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30001人に殺された娘  作者: 絶対完結させるマン


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狂う3

 飛ぶような勢いで家に帰ると、呑気な顔をしたお母さんがテレビドラマなんか見ていた。


 「なにしてんの!」

 「え、なに。おかえり」


 なんでそんな怒ってんの、とおかしいのはお前の方だと言わんばかりの眼差しで見てくる。


 頭にカッと血が上る。


 「晒したんでしょ! 生理きたこと! 今すぐスマホ出して!」

 「え。ちょっと! 勝手にいじらないでよ——」


 テーブルに置いてあったスマホを、勝手に手に取ってSNSを起動する。


 『姫美に初潮が訪れました』


 その一文を目にした瞬間、全身の血の気が引いた。


 手が震えてスマホを取り落としそうになると「危ない!」とお母さんがすかさずキャッチした。


 スマホが一番大切なもののように、取り乱している私よりもスマホに傷がないか熱心に確認している。


 「生理が来た」と伝えた時のお母さんのはしゃぎようを思い出す。


 ——それはめでたいわ! お祝いしなくちゃね。


 いそいそとご馳走の準備を始めたお母さんに、私はそんなことしなくていいよ、と言った。恥ずかしかった。いつも通りに接してほしかった。


 赤飯が食卓に並んだ時は、流石にギョッとした。


 お父さんは予期せぬご馳走と赤飯に驚き「なんなの。今日は何かめでたいことがあったの?」と嬉しそうにお母さんに訊いた。


 お母さんは生理のことを言いはしなかったけれど、意味深な含み笑いを繰り返してお父さんに目配せした。


 勘の悪いお父さんがようやく察した瞬間、私は穴があったら入りたいと思った。こんな状態で食事なんかできるわけないと思った。


 でも、お母さんがせっかく気合いを入れて作ってくれたご飯だ。食べたくないと言えば、きっとお母さんはすごく悲しむ。


 だから私は、無理しながら何とか食事を口に押し込んだ。泣きそうになるのを顔に力を入れて必死に耐えながら。


 「なんでバラしたの! 最悪なんだけど!」

 「ちょっと。少し落ち着いてよ——」

 「落ち着いてられるわけないでしょ! なんで? なんでいちいち私に関するアレコレをSNSにあげるの! 世界中に監視されてるみたいだよ……」


 床にへたり込んで顔を覆う。


 「ちょっ、ちょっと何泣いてるの。こんなことで」


 本当に意味がわからない、というような口調だった。


 「だって嬉しかったんだもん。姫美が大人になっていってることが。姫美は大したことないって思うのかもしれないけど、初潮は女の子の成長に欠かせない大切なイベントなのよ? 本当にめでたいことなんだから」

 「…………」


 本当に同じ話題を話してる? お母さんのずれた発言にそう思わずにはいられなかった。


 「幸せのおすそ分けをしたかったの」


 お母さんは不特定多数の人に私の成長を言いふらして、幸せをもたらしたかった——らしい。


 「子どもの成長って微笑ましいものでしょう? SNSに子どもとの写真をあげてる親なんかごまんといるわよ。私のフォロワーさんだって、娘と海に行った時の写真アップしてたし」


 他の人が当たり前のようにしてることを、なぜ私だけ糾弾されなければいけないのかわからない。


 お母さんの言動が、表情が、そう訴えていた。


 これは男子に言われたことを伝えなきゃわかってもらえない。私がどんなに惨めな気持ちになったか。


 言おう。言わなきゃこのお母さんにはわかってもらえないと思っても、どうしても口が動かない。


 「でも……でも私は嫌なの……もうお母さん、SNSやらないで……」


 お母さんはギョッとして、なんてこと言い出すのだ、という表情になった。


 「わかった。姫美のことはもう書かないようにするから。だったらやめなくてもいいでしょ?」


 ね? ね? と焦ったように訊き返すお母さん。


 これ以上私のことを晒さないでくれれば、私はそれでいい。お母さんの言葉に頷くと、お母さんはあからさまにホッとした。


 「それにしても『世界中に監視されてる』だなんて大袈裟ね」


 お母さんが台所に行き、夕飯の準備を始めようとする。


 「芸能人でもないただの小学生のことなんか、誰も気にしてないって。自分のことを世界中が見てると思うなんて、大した自信ね」


 どうして余計なことを言わないと気が済まないのだろう。


 自意識過剰だと嗤われても、筋道立てて論破する気力なんて湧いてくるわけなくて、私は唇を噛んで耐えるのが精一杯だった。

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