表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

1章

 福島(ふくしま)芽唯(めい)日笠(ひがさ)くんと一緒に帰る。それは、どちらかが「一緒に帰ろう」と口にしなくても、成り行き、あるいは自然に、そうなる。月に二度、図書委員の当番で貸出と返却の対応をした日だけ。


 高校三年生の春からクラスの図書委員になった二人は、放課後に三十分の業務を終えて、上履きをスニーカーに履き替える。


 昇降口の三段だけの短い階段を下りると、日笠くんはスクールバッグから取り出したワンタッチ式の折り畳み傘を慣れた動作で開いた。


 空は晴れ渡っている。


 梅雨の季節だというのに、雨の一滴も降ってきそうにない天気。


 突き刺す太陽光の主張に元気を奪われつつも、雨よりはマシか、と手で(ひさし)をつくった芽唯に日笠くんが問いかける。


「福島さんも入る? けっこう日差し強いよ」


「遠慮します。日傘で相合傘なんて聞いたことないし」


 もう一人分のスペースを空けていた日傘の位置を元に戻して、日笠くんは残念がる様子もなかった。


「そう? 紫外線、甘く見ちゃダメだよ。女の子なんだから」


「日焼け止めは一応塗ってますー」


 それにしても……


 外側は白、内側には黒い生地の張られた傘を眺めながら呟いた。


「日笠くんが日傘ねぇ……」


「そうそう。おもしろいよね」


「自分で言うかな」


 日傘を持った見返り美人図のような体勢で、日笠くんは笑っていた。


「美容男子は増えてるけど、日傘は恥ずかしいって男子もいるだろうから、俺が日傘を差すことでその恥ずかしさを薄めてあげられないかなーって」


「じゃあ日傘を差すのは自分のためでもあって、美容男子のためでもあるんだね」


「そだよ。でも、その結果、日傘男子が増えるのかっていう俺の実験でもあるから、結局は自分のためになるのかな? だからこうして春先から日傘差してるんだよ。夏にどうなるか楽しみだなー」


「実験……」芽唯が呆れていると、日笠くんは続ける。


「まぁ、それだけじゃないんだけどね」


 まだ他に理由があるのだろうか。首をかしげると、日笠くんは小学生みたいな口調で「なんでもなーい」と駅までの道を先に歩き出した。遅れて、芽唯もその背中を追っていくと、太陽もあとをついてきた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ