狂う
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私のお母さんは、昔からよく写真を撮る人だった。
いや、その表現には語弊がある。私以外の写真はあまり撮らない人だったから。
我が子の写真ばかり撮っていると聞けば、子どもを溺愛している親バカだと思うだろう。私もそう思っていた。
カメラを向けることは、お母さんの愛情表現だと思っていたから、不愉快な気分にはならなかった。
「夢中になりすぎて漏らさないでよ〜?」
アイラの家に遊びに行った時、突然そんなことを言われてフリーズした。
アイラは五年生になってから仲良くなった同じクラスの女子だ。この日はアイラの家に私も含めた数人の友達が集まっていた。
各々ゲーム機を持ち寄って、皆で対戦ゲームを始めようとしていた時、ふとアイラが私に向けてそんなセリフを言ったのだ。
他の子たちは笑うのを我慢しているような表情をしていた。私だけがセリフの意味を理解できずに、ポカンとしていた。
なんなの? と思っているうちにゲームが始まって、一瞬生まれた妙な空気は消えてしまった。
違和感は別の日にも訪れた。
昼休み。いつものようにアイラたちとおしゃべりしていると、男子たちの視線を感じた。
私を見てヒソヒソ何か話していると気づき、胸がざわざわした。
聞き耳を立てる。
「今日あれつけてんのかな」
「お前見てこいよ」
「バカ、聞こえるって」
私が目をやると、男子たちは慌ててニヤニヤした顔をあさっての方向へ向ける。
なに? なんなの? なんの話をしてるの?
わからないけど、みんなのニヤニヤした顔がすごく不快で、今すぐ教室から消えてしまいたくなった。
「5歳になるまでオムツ取れなかったくせに!」
言い争いがヒートアップした時、アイラが放った言葉で私は石になった。
喧嘩のきっかけは些細なことで、どんなだったか今ではもう覚えていない。
「なんでアイラが5歳の頃の私を知ってんの?」
そう尋ねると、アイラは私に渾身の一撃をお見舞いするような、どこか得意げな口調で吐き捨てた。
「姫美のお母さんがネットでぜーんぶ話してるよ。姫美が幼稚園生の頃、遊びに夢中になってトイレ間に合わずに漏らしちゃったことも、少1の時にノートに描いてた下手くそな漫画も! 全部晒されてるよ!」
震えが止まらなかった。
その後アイラとなにを話したのかは覚えていない。アカウント名を聞いたことだけは覚えている。
その日は一人で急いで帰宅した。
確かめなくちゃと思った。
アイラの言っていることが本当なのかどうか。
パソコンで調べてみると、お母さんのアカウントが見つかった。
アイラの言っていたことは本当だった。
そこには私の全てが書かれていた。
0歳から今日までの私のことが、本当に細かなことまで書かれていて、それに反応する人たちがたくさんいて。
私はこんなに多くの人たちに見られていたんだと、初めて知った。
アイラたちは、このアカウントの存在を知っていたんだ。
最近の投稿を見て、頭をガツンと殴られたようになる。
『女の子の成長過程の中で、ブラデビューは大事なイベントです。これからも可愛く成長していってね!』
私がブラデビューした報告と共に、この前買ってもらったブラの写真があげられていた。
——今日あれつけてんのかな。
男子たちのニヤニヤ笑いが思い出されて、私は慌ててトイレに駆け込んだ。
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