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<2・Skill>

 この惑星に生まれた人類は、みんな生まれつきなんらかの“才能(スキル)”を持っているとされている。

 この幅が非常に広い。とにかく広い。わかりやすく超能力っぽいスキル持ちの人もいれば、だいぶ大人になってから「あれって実はスキルだったんだ?」と気づくようなしょっぱい能力の者もいる。そして、人の役に立つスキルや戦いに向いているスキルを持っている者は幼少期から重宝される傾向にあり、場合によっては特別な学校で訓練を受けることもあるという。

 同時に、普通の学校で特殊なスキル持ちがいると、それだけでいじめやスクールカーストが形成されて面倒なことになったりもする。というのも、最終的に十歳を超えたところで子供達はスキル検定を受け、それぞれのスキルにランク付けをされることになるからだ。これは有用なスキルの持ち主は子供の頃からその適正に合わせて育てるべき、という政府の考え方からきているのだが――これが原因でトラブルになることも少なくないのである。

 ぶっちゃけ、ランク付けそのものを廃止しろ、という声は少なくない。残念ながらランク付け廃止を歌った政党が政権を取った試しはないが。それは、特に現在異星人との戦争中で、戦闘向きスキルの持ち主は早いうちに見出して兵士として育てたい、という思惑が政府にも、そして民衆にも根強くあるからだろう。

 まあ、そんな事情はさておき。

 トーリスもまた当然この惑星の人間である以上、スキルは持っている。スキル名は“分析”(スキル名も、ランク付けと同時に大人たちによってつけられる。大抵一単語で表されるが、稀に例外もあるという)。スキルランクは――D。AからFまである中のDなので、まあ中の下くらいというなんとも地味なスキルだと言っていい。

 それでもEやFのスキルの者よりは役に立つとみなされ、実際陸軍にいるのは当然理由がある。

 それは、トーリスのスキルの内容が『相手の能力と伸びしろを正確に見極めることができる』というものであるからだ。

 例えば訓練で、ダレダレという先輩と戦闘訓練をしたとする。すると、先輩の戦闘能力がおおよそ把握できるのだ。握力は50キロだな、とか。あの足で本気でキックされると内臓が破裂するだろうな、とか。まあ大体そんな程度のものだが。同時に、ここから先訓練すると最終的にはキックで岩も砕けるようになるだろうな、とかそういうこともわかったりする。

 同時に、この能力は兵器に対しても適用される。

 例えば先日相対した宇宙戦艦グランノース。

 あれも、ある程度の距離で視認すれば、おおよそのスペックがわかる。第二主砲と第三主砲の破壊力が分かったからこそ、洞窟まで逃げればギリギリ助かる見込みがあると判断したわけだ。同時に、あの主砲は装甲とバランスを若干犠牲にすれば、もっと射程と威力を伸ばすこともできるだろう――なんてことまで一応想像はついているわけで。


――って書くと、なんかめっちゃくちゃ役に立つ能力に見えるかもだけど。実際に相手の能力がわかっても、俺自身の身体能力が平々凡々じゃ意味ないんだよなあ。


 相手の能力がわかるからといって、弱点もわかるとは限らない。

 何より他の者より早く「あ、この相手にはどうひっくり返っても勝てないわ。死んだ俺」ということもわかってしまいかねないわけで。幼い頃はそれで、喧嘩する前からいじめっ子に負けるとわかってしまい、足が竦んでボコボコに殴られるということも少なくなかったものである。

 ただ、戦場においては、相手のスペックがわかるということは情報戦で有利になるということでもあるのは事実。

 十歳で能力判定されると同時に、軍学校にスカウトされることになった。それで、小学校卒業と同時に、陸軍中学校に進学し――中学校卒業と同時に正式に陸軍に雇用され、今に至るというわけである。

 現在十八歳。軍に入って三年。たった三年で中尉という役職はとんでもないステップアップに見えるだろうが、それはトーリスが優秀だったからではない。上の役職の人間が、戦場でバッタバッタと死んでいってどんどん人手不足になり、やむなく下の人間をどんどん昇進させるしかなくなったというだけだ。特殊な軍システムにより、生きたまま二階級特進、三階級特進も珍しくないのである。大抵それが起きるのは「前のポジションにいた人間がごっそり死にました」なので、まったく喜ばしいことではないのだが。

 実際トーリスが尉官になった時も、先輩尉官たちが作戦に失敗してごっそり吹っ飛んだために、自分以外も含め大量に昇進したことを知っている。階級が上がれば給料が上がる代わりに責任も重くなるので、正直トーリスとしては気が重いことも多かったが。

 ましてや、中尉とは本来、指揮官になってもおかしくないレベルの階級である。場合によっては軍に入ってたかだか三年で、一個小隊をまるっと投げられる可能性さえあり得た。そうならなかったのはたまたま、自分よりちょっと上の階級で、ちょっと優秀な人材が他にいて、その人物らの下につくことになったからに他ならない。

 今回もそう。

 もし罰が軽いものだったら、むしろお前が今度から指揮官として部隊を率いて戦場に出ろ、と言われかねないと危惧していたのである。下手な懲罰より、トーリスはその方がよほど恐ろしかった。自分がリーダーなんぞに向いているタイプでないことは、自分自身が一番よくわかっているのだから。

 まさかそれが、第十司令部に異動、なんてことになるとは思ってもみなかったけれど。


「うお、すご……」


 荷物一式を持って、第十司令基地に到着したトーリスは。あまりのド田舎っぷりに、思わず声を上げることになるのだった。

 前にいた第三司令基地とは比較にならない。だだっ広い荒野に、ぽつーんと基地が一つある。一番近い町までも2キロは離れた超ド田舎。訓練場も広いので、これなら多少大騒ぎしてもご近所迷惑だと叱られるようなこともないだろうが。

 コンビニやスーパーもないし、なんなら森や畑さえない。

 なんでこんな辺鄙すぎるところに基地だけぽつーんと建てたんだ?と首をかしげたくなるほどである。案外本当に、騒音問題で追いやられたせい、とかだったら笑うしかないのだが。


――……俺、こんなところでやっていけんのかな。都会っ子なんですけど、一応。


 不便どころではなく不便な土地に、既に不安でいっぱいである。ただでさえ、第十司令基地の噂は良いものではないというのに。

 というのも、一番新しくできたこの基地にはこんな噂があるからだ――つまり、“役立たずになった兵士が最後に送られる監獄”と。どこかの作戦で大きなミスをした者。規律を破った者。他の基地の司令官に嫌われた者などが送り込まれる場所。不名誉除隊にすると、その司令官のイメージも駄々下がりになる。だから該当兵士を除隊にしないかわりに、その兵士をこの第十司令基地送りにして腐らせるのだと。

 何故そんなことを言われるのか?

 それは、この第十司令基地の司令官が、稀に見る『無能力者』として有名だからである。


『ああ、トーリスも聞いたことないか?第十司令基地の司令官の話。……年齢とか性別とか、そういうことはオレも知らねーんだけど』


 第三司令基地にいた時、同僚から聞いた話。その第十司令基地の司令官は、とても頭の良い人ではあるのだという。

 士官学校も、トップの成績で合格。

 兵器の知識、兵法の知識に関しては右に出る者なし。ただし、実技試験ではさほど良い成績を残せなかった上、無能力者であったせいでエリートコースから外れてしまったのだと。


『無能力者ってアレだろ?……生まれつき、一切の才能(スキル)に恵まれなかったっていう。そんな人間、本当にいるのか?』

『そこがちょっと誤解があるんだ、トーリス。正確には、完全にスキルがゼロな人間は確認されていない。ただ……ほぼゼロに近い能力者ってのはいてな。そいつらを無能力者と呼んで蔑む風潮が軍の中にはあるんだ。ひょっとしたら学校にもあるのかもだけど』

『ほぼゼロ?具体的には?』

『自分の指を舐めたら時々甘く感じる能力だとか。小石を拾ったら一瞬だけぴかーと光る能力だとか。まあそんなかんじで、何に使うのソレ?みたいな能力者らしい。具体的にはFランクか、あるいはFランクにも該当しないくらい地味なスキルの持ち主ってやつな』

『な、なるほど……』


 確かに、指を舐めたら甘いってだけのスキルじゃ、まったく使い道もないだろう。小石を拾ったら光る能力、は停電した時に使えるかもしれないが。

 そういう能力にしか恵まれなかった者は、確かにスキルが無いも同然と扱われるのかもしれない。

 ちなみにスキルのAランクに該当するような者は、好きな場所に雷を降らせることができる能力とか、テレポートできる能力とか、どんな場所でも袋から食料を生み出せる能力とか、そういうものを言うらしい。残念ながら未だ、トーリスはAランク能力者に出会ったことはないのだが。


――頭脳面は優秀だから、司令官には選ばれた……と。しかし、スキルがないから蔑まれている、と。


 そう思うと、ここの司令官に多少同情はしてしまう。

 何度も言うようだが、スキルというものは生まれつき決まってしまうもの。本人が選ぶことができるようなものではない。筆記試験で優秀ということは相当努力したのだろうに、スキルがないというだけで馬鹿にされなきゃいけないなんてあんまりではないか。


「……よし」


 不安はある。あるにはある。しかし、余計な偏見を持って接するなど、新しい司令官にも失礼だ。なんせ、これから自分の上司になり、お世話になる人物。仲良くなれるに越したことはないのである。


「も、もしもーし!俺、今日からここでお世話になる、トーリス・マインと言いますが……!」


 しーん、と静まり返った白くて四角い建物、そのガラスの自動ドアの前で。トーリスが意を決して声を上げた、まさにその瞬間のことだった。




 どがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!




「は、はいいいいい!?」


 突然、建物の側面の窓が吹っ飛んだ。そう、文字通り爆発音とともに吹っ飛んだのである。

 ぎょっとするトーリスが見たのは、窓から飛び出してくる――両手に手榴弾らしきブツを持った、ふとっちょの男だった。彼は真っ赤になった顔で、ひゃっほおおおい!とテンション高く叫びながら訓練場へと飛び出していく。


「芸術は、爆発ダアアア!それ、もっともっと、爆発させるんダアアアア!」

「え、ええええええええええ!?」

「待て待て待て待てバラン!そんなもの振り回すんじゃない、洒落になんないからあ!!」


 その後ろを追いかけていくのは、ノッポの女性。しかし、土煙を上げて走るふとっちょの男性は思いのほか足が速いらしく、追いかけるノッポの女性はどんどん離されていってしまう。

 よくわからないが、まずい状況なのは確かだろう。ふとっちょの男性があのまま手榴弾を投げたら、どのような被害が出るかわかったもんじゃない。


――……仕方ない。


 トーリスは玄関に荷物を置くと、彼らを注意深く観察したのだった。自分のスキルを持って、彼らの“能力”を正しく“分析”するために。


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