7月15日 02:40 機械技師の家の部屋にて
『つまり、ご当主様は血を吸わずとも、トリカブトやドクセリなどの毒物を摂取していれば、吸血鬼本来の力を全て取り戻せずとも、生き永らえることは出来ると思いますの』
「そうだったのですか。だから畑で採れた芽のあるジャガイモでなければ御主人様の力にはなれなかったのですね。
しかし、あのクッキーにそんな毒物が入っていたとは。何も知らずにお出ししてしまい、申し訳ありませんでした、御主人様」
『偶然とはいえど、結果は好ましかったのですから、それで全て良しということでよろしいのではないのでしょうか。
幸いにもご当主様の栄養となる植物は山奥に行けば多くあります。いきなり全て摘みとればそれまでですが、もしよろしければお庭で栽培致しますの。どうですの、ご当主様。まだ検証の段階ではありますが、うまくいけば人の血を吸わずに生き延びることも可能ですの。
悪いようには致しませんの。このパルサーに一つ、お庭の整備を改めて任せてもらえないでしょうか』
「おじいさん、いかがなさいましたか。
え、私の点検ですか。よろしいのですか?
分かりました。ではあとでそちらへお伺いいたしますね」
『おじいさん。重ね重ね御礼を申し上げさせて頂きますの。
この度は本当にありがとうございました。あなた様がいなければ、私は壊れたままでしょう。この恩はいつか必ずお返ししますの。どうぞあの山奥にあるお城へいらして下さいませ。心より歓迎いたしますの』
『ご当主様。このように城の外ではずいぶんと世界が様変わりしてしまっています。あなた様が吸血鬼だとしても、驚かれる人は確かに大勢いましょうが、あなた様が友好的な態度を示せばあちらも同じように友好的な態度で受け入れて下さる方もいますの。
それはもちろん、全ての人間がというわけではありませんの。城を襲った盗賊のように悪い奴らもいますの。でも、そうした奴らには堂々とあなた様の力をお使いになってもよろしいと思いますの。精一杯、こらしめてあげるべきですの。
ただ、受け入れてくれる方がいるのにも関わらず、あなた様がそれに気付かず閉鎖的な態度をとってしまうのは残念でなりませんの。それでは昔から態度を変えずに未だに抵抗し続ける森のエルフ達と変わらないのですの。つまらない人生になりますの。
私はそんなご主人様に御仕えしたくはありませんの。私の求めるご主人様は少なくとも笑顔で私を幸せにしてくれるお方、その笑顔を奪うような方は大嫌いですの。
ですので、どうぞご当主様もこれからはもっと城の外に出て、どうぞ社交的になりましょう。よろしいですね。
リスリルさんも、それを望んでいましたの。少なくとも、人間と対立するようなことはお嫌いみたいですの。城の当主として、しっかりとそこのところを考えて下さい。
以上で、私の進言を終わらせて頂きますの。ご無礼をお許しくださいませ』
「私も考えを改めなければならないようですね」
『いえ、ブライト様はどうぞそのままでいらして下さい。変わらなければならないのはご当主様、お一人です』
「そうはいきませんよ」
「しかし、どうしてそんな毒入りクッキーを作ったのですか、パルサーさん」
『それは乙女の秘密ですの。もうどうだっていいじゃありませんの、ブライト様』
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