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<5・Introduction>

 司令室に新たに呼ばれたのは三人だった。そのうち二人はトーリスもついさっき見たばかりの人物である。ふとっちょ男性のバランと、ノッポ女性のレナだ。もう一人、眼鏡の気弱そうな男性は見覚えがなかったが。


「皆さん。彼が、新入りのトーリス・マインさんです。一人ずつ、彼に自己紹介をしてください」


 クリスが言うと、まがりなりにもそこは軍人、三人はびしっと背筋を伸ばした。とはいえ、ふとっちょのバランは背筋を伸ばすと同時に大きくでっぱったお腹がたゆん、と動いてなんともコミカルな有様となっていたが。


「おれの名前はバラン・ドル!階級は軍曹!能力名は『爆発』!好きなものは酒ダ!どうぞよろしく頼むゼ!あ、年齢は今年で三十七歳ダ!」


 えっへん!と彼が胸を張るかわりに、ぼよんぼよん、と大きなお腹が主張する。正直軍人には見えない太りっぷりなのだが、さっきの動きはなかなか俊敏だった。人間、見た目にはよらないものである。


「私はレナ・ゴーンと言います。能力名は『大地』、好きなものは訓練です。一人で訓練するのが大好きなの。とにかく訓練が好きで軍に入ったの。年齢は今年で二十八歳で階級は軍曹、よろしくお願いするわ」


 びしっとかっこよく敬礼をするレナ。こうしてみると本当に背が高い。トーリスもけして低い方ではない――というか身長175cmあるので一般男性として見た時は大きい方であるはずなのだが。目の前の女性は、その自分が見上げるほどに大きいのだ。多分、2メートルはあるのではなかろうか。

 そして背にばかり目が行きがちだが、服の上からもわかるほど胸も肩もがっちりとしている。訓練の虫、というのは恐らく本当のことだろう。


「そ、そそ、それから。僕が、ケンスケ・ヤマウチと言います、ハイ」


 そして最後に。

 まだトーリスが顔を合わせていなかった最後の一人、眼鏡の男性が声を上げる。ケンスケ・ヤマウチ――名前からすると、昔島国の方から渡ってきた人だろうか。確か、極東の島国の血筋の住人が、そういうかんじの名前を名乗っていたような気がする。


「僕は、その。スキルの名前は『透視』と言います。一定の範囲限定ではござますが、壁の向こうの様子を覗くことができますです。あと、ちょっとだけなら、こっちの声を届かせることもできますですね、ハイ。と、と、年は二十五歳です……。階級は、じゅ、准尉です、はい」


 ということは、この眼鏡の青年がこの三人の中では一番階級が上ということらしい。二十五歳で准尉というのもなかなかの出世であるが、まあこれも人手不足ゆえだろう。

 思わずトーリスは、ケンスケと名乗った男性をまじまじと観察してしまった。彼は痩せていて、身長も170cmないほどである。眼鏡をかけていて顔色も青白く、とてもじゃないが軍人には見えない。それこそ、事務職でこつこつデータ入力でもしてます、と言われたほうがよほどしっくりくるというものだ。

 しかし、この場でこの三人だけが呼ばれて紹介を受けているわけである。クリスからよほど期待されている能力者、なのは間違いないのだろう。


「俺は、トーリス・マイン。階級は中尉。年齢は十八歳で、スキル名は『分析』。相手の能力を正確に図り、知ることができる能力です」


 びしっと敬礼をして、トーリスも自己紹介をした。すると三人はそれぞれオオ!と声を上げて顔を見合わせる。


「十八歳で中尉!?エリート?アリートなんだゼ!?」

「あ、いや。俺の上にいた人達が大量に死にまくった結果、人手不足で階級がもりもり上がっただけだから……!それに、スキルだってDランクで、全然高いものじゃないし。その、身体能力も並に毛が生えた程度だし……!」

「それでも凄いわよ……じゃなかった凄いです!スキルがDなのにってことは努力でそこまで上り詰めたってことでしょう?尊敬しますわ!」

「う、うん!うんうんうん!前線で生き残るだけで、す、すごいと思うです!ハイ!」


 なんだろう。妙にキラキラとした目を向けられてしまっているような。あははは、と笑って頭を掻くトーリス。なんというか、悪い気はしない。


「しかし、そんな凄いやつが、この第十司令基地に送られるとは……何やらかしたんだゼ?」


 そんなトーリスに、バランは首を傾げる。


「確かに、スキルがどれだけ良かったところで、素行が悪けりゃ僻地に送られるのが今の軍だけどナ。おれはわかりやすいぞ、なんといってもスキルはBランクと結構なもんなのに、酒でよっぱらって上官殴っちまってヨオ!それでまあ嫌われて、ここに飛ばされたってわけだからナ。まあ、わかっていても酒はうまいからやめられないんだけどヨ!」

「それがあるからあんたは駄目なのよ。って、私も人に言えるほど、素行が良いわけではなかったけど……」


 バランの背中にチョップを決めてツッコミをいれるレナ。若い女性からするとバランみたいな見た目の男性は嫌悪の対象になりそうなものだが、少なくともレナは彼をそのように差別しているようには見えない。

 ひょっとしたら、昔からの知り合いだったりするのだろうか。


「私は一人で体を鍛えるのは得意だけど……戦うのは得意じゃなくて。任務中にびびって逃げちゃったのよね、戦場から。その結果、地雷原に踏み込んだ仲間たちがみんな殉職する中私だけ生き残っちゃって。まあ、軍法会議ものよね……。生き残りたいために、仲間を捨てて逃げたんだから」

「それは仕方ないだろ。生きたいのは、誰だって一緒だ。俺だって……」


 思わずフォローを入れてしまった。彼女がどのような任務に従事していたのかはわからない。しかし、生き残ったことに負い目を感じる気持ちは自分にもあるのだ。

 だってそうだろう。




『は、早く、指示を出してください!このままではみんな空爆で……!』




 あの時。

 自分は誰より早く、宇宙戦艦グランノースが近づいてくることに気付いたのだ。気づいたのに驚きすぎて、隊長に声をかけるのが遅れた。その結果隊長が完全に凍り付いてしまって、全体に退避命令を出し損ねたのだ。

 自分がもっと早く動いていれば。みんなに注意喚起できていれば。

 ひょっとしたらあと一人か二人は助かって、今も自分の隣に立っていたかもしれないというのに。


――やばい。気にしないように、気にしないようにって思ってたのに……今更、すげえ、気持ちがへこんできた。


 まだ配属されて短い部隊だった。だから、メンバーともそこまで仲良くなかったし、数回程度一緒にご飯を食べた程度の仲ではあった。

 それでもメンバーの名前は覚えていたし、当然顔も把握している。大人しくて地味だが、気の良いやつらだなと思ったのも。しかし、そんなメンバーは総じて、あの日の任務で粉みじんに吹き飛んだか、二度と復帰できないほどのダメージを負って病院送りになったのだ。

 やはり、慣れるものではない。仲間の死も、自分の罪にも。


「……俺だって。作戦に失敗して、仲間を死なせて敗走したんだ。その責任取らされて、ここに送られたわけだし」

「隊長だったの?」

「いんや。隊長は別の人だったんだけどその人は死んじゃって……。司令官に、なんかこう、お前のせいだ、みたいに言われて、それで」

「それは酷い!生き残った平隊員に責任全部おっかぶせるなんて!」

「まったくだゼ!」

「そ、そうです。気にする必要ないと思いますです……!」


 三人は口々にトーリスを庇ってくれた。彼らはあの日の惨劇を見ているわけではないし、トーリスの詳しい事情を知っているわけでもない。それでも、そうやってフォローしてくれるだけで嬉しい気持ちになるのは安いだろうか。

 同時に。それだけで、彼らはきっと良い人達なんだろうな、なんて思ってしまうのも。


「それに比べたら、僕が懲罰喰らった理由はその、結構アレですし」


 そして、最後にケンスケが爆弾を落としてくれた。


「ぼ、僕の能力はさっき説明した通りの透視能力で……それなりに情報収集に役立つんじゃないかって、Cランクつけられてたんですけど。そ、その能力で、その、覗きをしてしまったというか」

「え」

「更衣室で着替えている人達を覗いてしまったんです。ぼ、僕、昔からこんなひょろっひょろだから。逞しい筋肉を持ってる男の人とか憧れて。かっこいいなあって思ってついつい、隣の部屋からのぞき見を……」

「え」


 もしやそういう趣味?とトーリスは固まってしまう。ケンスケが、少しだけ頬を染めながらこちらを見て来たから尚更に。


「……トーリスさんも、なかなかいい筋肉してますよね。と、特にその、太ももがむっちりしたかんじ、なかなか素敵です。あ、かっこいい……」

「お、お前!?今能力使ってないよな、使ってないよな!?」

「えへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ」

「ヤメテ!?」


 透視能力がマジならば、服の上からすっぱだかを見ることも可能だろう。トーリスがドン引きしながら棚の影に隠れるのと、レナがケンスケの後頭部にチョップを決めるのは同時だった。ひ弱なケンスケはあっさり悶絶し、その場で蹲る羽目になる。

 想像した以上に、濃すぎるパーティらしい。だが、聞いたところスキルだけならばどれもこれも悪くはない。直接攻撃する能力を持っているのはバランだけであるようだが、後の二人の力も使い方次第では大きな戦力になるだろう。

 何故クリスが自分に、この三人を紹介したのかわかったような気がする。つまり彼はこの三人とトーリスを主軸として、作戦を組み立てようというのだ。


「まずは、トーリスさんの現在の能力を見させていただきます。基礎訓練は毎日怠るべきではないですからね


 クリスはにこにこ笑いながら言った。


「それからこの三人と、部隊の他の皆さんと積極的に交流を深めて頂きたいのです。それらの様子を見ながら、私も作戦をじっくり考えさせて頂きます。幸い……まだ上層部に言われているリミットまで、今しばらく時間はありますからね」


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