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自己紹介欄掲載作品

覆面小説家、牛髑髏タウン登場?

チャララッチャッチャ~ン


坂野「さあ、今週もやって参りました、トークバラエティ番組『ところでこんなんどーですか』、司会の坂野美智子です! そして……」

柴野「同じく司会の柴野文義です」

坂野「秋の番組改編も無事に乗り切りましたね」

柴野「そうですね……。ところで今更ですが、この番組はどういう番組なんですか?」

坂野「……え?」

柴野「今までなんとなくやってきましたけど、今ひとつ何が行われてるのかよくわかってなくて」

坂野「まさか放送14回目にして聞かれるとは思いませんでした。この番組はアーティストや作家の方を毎回ゲストにお呼びして時間の許す限り作品を紹介して頂く番組です」

柴野「なるほど。毎回入れ替わり立ち替わり、どこの馬の骨だかわからない奴が来ては聞きたくもない自作のアピールをするから一体何なんだと思ってたんです。宣伝のためだけに来てるのがまるわかりで感じ悪かったですよね。合点がいきました」

坂野「ちょ、ちょっと柴野さん、オープニングから編集ですか? 勘弁して下さい」

柴野「大丈夫大丈夫。どうせディレクターが最近左遷を言い渡されてヤケクソになってるからノーカットです」

坂野「そ、それではゲストを紹介します!」

午髑髏「……どうも~。宣伝に来ました」

柴野「あ、聞かれてたみたい」

坂野「す、すいません! 失礼しました!」

(ピンポンパンポーン)

スタッフ「業務連絡です。柴野さん、4番に内線入っています」

(スタッフがコードを引きずりながら電話器を持ってくる)

柴野「え? 誰だろ……これ、繋がってるの? 受話器取ればいいの?」

坂野「ちょ、ちょっと! 今、本番中……え? 出るんですか柴野さん」

柴野「はい柴野です。あーご無沙汰。え? ニュースの神林さんがコーヒー飲みたいって? 僕に買ってこいって?  わかった。じゃあひとっ走り行ってくるよ」

坂野「し、柴野さん! ど、どこ行くんですか」

柴野「与えられた仕事はどんなつまらないものに思えても、喜んで引受けて完璧にこなせ。手を抜かない奴だけがもっと重要な仕事を任される。……いつも言っていることですよ、坂野さん」

坂野「司会進行よりパシリが重要な仕事なんですか?」

柴野「いつでも新人の頃のフレッシュな気持ちを忘れるな」

(ぐっと親指を立てて、会場を去っていく柴野アナ)

午髑髏「……ほんとに行っちゃいましたね」

スタッフ「安心して下さい。収録が終わるまでは戻って来ません。コーヒーを飲みたいのは神林さんだけではない予定です」

坂野「…………え、予定?」

スタッフ「では坂野さん、進行、よろしくお願いします」

坂野「は……はい。つまり一人でやれということでしょうか……。えと、それでは気を取り直して……ご紹介しましょう」

午髑髏「どうもこんにちは、タウンが来ましたよ~」

坂野「はい、今巷で密かに話題になり始めているのがこの方。覆面小説家として、その姿や経歴、年齢、血液型、家族構成、好きな芸能人や寝る時の姿勢など、全てが謎に包まれています。正体について様々な噂がありました。天才幼稚園児説。某国の政治家説。四人組説。はては人工知能説まで囁かれています。まさか出演いただけるとは思っていませんでしたが、その秘密のヴェールの下の正体が今夜いよいよ明らかになるんでしょうか! 私もワクワクしています」

午髑髏「ははは。知らなかったな。そんなふうに言われてるんだ。どうですかこうして目の前にして」

坂野「そうですね、見た目は……失礼かもしれませんが、ごく普通の男の人なんだなとちょっと安心しました」

午髑髏「そうですか。もっと奇抜な格好してくれば良かったかな」

坂野「はい、それでは早速牛髑髏タウンさんの……」

午髑髏「あ、違います」

坂野「はい?」

午髑髏「僕、牛髑髏タウンじゃないですよ」

坂野「…………え?」

(二人のもとに駆け寄ってくるスタッフ)

坂野「……え? あ、ちょっと失礼します、今スタッフのほうから連絡が……。え? 違う? 牛髑髏タウンさんじゃない? え、だって今日のゲストは……ほら進行表にも書いてあるじゃないですか。牛髑髏……え? 牛じゃない? よく見ろって? …………あ」

午髑髏「おわかりいただけました?」

坂野「う…………うま!」

午髑髏「はい」

坂野「う、うまです。牛じゃなくて、午! うまどくろたうん……? さん、ですか?」

午髑髏「はい。初めまして。午髑髏タウンです」

坂野「え、嘘。本当に? やだ。インチキじゃないですか」

午髑髏「インチキって、ちょっと、それは失礼でしょう! ただちょっと契約書に汚い字で書いてわかりにくくして、間違えられやすくしただけで」

坂野「そ、それがインチキです」

午髑髏「じゃああなた、江戸川乱歩にインチキだって言うんですか? 間違えたのはそっちでしょう」

坂野「な、何を江戸川乱歩に失礼なことを言ってるんですか! ……あ、いえ、失礼しました。えーと、つまり今日のゲストの方は覆面小説家の牛髑髏タウンさんじゃありませんでした。……いいのかな……。それでは改めて今日のゲスト、午髑髏タウンさんです。午髑髏さんは……えーとその、何をなさってる方なんですか?」

午髑髏「ははは。やだなあ。ゲストに呼んどいて、何をやってるは無いでしょう。下調べくらいしといてくださいよ」

坂野「……」

午髑髏「ああ、いいなぁ。その目付き。あなたのその目で街中のMっ気のある男が大喜びですよ」

坂野「……」

午髑髏「すいません、調子に乗りました。ため息つかないでください。えーと、僕もですね、小説を書いています。覆面小説家なんですよ、僕も」

坂野「はあ……。え? じゃあいいんですか? テレビに出たりして」

午髑髏「そういう意味じゃありません。僕は覆面をして小説を書いてるんです」

坂野「はあ? 覆面を……して、ですか」

午髑髏「理由を知りたいですか?」

坂野「いえ全く」

午髑髏「……」

坂野「それでは、どんな小説をお書きになっているかご紹介いただけますか?」

午髑髏「……。えーと、そうですね、ほら、ここに持って来ました。まず僕のデビュー作がこれ」

(鞄から本を取り出す午髑髏)

坂野「あ、はい。拝見します……。えーと、『話の早い赤ずきんちゃん』……なんかどこかで聞いたような」

午髑髏「まさか。完全に僕のオリジナルですよ。いいから読んでみてください」

坂野「えーと……。あ、会話文から始まるんですね。えーと……」



『話の早い赤ずきんちゃん』    午髑髏タウン


「ねえ、どうしておばあちゃまの耳は」

「それはお前を食べるためさぁ!」

「早い早い」



坂野「……え? あれ、これで終わりですか?」

午髑髏「あ、読み終わりました? どうでした感想は」

坂野「どうって……その、三行しかないんですが」

午髑髏「凝縮されてる訳ですよ。その三行に、宇宙がつまっている」

坂野「宇宙スッカスカみたいですけど」

午髑髏「宇宙って言葉はそもそもそういう意味です。限りなく広がる時空間……」

坂野「矛盾だらけのコメントに私、目眩がしそうです。結構分厚い本なのにこの短さ……。残りは白紙ですか」

午髑髏「はい、残りのページは落書き帳として大活躍です。一冊で二度美味しい」

坂野「一度目の美味しさが私にはわかりませんでした」

午髑髏「それから、こんなのも書いてますよ」

(鞄から二つ目の本を取り出す午髑髏)

坂野「えっと……『まんじゅうはそれほど怖くない』……。その、もうちょっとタイトルを考えてはどうでしょうか」

午髑髏「タイトルで中身が判断できるなら本は背表紙だけ売ってればいいことになります。ほら、読んで読んで」

坂野「はいでは失礼して……」



『まんじゅうはそれほど怖くない』    午髑髏タウン


「俺はまんじゅうが怖いんだ」

「よしわかった。まんじゅうへの恐怖を克服させてやる。誰か山ほどまんじゅう買ってこい。なあに。いきなりアンコが入った本物じゃハードル高いから、代わりに辛いものを入れて慣らしていこう、な? 手始めにまんじゅうの皮で包んだピクルス」

「え?」

「ガリ。ラー油。タバスコ。わさびにカラシ。……全部食べてもらうからな」

「おい、ちょっと……」

「くさや……。シュール・ストレミングもいいな。くくく。覚悟……じゃなかった、期待しとけよ」

「や……やめてくれ! 俺が悪かった。調子に乗った。克服だなんて別にそんなのいいよ。頼むやめてくれ!」

「おいおい……遠慮すんなよ。怖いからって逃げちゃだめだぜ? 俺たちに任せておけ」

「頼むよやめてくれ! まんじゅうはそれほど怖くないんだよぉ!」



午髑髏「お、読破しましたか。どうでした?」

坂野「えーと……また、とても短いみたいですけど」

午髑髏「感想、それだけですか? ちょっと今の若い子には難解だったかな。実はこの作品はね、単行本数十冊にも及ぶ長編SF小説をぎゅっと短く圧縮してみた意欲作なんですよ」

坂野「意欲まで圧縮されてしまっているように見えますが……。どこがSFなんですか?」

午髑髏「江戸時代なのにピクルスとか言ってるあたりです」

坂野「それはただ世界観がめちゃくちゃなだけです。何がシュール・ストレミングですか」

午髑髏「精読、痛み入ります」

坂野「し、してません精読なんて。あの、これも後ろのほう白紙なんですね……。やっぱりらくがき帳ですか?」

午髑髏「それはトレーシングペーパーになっています」

坂野「え。なぜ」

午髑髏「もちろん、若い子が僕の小説を書き写して練習するためですよ」

坂野「そ。そんなことする人いませんよ。書き写すにしてもトレーシングペーパー使ってどうするんですか」

午髑髏「何かは伝わるでしょう」

坂野「伝わりませんよ。字の形をトレースして何になるんです。活字ですし……。えーと、ま、まだありますか?」

午髑髏「そうですね。じゃあこんなのはどうですか?」

(もう一冊、本を取り出す午髑髏)

坂野「『女湯の男の子』……ですか」

午髑髏「今、エッチなタイトルだと思ったでしょう」

坂野「は?」

午髑髏「実は内容もですね、心は大人のまま身体が少年になってしまった主人公が、特に推理を働かせて事件を解決したりもせず、子供なのをいいことに女湯に入り放題だぜイエーイという話です」

坂野「……」

午髑髏「だから18禁です」

坂野「はあ」

午髑髏「読まないんですか?」

坂野「読んだほうがいいのでしょうか」

午髑髏「ええ。是非。カメラの向こうで興奮しながら見ている男性視聴者のためにも、音読でお願いします」

坂野「はあ、では……」



『女湯の男の子』    午髑髏タウン


 やあ。僕は35歳だけど身体は8歳さ。今日も今日とて女湯に行くぜ。

「おや坊ちゃん、今日もきたのかえ」

「うんお婆ちゃん。僕子供だから子供料金でいいよね」

「うんいいよ

 <風呂に入るまでの描写は面倒なので省略します>

 わーいわーい、女湯だ女湯だー。ぴちぴちのお姉さんがいっぱいだー。

 うわ、あっちには<自主規制>、こっちにも<自主規制>、そっちなんて<自主規制>



坂野「そっちなんてじしゅきせい……あの、これ、何が面白いんですか?」

午髑髏「うーん、間接表現が妄想をかき立てるかなと思ったんですが、やってみるとあまり面白くないな……。音読には全く向きませんね」

坂野「これは間接表現とは言わないと思います。あの、私が言うのも何ですけれど、女性の描写くらいちゃんとしたほうがいいのでは」

午髑髏「ぴちぴちのお姉さんと書いてるじゃないですか」

坂野「それで伝わるなら誰も苦労しません」

午髑髏「行間を読んで欲しいなあ」

坂野「それは行間を読むではなくて妄想と言うんだと思いますが。あの、もういいでしょうか」

午髑髏「じゃあ最後にこれはどうかな」

(再び本を取り出す午髑髏)

坂野「えっと……『メリーさんの羊2150』……。何でしょうかこれは」

午髑髏「はっはっは。傑作ホラーですよ。断言してもいい。これは最後まで読むことはできませんよ?」

坂野「え? そんなに怖いんですか?」

午髑髏「ええ。なにせ、作者である私自身がこの本を最後まで読めたためしがない」

坂野「……それはとても怖そうですね。では失礼しまして……」



『メリーさんの羊2150』    午髑髏タウン


 羊が一匹。羊が二匹。羊が三匹。羊が四匹。羊が五匹。羊が六匹。羊が七匹

<中略>

 羊が六十四匹。羊が六十五匹。羊が六十六匹。羊が六十七匹。羊が六十八匹

<中略>

 羊が三百四十二匹。羊が三百四十三匹

<中略>

 羊が二千百四十九匹。羊が二千百五十匹。



坂野「あの……。読み終わりましたけど。あの…………あの、午髑髏さん?」

午髑髏「……」

(寝ている午髑髏)

坂野「寝てしまったんですか。なんとなく途中でそんな気がしましたけど。あれ? というか、観客席の皆さんも寝ちゃってますね」

(静まり返っているスタジオ)

坂野「えっと……起きている人がいないみたいなので、本日はここまでです。それではまた皆さん、御機嫌よう……」

(暗くなっていくスタジオ)

坂野「……それにしてもメリーさん関係なかったな……」


チャララッチャッチャ~ン

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