7月9日 18:00 自室にて
空想科学祭習作です。
『パルサーです。御夕食の御用意が食堂にて出来ましたので、お呼びに参りました。お部屋に入ってもよろしいでしょうか』
『失礼致します。お体は……、
歩けますでしょうか? 立ち上がれないようでしたら車椅子を使えとライガル様より申しつけられましたが、
大丈夫のようですね』
『本当に大丈夫なのですか? ふらふらですが。きちんと立ち上がれておりませんよ』
『左様ですか。では食堂へ御一緒させて頂きます』
『しかし、このお城は不思議な造りをしておられますね。同時に、どうしてあなた様はあのような部屋におられるのでしょうか。城の当主は城の中で最も見晴らしが良く、同時に何者かに攻め込まれた時にすぐに身を隠せる場所へと避難出来るところにいらっしゃるものだと思っていたのですが、あなた様の部屋はエントランスホールよりすぐ右手にある比較的小さなお部屋。あの部屋では何者かが城の入口より攻め込んできた場合、まず先にドアをこじ開けられ攻め込まれる場所ではありませんか?
……、失礼いたしました。少々、口が過ぎたようです。お許しください。ですが、勝手な憶測ではございますが、本日、ライガル様に申しつけられたお部屋を全て清掃致しましたが、あなた様の部屋はこの城の造りからして、まるで戦士たちの控室のような場所です。城の構造上、どうしてもあの部屋に逃げ道や抜け道は、あればそれに越したことはございませんが。
食堂に着きましたわ。ライガル様も中でお待ちになっております。ドアを開けますので、さあさあ、どうぞ中へ。ふらついている場合ではありませんの』
「御主人様! 歩けるのですか!? 大丈夫でしょうか!?」
『ライガル様。ご当主様は自分で歩きたいと仰っていまして……。
私はどうしようか迷ったのですが……』
「そうですか。パルサーさん、ありがとうございました。
御主人様、お体の調子が良いからと言ってあまり無理はなさらぬように。ベッドから出られないようであればお食事をお部屋までお持ちになるつもりでしたが、ああ、どうぞどうぞ、そちらのお席にお着き下さい。
いや、そんな椅子ではなくて、そちらの椅子に……って……、
そうですか。そこでよろしいのですか。分かりました。いまキッチンよりお食事をお持ちいたしますので」
『ライガル様! そんな私が全ておやりになります! ですからどうぞお席に着いていらして下さい! どうかそこにいらして下さい!』
「あはは。本当に元気の良い方で何よりです。
それで、あのことですが、明後日にでも頼んでみようかと思います。それで、その偵察の結果をふまえて、私たちが村に下りるかどうかを考えたいかと思います。まあ、まだ初日なので何とも言えませんが、私はパルサーさんを一人でこの城に留守番させても大丈夫だとは思っているのですが、一人では心細いのなら、その時はもう一人雇うということで」
『お食事をお持ち致しました。 二人で何のお話をされていたのですか?』
「いや、パルサーさんがよくお仕えしてくれて助かると誉めあっていたところですよ」
『本当ですか!? ありがとうございます! ライガル様にそのようなことを……、ああ私はもう嬉しくて言葉もありませんの!
待っていて下さい! シチューはたくさんありますの! 今すぐライガル様の分もお用意いたしますので!』
「いや、私はアンドロイドだから、食べることはしませんよ」
『分かっておりますの! ですがライガル様のためにも御作りしたシチューですので、どうかお召し上がり下さい』
「待って……、ああ、行っちゃった。
それで、ああ、私のことなどお気になさらずにお熱いうちにお召し上がりください。鼻歌交じりにパルサーさんが作られていたシチューですので。味は私には分かりませんが、どうやらパルサーさんは味覚も優れているようで何度も味見をされておりましたし。最近のアンドロイドはすごいですね。初期型の私と比べて数段も発展しておられます。いつ買い替えられてもおかしくない私をいつまでもお使いになられて下さるあなた様には感謝――」
『お持ちいたしました。お隣の席に失礼いたしますね。
そんな、ライガル様は素敵な執事ですの。私より数倍も優れていますの。なぜならこの城について私より多くのことを知っていられるではありませんか』
「それはここに長く勤めているからですよ」
『いえいえ、出来の悪いアンドロイドでしたらいつまで経ってもこの城の構造は理解できませんの。すぐに迷ってそのままフリーズするに違いありませんの。ライガル様は私に効率の良い掃除の仕方を教えて下さった、キッチンの火の付け方も教えて下さり、そうそうですの! 食糧庫に設置された巨大な冷蔵庫はライガル様が御作りになられたのでしょう』
「ええ、そうですが、よく分かりましたね」
『やっぱりそうでしたの! 素敵……、なんて手先が器用な方ですの。やはり私がお仕えするのはあなた様しかおりませんの。どうか私をお好きにお使い下さいませ。あなた様のためなら私は何でも致しますの』
「あはは。そこまでは、言いすぎですよ、パルサーさん。
分からないことがあればどうぞ何でも仰って下さいね」
『ええ、何でもお聞き致しますの……』
『あら、もう御夕食はよろしいのでしょうか』
「御主人様、やはり体調が優れませんか」
『……、もしかしてお口に合わなかったとかでしょうか』
『もし、味に何か不満等、その他何かあれば何なりとお申し付け下さいね。嫌いな食べ物がございましたらどうぞ素直にお申し付け下さい。
もし出来ればなのですが、今のうちに仰って頂ければ』
『ない。それはよろしいことですの。
では、これからもお二人のために御作りしますので、よろしくお願いします』
「片づけは私が」
『いえ! ライガル様は何もせず! どうぞそこでごゆっくりしていらして下さい! 片づけは全て私に。ですからどうぞ』
「そこまで親切になさらなくても大丈夫ですよ。一緒にやりましょう」
『そんな、勿体無きお言葉で……』
「御主人様は、お部屋に戻られますか。そうですか。それならばお伴致しますが、いえ、そんなにふらふらしているのに」
「はあ、大丈夫ですか。しかし……。
そうですね。食堂からお部屋までそこまで距離はないですしね。分かりました。ですが前のようにホールの真ん中で倒れているとか止めて下さいね。ものすごく動揺してしまってあやうくフリーズするところなのでしたから。
では、お気をつけて……」
「って! 大丈夫ですか! だからあれほど、どこかお怪我は、ああ、御主人様……」