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30001人に殺された娘  作者: 絶対完結させるマン


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エッセイ漫画

 引きこもりの娘と私。


 そのタイトルの漫画は、SNS上でそこそこの人気を誇っていた。


 引きこもりになってしまった中学生の娘と母親の日常を描く、よくあるエッセイ漫画だ。


 それほど上手くはないが、見づらいわけでもない簡素な絵で、引きこもりの娘との日常が描かれている。


 描かれていることは、なんてことのない内容だ。ただ特色を言えば、ある日を境に外に出られなくなり、性格もすっかり変わってしまった娘に戸惑いながらも、いつか娘が元に戻ってくれることを信じて全力を尽くす母親の姿が、強調して描かれている漫画だ。


 漫画の中の母親は、度々不憫な目に遭う。


 虫の居所の悪い娘にオムライスを作るのだが、床に払い落とされてしまう。


 娘の誕生日にお祝いの意を込めて赤飯を作るも、娘は口に入れた途端ペッと吐き出す。


 娘が好きそうだと思った可愛い服を買ってくると「そんな服死んでも着ない!」と拒絶されたり。


 理不尽な扱いにもめげず娘に無償の愛を注ぎつつる母親の姿に、胸を打たれる読者がかなりの数いた。


 その漫画の作者とは育良だった。


 フォロワーは鰻登りに増えて、姫美との日々を描いたエッセイ漫画は"バズった"。


 その漫画は姫美が高校生になっても続き、SNS上で一定の評判を誇る漫画になった。


 姫美が23歳になった頃、育良から出版社に連絡が来た。



 『今日、姫美に怒鳴ってしまいました』


 育良は、久しぶりに文章だけを投稿した。


 『姫美に将来の話を振ったんです。これからどうするつもりなのかと。うちの家だってお金が無限にあるわけじゃないと。触れてほしくないことだったんでしょうね。でも現実的な問題として、このままじゃ親子共倒れだってことは、姫美もわかってるはずなんです。だから今日こそはちゃんと話し合おうと思ったんですが……失敗に終わってしまいました』


 育良は、床に散乱した皿やグラスの写真を投稿する。


 『お母さんのところになんか生まれなきゃよかった! って言われちゃいました……ショックで立ち上がれません。娘の幸せを願って長年耐えてきた私は間違ってたんでしょうか』


 次々にくる擁護のコメント。


 『育良さんほどできた母親はいませんよ!』

 『自信持ってください!』

 『娘さんも今ごろ酷いこと言ったな、って後悔してますよ。育良さんの愛はちゃんと伝わっているはずです!』


 そのコメント群に一つ一つ目を通していると、目頭が熱くなってきて、立ち上がる気力が湧いてくる。


 『ありがとうございます。皆さんのおかげでまた頑張れそうです。どんなに酷いこと言われても、姫美は私の娘です。お腹を痛めて産んだ子です。嫌いになんてなれません。これからも私たち親子を応援してくださると嬉しいです』




 『引きこもりの娘と私』は書籍化して、全国の書店に並ぶことになった。


 コミックは売れた。続巻を出そうと出版社から言われて、育良は二つ返事で引き受けた。


 2巻3巻と刊行されたコミックは大勢の人の目に留まり、不特定多数の人間に読まれ評価された。


 正直、育良自身こんなにヒットするとは思わなかった。印税の額に育良は目を皿にした。


 その辺の漫画家よりも稼いでいる。


 書籍が発売されるにしたがって、育良を「先生」と呼ぶフォロワーが増えた。


 私、もう立派な漫画家だ。


 ただの平凡な主婦じゃない。プロの漫画家だ。私の作品を必要としている人が大勢いるんだ。


 しかし、残念なことに育良の漫画にはアンチも多くいた。


 『娘ひどくね?』

 『普通に性格ゴミだよね』

 『俺が母親だったら、とっくに殺してるwww』


 アンチは、ほとんどが娘の姫美に怒りと嫌悪感を示していた。


 いい年して働きも勉強もせず、家から出ることすらせず、献身的な母親に辛くあたる——そんな姫美に多くの読者が悪感情を抱いた。


 漫画は細々と続いていき、姫美が52歳になるまで続いた。


 高齢になり、漫画を描くことが困難になった育良は『引きこもりの娘と私』を完結させた。


 完結のタイミングと同時に、姫美のSNSアカウントから、"ある発表"がなされた。


 『母のありがたみがようやくわかりました! これからは私がお母さんを支えていこうと思います!』


 それが姫美の初めての投稿だった。


 姫美の"改心"とも呼べる投稿に、次々に反応が寄せられた。


 『育良先生、報われてよかった』


 『育良さんのひたむきな愛情が、荒んだ娘さんの心を溶かしたんだな』


 『おめでとう! 最高の完結の仕方したな……。もうお母さんを困らせないでね!』


 姫美の決断を、多くの人が祝福した。


 こうして、新たな母娘の生活が始まったのだった。

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