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毒蜘蛛パルサー -romance for you remix-  作者: 朝比奈和咲
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7月13日 14:10  開かずの扉の前にて

『お待たせいたしまして、申し訳ございません。

 ブライト様に伝えておきましたの。ブライト様は手が離せないようで、私たちだけでとのことですの。

 では、行きましょう。ほら、早く行きましょう』


『開く音がしないのですの。こんなに錆び付いているのに。

 ミステリアスな扉ですの』


『ご当主様。後ろに着いてよろしいですの?

 こうも暗いと、私もなんだか気味が悪くて……』


『扉を閉めます? ああ、このままで結構だと仰いますの。

 分かりました。へえ、壁にランタン、明かりはこれだけですの』


『ご当主さま結構ですの。ランタンを灯す前にこちらを向いて下さります?


 私はランタンを点けずとも夜目が効きますの。

 ですから、あなたの首をこうして絞めてやることも出来ますの!』



『いい加減にしなさいですの……。あなた様はどこまで私を馬鹿にすれば気が済むと思っているのですの……。

 ああ、失礼。人間は絞めすぎると死んでしまうのでしたね。

 いま、お手をお放しになりますの……』



『ぜえぜえと呼吸が苦しそうですが、いまの私だって呼吸が出来ないほど胸を締め付けられる思いですの……、そのままでいいので聞いてくれれば結構ですの。


 ご当主様はいったい何をさせたくて私をここにお呼びになったので?


 もしや新入りのアンドロイドには何も教えずにただ黙って仕事をしろとでもいいたいのですの? 掃除と洗濯と、さらに誰も食べない料理をするだけですの? では私が食べられない料理を私が作っているときの気持ちをお考えになられたことはありますの?


 何が開かずの扉ですの。私がいない間に開いたようで、私が入ってはいけないのなら初めからそう申しつければいいではありませんの。この通路の先にある物なんて私は興味ありませんの。私が興味あるのはこの城でのロマンス溢れる生活ですの。ブライト様と素直にお話が出来れば今は満足ですのに、あなた様のせいでそれすら叶わない』


『お体が弱いそうですが、それすらも今の私にはあなた様の仮病にしか思えませんの。ずいぶんと呼吸をお辛そうにしておりますが、いい加減にして素直に息を整えればよろしいのではないでしょうか? 常備薬を調べてみましたが、呼吸器官系の薬は一つも常備されておりませんでしたの。ですからブライト様に村で買ってきましょうかと聞けば、いらないとの声。あなた様に必要ないのならどなたに必要なのですの。


 これは親切心からの御忠告ですの。心の片隅に置いて貰えると嬉しいですの』


『過去七年間、それまで私は様々な主人様に御仕えして、そして此処にやって来ましたの。この城を一目見た私は胸を躍らせてこの城で仕えられることを喜びましたの。


 それが来てみれば、いつもよそよそしいブライト様に、体が弱いというだけで何もしようとしないあなた様の二人だけなの。ブライト様はどうせあなた様のわがままを聞いているだけなので?


 最低な当主様です、あなたは。私が仕えてきた中で一番最低なご主人様ですの。性根が腐っていますの、人の心というものをまるで分かろうとしないので?』



『目を見開いてこちらを睨んでいるようですが、なにか言いたいことがあればはっきりと申せばいいじゃありませんの。睨むだけでは何も伝わらないのですの。


 井戸の水が一日で復活しますの? 山奥に川などはございませんでしたの。あのポンプの下はどうなっているのでしょう。地下水をくみ上げているのでしょうね、きっと。しかし、もう興味はございませんの。ただ、あなた様がどうして隠していたのかには興味はありますの。ボタン一つで水が復活する装置でもあるのでしょうね。馬鹿馬鹿しい。


 忠告ですの。そんなことをしていると、本当に一人ぼっちのまま死んでいきますの。人の人生はとかく短いのですの。


 村には暖かい人たちばかりでしたの。誰もあなた様にそっぽを向くようなことはしないと思いますの。一度、村まで下りることをお勧めいたしますの。そうして、多くの人とお話をすることがあなた様の一番の薬になるかと思いますの。


 そして、ブライト様をもっと自由にさせてあげてもよろしいのではないでしょうか? あの方と話しているのにどうしてあなた様の顔がちらつくのですの? 私にはそれが一番我慢の出来ぬことなのですの』


『私が人のように家を持ち家族を持ち、仕事としてここに来ているのならばまだ許せますの、きっと。しかし私は家もなく家族もいない、そして此処に住み続ける。

 いつまで私は扉の前だけを掃除するような気持ちでならなければならないですの? そんなに私が踏み入れてはならない場所が多いのですか? あなた様からそう言った言葉は一度も聞いておりませんし、私が信用できないのならそれでもう結構ですの。さっさと首をはねて下さって。どうせこんな城に未練など残しませんの』


『まだまだあなた様に仰りたいことは多いのですが、ここまでにしておきますの。


 この先に何があるのか分かりませんが、私は知らずに此処を出て行くことになるのでしょう。ブライト様とお別れするのはお辛いですが』


『では、失礼します。


 肩は貸しませんの。這いつくばってでも扉まで行き、そして自ら開けて外へどうぞ。それも出来ないのなら後でブライト様が御助けに来るでしょう。

 それとも他のお方がおいでになられますの? あなたの周りにはあと何人いるのですの?


 助けにこられた方にそこでどうぞ今起きたことをお話下さい。私はクビを切られるその日まで、アンドロイドとして働かせて頂きます』

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