6、転換点としての十二月
大陸暦三三九年十二月は、大公国にとって「奇跡の月」として記憶される。彼らは、敵の猛攻を耐え抜き、いくつもの戦場で勝利を収めた。
しかし、大公国の総司令官フリーデリケ公女は、この勝利が一時的なものであることを理解していた。
帝国は、敗北から学んだ。彼らは、この初期攻勢の失敗を分析し、戦略と戦術を根本から見直す時間に入った。
大公国軍が補給と増援に苦しむ一方、帝国は遥かに大規模な予備兵力と、新たな専門部隊を静かに、そして着実にリソスフェア地峡に集結させ始めた。
初期攻勢の終わりは、大公国の勝利であると同時に、来るべき大嵐の前の静けさの始まりでもあった。
帝国首都ワプティア。ラウロ内相は、中部戦線で壊滅の危機にあった騎士団を救い、一矢報いて果てたフェルディナンドの活躍を、巧みなプロパガンダに利用し、自らの軍事的な無能を隠蔽した。
皇帝ジュゼッペは皇室直轄領を割いて、新たにビスマス公爵領を設定し、フェルディナンドの血縁の者へ与え、ビスマス王の称号を名乗ることを許した。
「よくやったわ、ヴァルトリーデ。追撃戦の損害は痛いけれど、ビスマス軽騎兵隊の亡国の王とその右腕を討った功績は大きい」
本営に戻ったあと、上司のシルビアがヴァルトリーデの報告書を確認しながら彼女に言った。彼女も帝国からの亡命者だった。
「そんな顔をしないでちょうだい。あなたと彼の関係は知っているわ。あなたたちは宮廷ではちょっとした有名人だったから」
シルビアは私を慰めてくれているつもりだ、ヴァルトリーデはそう感じた。
「でも、あなたが殺したのはフェルディナンドという男ではなく、自分を救ってくれるかもしれない、というあなたの幼い幻想だった。それだけの話よ」
そんなに辛そうな顔をしているのだろうか。ヴァルトリーデは、自分の眼帯にそっと触れた。彼女は自分が嫌になった。それは彼女の、遅すぎた初めての失恋だった。




