もし、彼の性格が違っていたら (???&ユーリ)
拍手お礼でのせていたお話です。
「……リ、……てく……さい、ユーリ」
呼ばわれ、体を揺すられる感覚に、ユーリはゆっくりと意識を浮上させた。
ゆるゆると眼を開けると、眩いばかりの光りが煌く。
今は夜であるはずなのにと訝しみながら、何度か瞬きを繰り返す。
徐々に視界がクリアになり、目の前にあるものを認識した途端、ユーリは跳ねるように飛び起きた。
「……な! 何であなたがこんな所にいるんです!」
ずりずりとベッドの上を後ずさり、ユーリは侵入者から距離をとる。
たくさんの仕事を抱える彼は、確かに夜更けに訪問してくることが多い。
だが、自分が寝ている間に部屋に侵入することなど、今まで一度もなかった。
驚愕に眼を見開くユーリの前で、彼は不思議そうに首を傾げた。
「何故、と言われても。心から慕う人に、会いたいと思ってはいけませんか?」
「……は?」
ぽかりと口を開けるユーリに、目の前の人物はお綺麗な顔でくつくつと笑う。
あまりにも普段の彼と異なる雰囲気に、ユーリは思わず眉根を寄せた。
「あなた、頭は大丈夫なんですか? どこかに強くぶつけたとか」
「至って正常ですよ」
(いやいやいや、明らかにおかしいでしょう!)
心の中で突っ込みながら、笑みを浮かべる彼を凝視する。
確かに、ぱっと見た目はいつもの彼と変わりはない。
だが、自分の知る彼とは雰囲気が違いすぎるし、そもそも口調が違う。
「あなた、本当に、ラズフィス陛下なんですか?」
「それ以外の、誰に見えます?」
両手を広げ、目の前の人物、ラズフィスはその笑みを深くした。
あまりの衝撃に頭痛がして、ユーリは俯いて頭を抱える。
「何だ、これ。夢? 夢なら早く覚めて下さいよ」
「ユーリ」
ぶつぶつと呟いていたユーリだったが、思いの外近くから聞こえた声に顔を上げる。
直ぐ近くまで迫っていたラズフィスに、口元が引き攣った。
固まって動けない彼女を気にすることなく、ラズフィスは更に距離を近くする。
睫の長さまで分かりそうな距離まで近付いたところで、ユーリは我に返り慌てて彼を押しのけた。
「ちょっと、近すぎやしませんか! っていうか、こういう事は後宮でやって下さい。あなたなら、可愛いお嬢さん方をより取り見取りでしょうに! あ、ちょっとうらやましい」
諦めずに近寄ってこようとするラズフィスから顔を背けていたユーリは、掌に押し当てられた感触に肌を粟立たせた。
振り返ると、ラズフィスが自分の手に唇を寄せている。
小さく悲鳴を上げると、彼は視線だけをユーリに向け、妖艶に微笑んだ。
「なら、そのお嬢さん方はあなたに差し上げても構いませんよ、ユーリ。その代わり、寂しい独り身である私の側に、ずっと居てください」
「……っ!」
「ユーリ」
軽く歯を立てられ、ユーリは思わず喉を鳴らす。
段々と近付いてくる綺麗な顔に、全身を硬直させた。
あと少しで二人の距離がなくなるという瞬間、ユーリはラズフィスの綺麗な顔に片手を叩き付けた。
「……っチェ……チェンジ!」
大声を上げた途端、ユーリは眼を見開いた。
肩で息をしながら辺りを見渡すと、部屋の中には燦々と太陽の光りが差し込んでいる。
そして、自分が横になっていたのはベッドではなく、客室のソファーであるらしい。
安堵の息を吐いて、ユーリは肩を落とした。
「ユーリ?」
かけられた声に過剰に反応して、ユーリは勢い良く飛び起きる。
向かいのソファーで茶を飲んでいたらしいラズフィスは、眼を丸めてこちらを凝視していた。
じっと彼を見返していると、不思議そうに首を傾げる。
「随分と魘されていたぞ、どうかしたのか?」
その反応が、自分の知るラズフィスそのもので、ユーリは大きく息を吐いた。
「陛下」
「何だ」
「どうか、あなたは、あなたのままでいて下さい」
「あ……、あぁ」
疲れたように頭を垂れるユーリを見詰めながら、ラズフィスは訳が分からないながらも頷く。
眠っていたと言うのに、精神を消耗したらしいユーリに、茶でも淹れてやろうかと席を立つ。
そんな王の後姿を見送り、彼女はずるずるとソファーに倒れこんだ。
昔のメモを発見し、初期設定ラズフィスに驚いた勢いのまま書いた短編です。
ラズフィスがこの性格だったら、また違う常闇ができていたでしょうね(笑)