございます。

 この古城の造りは大まか分かりました。城門入口から内部に入ると円状のエントランスホールがあり、正面に錆び付いた大きな開かずの扉、扉より右側にあなた様のお部屋、左側に食堂へ繋がる扉がございます。そして食堂の先に水回りが一式、浴場もあることを知りました。

 ホールの壁側内周に階段が取り付けられており、その階段が入口より左右どちらにもあります。階段を上って進むとちょうど開かずの扉の上部にある所へ付きまして、そこにも大きな扉がございます。そこを開けますと直線の廊下がありまして、左右に客間が三つずつ、手前左側がブライト様のお部屋、右側が私のお部屋、奥の二つはどちらも空き部屋となっております。

 私が知っていることはここまでなのですが、お間違いはございませんか?』


『お間違いないと。お誉めの言葉、ありがとうございます。

 それでございまして、清掃する場所を私はブライト様より申しつけられましたが、あなた様の部屋と食堂、エントランスホール、そして二階の客室の六部屋となっております。ここで私に二つの疑問がございます』


『まず、この古城は屋根が非常に高いはずです。お庭より外観を眺めると四階建てまでの高さはゆうにありますのに、それに比べるとエントランスホールの天井がやけに低く、三階に繋がる階段もどこにも見当たりません。これは一体どういうことでしょうか? もしや、開かずの扉の先に三階への扉があるのではないでしょうか?』


『御返事がないようなのでお話を続けます。

 古城の外周をぐるりと歩かさせて頂きました。食堂の奥に水場があるのですから、予想通り入口から縦に細長い造りだとは分かりましたが、あなた様のお部屋はもっと奥行きがあってよろしいはずなのです。一人が住むには充分の広さはございますが、それでもこの部屋は客室一つと同じ広さ。残り二つ分のスペースがあなたの部屋の後ろに繋がってあるはずなのですが、そこに行くための通路も見当たりません。あるとすれば、開かずの扉の先にある、というのが推測なのですが、


 疑ってしまい申し訳ございません。何か隠しておられませんでしょうか?』


『そうですか。何も隠してはおられないと……。


 分かりました。疑ってしまい申し訳ございませんでした。まだ他に不可解な点は多いのですが、例えば軍事上の点から見まして、この部屋も二階の客室も、あまりにも窓が大きいということ。最近に造られたお城なのでしょうね、あるいは改築されたか。さもなければ、この城は厚い石材で組み立てられているのに、窓には外枠に格子も設けず二枚組のさほど厚くないガラスを使用していることも、考えたらきりがありませんの。


 いずれ私の疑問も時間が解決してくれると思います。が、隠しごとはおやめ下さい。私は別にスパイではないのですから。ブライト様よりあなた様の方が嘘はお上手そうですね。


 ブライト様が苦しむような嘘をさせることだけはおやめ下さいね』


『それと、もう一点。こちらはすんなりと受け入れてもらえるかと思います。


 お庭の手入れを全て私に任せて貰えないでしょうか。

 もちろんあなた様がご自身でやるというのなら私は一向に手出しをいたしません。ですが外に出るのもお辛そうなあなた様が出来るとも思えません。

 よろしいでしょうか?』


『確かにあなた様の言う通り、またどこかのアホが攻め込んでくるかもしれません。火でも付けられたらそれこそ大変です。先ほど焼き払われた花壇を見ました、城の周りは草木が生い茂り、燃え移ればそれこそ大変です。


 ですが、たとえそうだとしても、あの広いお庭を朽ち果てたままにしておくことは勿体無くて私は耐えられません。私にとって、あれは障害です。


 不可解な点が多いとはいえ、この古城の外観は見事なものです。古城というよりも洋館というべきなのかもしれませんが、見張りのための塔もありますし、入口はアーチ状で昔は跳ね橋があったのでしょう。跳ね橋は無く入口は常に開放的になっておりますが、いずれ代わりになるものを御作りしてもいいかと思います。大量に水さえあればお堀も造るのですが、それもいずれは』


『そこまでやるのですと? やらねばなりませんの! せっかくこんな素晴らしい舞台を私は見つけたのです! 何かが足りないならば全て私が御作りするまで。


 ということで、御庭のことは全て私にお任せ下さい。既にブライト様の許可は得ております。後はあなた様に許可をと申されておりましたので、形式的にお伝え申し上げました。


 御提案を御受入れ下さい。


 では、失礼します』

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