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点滅信号

=第6話「点滅信号」=


次の日の朝。

フィニは、寝室に行って2人が寝ているのを確認すると、

起こさないようにゆっくりとドアを閉めた。

時刻は午前5時。

ニナは患者扱いなのでまだ起こさない。

セシルは普段から7時起きなのでまだ起きない。


「まさか、こんな事になるなんてな」


ぽつりと独り言を言って、無表情を決め込んだニナの寝顔を思い出す。

セシルのせいで頬が赤く腫れていた。


フィニはパソコンを開いて、何かを打ち込んだ。

画面が明るくなり、ロゴタイトルが現れた。

「H.P.V」と書かれたロゴ。

しばらくすると、ロゴの下に小さな文字が出てきた。

「Heart Producer Vincent」と書かれている。

フィニは、それを訝しげな表情で見つめていた。


夜、セシルがニナと話しているとき、彼は電話をしていた。

その相手は、ヴィンセントの知人だった。

ニナの事を知ってる人間を手当たり次第に探していたのだ。

そして、ニナを知る男が1人だけいた。

その男が教えてくれた事。

それは、非現実な職業をこなしているフィニでも信じられない事だった。


『ヴィンセントは自分の大事な人形の為に、

 あるプログラムを作成したんだ。

 それは、信じてもらえないかもしれないが・・・』


フィニはため息をついた。


「馬鹿げてる」


煙草を取り出し、ふかし始めた。

ロゴタイトルが消え、データ本体が読み取られた。

白を基調としたデザインで、さまざまなメニューが表示されている。

その中に、フィニの目が自然と見つけたメニューがあった。

「Nina」と書かれたメニュー。

フィニは迷わずそれをクリックした。

そして、男の話を思い出す。


『ヴィンセントは、人形に「心」と「表情」を入れようとしてた。

 あと少しで完成だったらしいが・・・、

 彼は死んでしまったんだ』


フィニは、ヴィンセントが死んでいた事を知っている。

しかし、このプログラムについては何も知らなかった。

噂すらも聞かなかった。

なので、男に無理を言ってヴィンセントの家を訪ねてもらった。

そして、そこからこのプログラムを探し出してもらい、

速達で送ってもらったのだ。


画面に「NOW LOADING」という文字が出た。

フィニは今日にでも、ヴィンセントの家を訪ねるつもりだ。

男の話によると、彼が死んでから家は放っとかれたままらしい。

彼が死んでからは、しばらくニナが掃除もしていたのだろうが、

今はここにいるという事で、誰も出入りはしていないだろう。


「Nina」が開いた。

そして、パラメーターが表示された。


「何だこりゃ・・・」


異常な数の項目パラメーター。

全てに名前があった。

ひとつずつ読んでいこうと思い、画面に顔を寄せた。


「喜び」「嬉しさ」「楽しさ」「幸せ」「悲しさ」「辛さ」・・・。

数え切れないほどの人類特有の「表情」が記載されていた。

しかし、どれもパラメーターは100%を示している。


「(何が足りないんだ・・・)」


目を凝らして見ていると、たった一つ。

99%で止まったままのパラメーターがあった。

その項目は「涙」。

フィニは深いため息をついた。


「涙なんか、どうする気だったんだよ・・・」


このプログラムは、ニナの為だけに作られたものに違いない。

フィニは、「涙」がどうしたら100%になるか分からない。


「俺が・・・」


呟いてはっとした。


「そうか・・・俺が終わらせればいいのか」


「涙」というパラメーターのたった1%。

自分が頑張れば何とかなるんじゃないかと思った。

その時、ピピピッという音がした。

目覚まし時計の音だ。

腕時計を見ると、もう7時。

しばらくすると、ガチャという音がして気だるそうな欠伸が聞こえた。

タンクトップとジャージで出てきたセシルはフィニに目を向けた。


「おはよーざいまぁす」

「あぁ・・・」

「何すか、どうかしました?」


寝起きのセシルでも分かるくらいに、

フィニの顔は思いつめたものだった。


「なぁ、セシル」

「はい?」

「お前、ニナのこと好きか?」

「・・・何ですって?」

「ニナのこと好きか聞いてるんだ」

「それは・・・どういう意味で」

「恋愛対称なわけねぇだろ」

「・・・好きですけど」

「頑張れるか?」

「は?」

「ニナのために頑張れるか?」

「・・・どういう意味ですか?」


フィニはパソコン画面を指で叩いた。

目をこすりながら画面に向かうと、

異常なまでのパラメーターの数に驚いた。


「何すかコレ」

「ニナの心と表情だ」

「・・・」


セシルは昔、裏社会というものに手を染めていたが、

フィニはセシルの頭の良さとカンの良さを気に入って、

助手にした。

故に、セシルは物分りがよく頭も良い。

見た瞬間、このパラメーターがどんなものなのか理解できたようだ。


「・・・頑張りますよ、頑張りますけど」

「・・・」

「こんなの誰が・・・」

「ニナのご主人さんだよ」

「・・・なるほど」


セシルは目を細めて、納得した。

そして、このプログラムは簡単に終わらせられないことも理解した。

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