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毒蜘蛛パルサー -romance for you remix-  作者: 朝比奈和咲
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7月15日 01:50   開かずの通路より繋がる地底湖にて

 読者の皆さま、いや、パルサーをお雇いになられた御主人様とここでは申し上げておくべきであろうか。

 私は作者である。この小説の裏設定では身勝手な神様として扱われる存在である。

 突然で恐縮ではあるが、物語の進行を妨げる作者の介入をお許し願いたい。御主人様の気分を害さぬためにも、手短に済ますゆえご容赦願いたい。

 二つのことをお許し願いたい。

 一つは少々時間を遡ることお許し願いたい。現在の時刻より15分、時間を遡らせて頂く。

 もう一つは、城に残されたパルサーの様子をお見せすることである。


 分かりやすく言えば、御主人様のいない城に在中するパルサーの01:50の様子を作者の都合により描くことをお許し願いたい、と本当に身勝手なお願いである。

 ここまで読んで下さった御主人様には、この行為が如何にこの物語を破綻させるかお分かりになるかと思う。

 誠に申し訳ない。しかし、お許しを願いたい。


 クライマックスまでもう少しです。7月15日の02:40にこのお話は終わります。

 ここまでお読みになって下さった読者様、本当にありがとうございました。

 どうぞ最後までお付き合いを、どうぞよろしくお願いします。



 7月15日  01:50  開かずの通路より繋がる地底湖にて



「なるほどねぇ。あなたがこの前やって来た新しいメイドさんだったのねえ~。

 パルサーねぇ。素敵な名前じゃないの~。あたしはリスリルよ~。

 見ての通り、ウンディーヌなの~。どうぞよろしくねぇ」

『こちらこそよろしくですの。

 それよりも、ずいぶんと広い地底湖ですの。照明は天井や壁にあるランタンだけのようで。灯りも点けずに、お暗くないのですの?』

「水中のほうがもっと暗いわよぅ。でも、居心地はそっちのほうが遥かにいいわぁ。

 それよりも不思議なお人ねぇ。ウンディーヌに会うのは初めてではなくてぇ?」

『初めてですの。ただ、昔、私がお仕えしていた御主人様の中に魔法使いのお方がいましたので。

 精霊に関する知識は一通り知っていますの。ただ、ウンディーヌが好戦的だとは知りませんでしたの。挨拶もなしに水鉄砲とは卑怯ではありませんの』

「あら~ん、それは違うわよぅ。あれが私の挨拶なのよぅ。それに当たらなかったし、いいじゃないのお。

 それにウンディーヌは喧嘩大嫌いよ~。だって、喧嘩したら汚れちゃうじゃないのぅ。水が汚れたら、命の危機じゃないの~、水に棲む精霊としては。違う~?」

『知りませんの。それよりもどうして裏の井戸を壊したのですの? ポンプが水で空高く打ち上げられるだなんて聞いたことありませんの。早く水を止めて欲しいですの。水が勿体無いですの。』

「水の心配をしてくれるだなんて嬉しいわぁ~。

 井戸を壊したのはあなたを呼ぶためよ~。もしかして気付いてなかったのぅ?」

『それならばあなた様から私のところまでお越しになられればよろしいのでは? それともここから出られないと? 実体として存在できるのならば水から出て歩けるのでは?

 それもあるかもしれませんの。あの扉に何か細工でもされているので?』

「すごいわねぇ。どうしてそんなに勘が鋭いのかしらん。

 魔法使いにそれも教えてもらったわけなのお?」

『過去を話せば長くなりますの。多くの生物は自分に関わる過去にしか興味を持たない。

 違いますか?』

「いやん、そんな睨まないでよぅ。その言葉、私も知ってるう。頭良い~。

 あなた、少なくともブライトより強そうだしぃ、闘ってみたいのもあるんだけど~、それよりもせっかく出会えたのだから、そのことにまずは感謝して、お話しましょうよぅ。

 それと、井戸の水はもう止めたわよぅ。城の水は全てここから賄われてるのぅ。これ、あなたが知りたかったことじゃなくてぇ?」

『左様ですか。それならばお庭の水に関しての心配はなさそうですの。

 ウンディーヌの泉ですか。伝説によれば、医者にとって厄介なものになりましょうね』

「そうねぇ。少なくともここの水を毎日飲んでいれば、病にかかることもないでしょうし、それに年老いることなく死を迎えることも可能ねえ。不死は無理よぅ、だけど不老は保証するわあ。

 でも、アンドロイドのあなたにはどうでも良いお話よねえ」


「あらん、なにを悩んだ顔しちゃって。

 なんか気付いたのぅ? この城はあなたにとってはおかしなことばかりよねえ。

 答えが欲しいんでしょう、いいわよう。たぶん、答えてあげるう」

『……、そうですの。あなたに出会ってしまったせいでまた悩みが一つ増えてしまいましたの。

 ご当主様は、何者ですの? ここの水を飲んでいれば元気なはずですの。

 それとも老衰には敵わないと? それともその水には延命の効能もあるとでも仰いますの?』

「あら~ん。やっぱりブライトは何も話していなかったのねえん。

 ただ、あいつの気持ちも分からないのでもないけどぅ、どうしよ~」

『またブライト様は何かを隠しておられるのですね。あのご当主様のために』

「あら、急に怒っちゃって、なになに、ブライトのことが気になるの~?」

『ええ。ブライト様は私のプリンスですの』


「ちょっと、笑わせないでよ、あは、おもしろ、面白いこというの――」

『そんなに面白かったですの?』

「ええ、なに、私と闘う? そんな目で見つめられたらこっちもやりたくなっちゃうじゃないの」

『いえ、闘う気はございませんが、あなた様がどうしてもというのなら』

「なによそれ~、つまんないわねえん。そんなお約束のような言葉はいらないわよう」

『それで、ご当主様は人間ではない、ということでよろしいのです?』

「そうよ~。吸血鬼なのよう。とは言っても、人間と吸血鬼のハーフだけどねえ。

 だから、ここでなくても水は体に合わないのよう。体に合うのは人間の血液だけ。それもとびきり若いやつの。

 人間から血液を奪うことが嫌いみたいでねぇ。ずーっと飲まずに我慢してたんだけどぅ、そうするとどんどん体が弱くなってきちゃったの~」

『吸血鬼……、ですの?』

「そうよう、驚いちゃった?」

『ええ。非常に驚きましたの。魔女狩りと共に滅んだと思っていましたの』

「そうよねえ。でもいたのよここにぃ。

 それで、彼らは城から出て行ったみたいねぇ。あなたも着いて行きたかったけれど、駄目だって断られちゃったんでしょう。かわいそうにぃ~」

『……。』

「何をしにいったか、もう分かるわよねえ」

『吸われた人間は、どうするですの? 放っておいたら吸血鬼になりますの。そうなればいずれ村の人間全てが吸血鬼になりますの。

 吸血鬼はたしか、吸血鬼の血を好みませんでしたの』

「そうなの~。そこが厄介なのぅ。

 ブライトはそのこともよく知っていて、つまりは変化するまえに殺してしまうおつもりなのよぅ」

『人間と吸血鬼のハーフでも』

「実証済みぃ。だから、あの子は嫌がってるのぅ。

 いずれは乗り越えないといけないと分かっているんだけどねえ」

『左様ですか。では、ここでうかうかとしておられませんの』

「あらぁん、どこへ行くつもりなのぅ?」

『お二人を止めに。今ならまだ間に合うでしょう』

「どうしてぇ? 止めたらあの子、死んじゃうかもしれないわよう」

『それで結構ですの。私はご当主様が死んでも構いませんので』


「あらぁ、ここのご当主様を殺すおつもりなのぅ?」

『いえ、今は止めに行くだけですの。

 直接手を下さなくとも死んでくれるのならば放っておくのがよろしいですの』

「ひどいこと言うのねえ。

 それは本心で言ってるの?」

『私はアンドロイドですの、嘘をつくとでも?』

「喧嘩を売るのが上手ねえ~。せっかく会えたのに残念だわあ」

『喧嘩をする前に、もう一つだけお聞きしたいことが』

「なにぃ? 一つと言わずいくつでも聞くわよう」

『ジャガイモが好物なんですの? ご当主様は』

「はひ? ええ、そうよぅ。ジャガイモがお好きみたいなのう。

 もっと言うなれば、どういうわけかジャガイモを食べると元気が出るらしいのよぅ」

『それも、畑から採れた育ちに育ったジャガイモですの?』

「よく御存じで~。市場で買ったジャガイモだと駄目だったみたいなのう。お口に合わないみたいで、あの子はやっぱり吸血鬼だからねぇ、血が一番いいみたい。

 あのジャガイモのせいで今まで生き延びれてきたんだけどお、おかげで私の好きな吸血鬼らしくなくなっちゃってえ~。せっかくの綺麗な赤い瞳もなくなっちゃうし、魔術を使えば死んじゃうくらいまで衰弱しちゃったしぃ。

 でも、いまのままのほうが本当はいいんだけどねえ~。元通りになって強くなられちゃったら、私が勝てなくなっちゃうしぃ。

 どうして私がここにいるのかとか、聞きたい~?」

『結構ですの。吸血鬼とウンディーヌとはこれまた最悪な組み合わせのようで』

「すご~い。そこまで分かるなんて。

 ねえねえ、他に聞きたいことはあ? 私、あなたのこと好きかも~」


『もしかしたら、血を吸わずとも生き延びれるかもしれませんの』

「ジャガイモを明日にでも作れる方法を知ってるのぅ?」

『いえ。あのジャガイモの調理法を見ていた私が絶句したことを思い出しまして。

 皮も芽も取らずにすり潰して固めて焼いてクッキーみたいにして。あんなの食べたら中毒になって死んでしまうのに、それを平気で食べていたので』

「そうよう。皮と実の間が一番栄養があるのじゃなくてえ?」

『そうかもしれませんの。

 もう一つ。夜中に目が赤くなるのは、元気な証拠で?』

「あれえ? あなた見たのう?

 おかしいわねえ。ジャガイモ食べてもそこまで回復はしないはずなのにい」

『分かりました。もう結構です。

 私の勘を信じてもらえるのなら、リスリルさんでしたか。どうかこのまま私を止めに行かせてもらえませんか。

 たぶん、血を吸わずとも元気に生き延びる方法がありますの』

「信じたいけれどぅ、私にはいまどうしていいのかわからないのよぅ。

 あの子が元気になってから私はあなたと顔を合わせて、そして全てのことを打ち明ける予定だったのだけど、もう私も待てなくてねえ。だって、あなた、庭園を作りたいのでしょう。私も同じ意見だったしい、もしかしたら気が合うと思っていたのにい、なんか予想と違って全然おっとりしていないしぃ」

『無駄話はやめましょう。ぐずぐずしていますとあのお二人が山を下りてしまいますの』

「そうねえ。でも一つだけ聞かしてぇ。

 ジャガイモの中毒ってなにぃ?」

『ジャガイモの芽にはソラニンという中毒を起こす成分が入っていますの。毒ですの。きちんと治療しなければ死にますの。

 それを食べて元気になるということは、ご当主様はジャガイモではなくてその毒が好物なのでしょう』

「根拠はぁ? 推測までのお話ぃ?」

『あなたに言っても大丈夫そうですのでお話しますの。

 ドクセリとトリカブト入りのクッキーを全てお食べになられたご当主様は、その夜に目を真っ赤にされていましたの。夜中に私が確認したので間違いありませんの』

「トリカブト? ドクセリ? なにそれえ?」

『お気になさらずに。ただ目が真っ赤になるということは、元気になったということでしょう』

「そうねえ。てか持ってるのぅ、それぇ?」

『大量にありますの。山奥に行けば。

 もう時間がありませんの。お話はまた後で、行かせてもらいますの』

「あらん、どうしてえ? 止めて来てくれるのぉ?

 でもそうしたら、あなた、あの子を助けることになっちゃうじゃないのう。

 殺したいんじゃないのう?」

『では、殺せるのですか、ご当主様を』

「あなたには無理よう。やり方は、心臓に杭を打ち込めばいいのよう。血液の循環を止めればいいのだけど、眠っている間にそれをやられないためにブライトが常に見張っているのよう。彼も本気を出せばなかなか強いのよう。

 ブライトに勝てるぅ? あの子を殺すならブライトを先に倒さないと厄介よう。杭を打ち込んだところですぐに抜けばまた復活するのだしい。

 もちろん、私のことも忘れないでねえ」


『私は、ロマンスに憧れ、それを求めて生きているのですの』

「あらん、どうしちゃったのぅ、急にぃ」

『ロマンスは、誰もが羨むような生活なのですの。つまり、麓の村の住人がこの城に憧れ、そしてここで生活する私に対し羨望の眼差しを向けなければいけませんの。

 それがロマンスですの。

 ロマンスは私を幸せにする唯一の食事なのですの。そして、ロマンスに完璧の形などない、いつまでも私はロマンスを求め続けることができますの。

 なぜかといえば、世の美しい男は、嫌なほど醜く歳をとり衰えていきますの。その度に私はロマンスの形を変えねばなりませんの。

 あなたもお分かりでしょう。愛する人が醜く変貌するのにも関わらず、私は変貌せずにそして私だけが生き残る。

 儚いの一言で済ませられますの?

 だから私はプリンスを求めることをやめ、ロマンスを求めることにしたのですの。ロマンスを求め続けることで、私はプリンスが変貌していこうが、その時に応じたロマンスを求めることが出来る。

 そしてこの城に辿り着いたのですの。


 この城でお仕え出来ることは私にとってこれ以上にないほどのチャンスですの。ブライト様はプリンスにふさわしいお方ですし、この古城も今はみすぼらしいですが私の手によって必ず蘇らせますの。

 そうなれば、あとはこの城に私が住んでいるということを誰かに教えねばなりませんの。私を羨んで下さる人々がいなければ虚しいだけですの。

 ブライト様がこの城のふさわしい城主となったとしましょう。もちろんブライト様は私だけでなく、多くの来賓から見て素晴らしいプリンスとして存在して貰わなければなりません。そして、その隣にいる私に対し多くの来賓がハンカチを噛む思いをするの。

 ブライト様は決して誰にも冷たく接しず、誰からも愛される城主としてこの城に居続けるの。もちろんアンドロイドだということを多くの人間に知らせておいておくの。いずれは年老いて死んでいく人間と違い、ほぼ永遠に生きられる私とブライト様にまた多くの羨望の眼差しが浴びせられて、私はそれを背中に受けてチクリチクリと痛い思いをしながら生きるけれど、でもブライト様はそんな私をそっと思って下さるの。いつも隣にいてくれて、優しいあの笑顔を私に見せて私の心を救ってくださるの。

 この城では月に何回もパーティーが開かれて、エントランスホールでは大勢の来賓の方々が赤い絨毯の上で踊り回るの。華やかな衣装を身に纏った多くの女性は必ずいつか私のところからブライト様を奪おうと近付いてくるに違いないの。でも、私は負けないの、ブライト様はそんな女に絶対に屈したりはせず、だけどあの方は優しいから手がどうしても伸びてしまうの。それは罪ではない、愛なの。

 そう、愛。恋ではない、愛なの。あの方は多くの女性を愛してしまうの――』

「ストーップ! ストップストッープ!!

 どうしちゃったのよう。まだか頭の中ショートしちゃったのう?」

『失礼な。ロマンス夢見る少女の振る舞いになんてことを言うのですの。

 まあ、しかし少し口が軽くなりすぎた部分はありますの』


『この城に住む者として、余計な敵を作りたくないのはあなた様も同じではありませんの?』

「リスリルって呼んでいいわよう。さっきそう呼んでくれたじゃないのぅ。

 まあねえ、余計な敵は作りたくないわあ。私の命の源の水を奪う人間には特に会いたくないのよねえ。なにより、水を血で汚したくないしぃ」

『私もこの城を仇として憎む者を生み出したくないのですの。

 ご当主様が吸血鬼として行動すれば、必ず敵が生まれてしまうに違いありませんの』

「そうなのよねえ。それは私もそうだと思うのよう。

 人間って、数が多いしい、集団で来られると厄介なのよう」

『なら、人間と共存の道をとるのが最善でしょう。

 生きるために人を殺さねばならぬのなら、いずれ行き着くところは戦争ですの。そうなれば勝とうが負けようが、私の求めるロマンスとは程遠くなってしまいますの。

 それだけは絶対に、絶対に、絶対に! 絶対に嫌ですの!

 私はこの城に住む者として、誰もが羨むような生活をしたいのですの。城の外部に住む者がいつもこの城で暮らすことを夢見る、そうあの闇夜を飛び回る梟ですら木の無いこの城に住みたいまで思うような生活を。

 そのためには、ご当主様がところ構わず人を殺める行為など絶対に許されないのですの。いずれ城を攻め滅ぼされるエンディングなど想像もしたくありませんの。悲劇のヒロインに涙を流すのは恵まれたメス豚だけで十分ですの。

 口が過ぎましたの。汚い言葉使いをどうぞお許しください』

「あたしは豚じゃないわよう。ウンディーヌ、怒りはしないわよう」


『長話になってしまいましたの。今から追いかけて間に合いますかどうか』

「間に合うわよう。ジャガイモ食べたとしても、あの子はたぶん走ることは出来ないわよう。ブライトがそうさせないと思うわあ。

 でもどうやって追いかけるのう? 山を下りる道は一本ではないしい、先回りして村で待ち伏せするのが良いかもしれないかもねえ」

『ご心配なく。私は鼻がよく効くので』

「はなぁ?」

『ええ。ヘンゼルとグレーテルが家に帰れなかった理由を御存じで?

 あの二人は自分の住む家の匂いを覚えていなかったから家に帰れなかったのですの。同時に、お菓子の匂いを嗅ぎつけたから魔女の家に辿りつけたのですの。

 あの二人の衣服を洗濯していたのは私ですの。私の使う洗剤は独特の甘い匂いをかすかに衣服に残すのですの』

「犬さんみたいに追いかけられるのぅ?」

『ええ。道が数本しかないのなら可能ですの。何度もしたことありますので。

 もう時間がありませんの。ここでリスリルさんに会えてよかったですの』


『リスリルさん。最後に一つだけ、よろしいですの?』

「なあにぃ?」

『この城に住む生物は、リスリルさんと私を含めて四人、ということでよろしいですの?』

「とりあえずはねえ。正しく言うと違うわあ。

 でも、今のところは四人よう。話すと長くなるけど、どうするう?」

『分かりました。ありがとうございました』

「仲間外れは、誰だって嫌だものねえ。

 あなたがここに来てからあ、ブライトとここで何度か話をしたけどお、話を聞いていてあなたのことが不憫でならなかったわあ。

 いつか不満がドカンってなるんじゃないかって思って、それであの二人がいないところで呼んでみたんだけどう、どうやらあなたは大丈夫そうねえ」

『ええ。情報不足はアンドロイドにとって、特に戦時用の密偵として作られた私にとっては一番の不安なんですの。

 ご主人様にはそのことをきちんと伝えておかねばなりませんの。情報を隠すにももっと上手に隠してほしいですの。どうして比較的新しいデザインの婦人服がブライト様の部屋の隣の客室にあるのか、ブライト様にお尋ねになっても愛想笑いをするだけですし。あの方は嘘が下手すぎますの。

 でも、そこがまた良いところですの。

 あの服はリスリルさんの物で?』

「いやん、見ないでよう、えっちぃ」

『そうですか。安心いたしましたの。もうあの特性クッキーを焼く必要もなさそうですの。

 では、行ってきますの。あの二人を連れ戻したら、四人でお食事でもしましょうか』

「いいわねえ。楽しみにしてるわあ」

『ええ。では、失礼します』



『はあ……、全ては私の思い違い、馬鹿馬鹿しい。

 しかし、とんでもないところに来てしまったようで。

 でも、これ以上にない楽しみが待っていそうなところですの。


 さて、私も少しだけ思うままに行動させてもらいましょう。

 あの二人も死ぬことがないのなら、好き放題に演じても文句はありませんの』

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