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<15・Meeting>

 第十司令基地にいるメンバーには、五年前の惨劇を経験した者とそうでない者がいる。

 実際に経験していなくても、話で聞いていた者は少なくない。それに加えて、先日トーリスが失敗した第三突撃部隊壊滅の件がある。

 この基地に「どこでもいいから塔を攻略しろ」という無茶な命令が下りてきていることはみんな知っていたが、きっとほとんどの者達が「いや無理だし」と諦めの境地であったことだろう。実際、トーリスも自分達だけで攻略なんて難しいと本気で思っていたのである。

 クリスから、あの作戦を聞くまでは。


「今回、クリス司令の副官として任命されたトーリス・マイン中尉だ。新参者だが、みんな支えてくれると助かる」


 訓練後のミーティング。今回は、いつもとは雰囲気が大きく違う。なんせ、実戦任務のための重要会議だ。

 広い広い会議室に集まったのは、この基地にいるすべての隊員たちである。彼らの手には一人一つタブレットが渡されていて、資料はそこに転送されている。昨日の段階でデータは送っているので、真面目な隊員たちはみんなしっかり読み込んでいるはずだ、多分。


「資料は読んでくれただろうか?作戦の概要をまとめるとこうだ。まず、俺とケンスケの二人で中立地帯に入り、敵情視察を行う。敵の主砲や対地兵器の届かない遠距離から、敵の武器の効果範囲、及び設置されている武器を調べる。……クリス司令と話し合った結果、俺達が標的とするのは敵の十個の塔のうち……これだ」


 とん、とプロジェクターで映し出された画像を叩くトーリス。表示されているのは、先日クリスと一緒に話し合った時に使った、大陸の地図である。


「ここ。十個目の塔……J塔。この塔に、今回狙いを絞ることになる」

「質問よろしいでしょうか、中尉」

「許可する。なんだね、ダット伍長」


 ハイ、と手を挙げたのは、先日バランたちと一緒に酒を飲み交わした時にいた青年の一人だった。彼は酔っぱらっていてトランプには参加しなかったが、ずっと雑談には参加していて賑やかにしていたのである。

 その時には、トーリスもいいと言ったようにタメ口で会話していた彼。しかし今は正式な仕事上の会議の場である。階級と立場は重要視されなければいけない。実質、トーリスは彼らの上官ということになる。ここではきちんと丁寧語が使えるあたり、仕事とプライベートはちゃんと切り分けているのだろう。


「J塔に狙いを絞った理由をお尋ねしたいです。確かに、J塔はこの第十司令基地からも比較的近いですし、そういう理由で狙いやすいのはわかります。しかし、今までの情報から、侵略者の前線基地も塔から近いところにありますし……そういう理由で、第三突撃部隊はC塔を狙いにいったはずです。C塔は、前線基地が塔から離れたところにあって、攻撃されにくいということでしたから」


 良い質問だ。そしてここまできちんと話せるということは、彼はちゃんと資料を読み込み、かつ過去の任務の詳細についても調べた上でここに来ている。

 酔ってしゃべっていた時は陽気な若い兄ちゃんと言った雰囲気の男性だったが、思っていた以上に任務に忠実で勤勉だ。これは大きなプラスポイントと言えよう。こっそり心の中でメモを取るトーリスである。


「実にまともで良い質問だ。説明しよう。……第三突撃部隊の失敗に関しては俺も関わってるからよく知ってる。貴官が言う通り、前線基地がやや遠いという理由から当初はC塔こそがねらい目だと考えられていた。が。C塔を狙った第三突撃部隊は、宇宙戦艦グランノースに狙い撃ちにされて壊滅状態に陥った。空からの奇襲を防ぐ手段がなかったためだな。そしてグランノースが出てこなくても、塔の周辺には強力な対戦車砲が設置されている。どっちみち、それでハチの巣になって終わっていただろう、というのが俺と司令の共通見解だ」


 今思うと、本当によくぞ生き残れたな自分、といったところである。状況を詳しく調べれば調べるほど己の幸運ぶりを思い知る。

 それこそ、グランノースが出てこない方が被害は甚大だったのかもしれない。グランノースの火力は脅威だが、ワープを使わない飛行速度は小型戦闘機よりはるかに遅いし、何より巨大すぎて非常に目立つ。接近にもすぐ気づくという弱点もある。まあ、あれが目視で確認できた時点でまず相手の射程に入ってしまっているので、運が良くなければ逃げることなどできないのだが。


「基地が遠ければ狙い目。そもそも、その考え方が間違っていた。すべての塔の周辺に対戦車砲や重機関銃などの装備が設置されている以上、基地そのものが遠かろうが関係ない。近づいて射程に入った時点でお陀仏だ」

「近い方がいいってことですか?」

「そうだ。今回のは逆に、基地が近いJ塔を狙う。遠いことに意味がないのはさっき説明した通りだが、近いことには意味があるんだ」


 J塔はC塔と、大きく環境が違う。

 一つはさっき言ったように、基地が近いこと。J塔のすぐ近くに強力な航空基地があり、兵器工場も隣接されている。敵にとって、戦力が集中する住協拠点の一つというわけだ。

 それには大きな理由がある。それは、海が一番近い基地だということ。彼らの兵器の一部は海で、船によって多くの都市や町に運ばれているらしい。自分達がいる第十司令基地と第十塔の近くの海は切り立った崖になっているのでとても船で何かを運ぶような真似はできないのだが――J塔近くには整備された、大きな港町があるのだ。これは、百年前までは人類が利用していた町だった。侵略者たちがそのまま使いまわしているということらしい。

 兵器のみならず、食料品など多くを海輸し、時には異星人たちの観光用の船なんかも出る大きな港町となっているようだ。まるで人類がやるように文明を築き、レジャーを彼らが楽しんでいるらしいというのはなんとも複雑な話であるが。


「今回の作戦の最終目標は、J塔を破壊して一部バリア機能を失わせ、そこから多数の航空戦力を送り込んで敵を一斉攻撃し、一部の支配地域を取り戻すことである」


 J塔付近をぐるぐる指示棒で指し示すトーリス。


「だが、バリア機能を失わせても彼らの対空砲が即座に飛んでくるようでは返り討ちにされるだけ。我々は塔を破壊すると同時に、バリア以外の兵器にも対処できなければいけない。そのうちの一つが、あの宇宙戦艦グランノース。あれに傷をつけられるような兵器を、我々は未だ一つも所持できていない」

「グランノースが出て来た時点で終わり、と聞いています。あとはもう神様にお祈りした方が早いくらいだと」

「言いたいことはわかる。だが、現状グランノースが出現しない、という完全な条件を作り出すことは困難を極める。あの船には超高速ワープ機能がある。遠い星に遠征に出ていてもすぐに飛んで戻ってこられてしまう。だから、今グランノースが近くにいない、ということがわかってもまったく油断はできないわけだ」


 だからこそ、とトーリスは続ける。


「資料にある通り、地面の下からトンネルを掘って塔を崩壊させる作戦を取るわけだ。グランノースとはいえ、地下を攻撃する方法はないからな。地下ならば安全に、塔の真下に到達することができる。そしてレナ・ゴーン軍曹とバラン・ドル軍曹の能力があれば、トンネルを掘ることも塔を真下から破壊することも難しくない」


 まさに、この作戦のために誂えたようなスキルではないか。

 名前を出されたレナとバランは緊張した面持ちで背筋を伸ばした。自分達がどれほど重要な任務を任されるのか理解したためだろう。

 本来慎重で臆病な性格のはずのレナが、緊張しながらも不満一つ漏らさない。彼女もわかっているのだ。これは、自分にしかできない仕事であるということが。


「その上で。基地と港町が近いこのJ塔を選んだ理由は大きく分けて二つ!一つは、塔を崩壊させると同時に……基地をも崩落させて、敵の戦力を一気に削ぐ狙いがあるからである!」

「え、ええ!?」

「ど、どういうことですか中尉!」

「そこ、落ち着いて聞くように。基地が遠くにあると、広い範囲を崩落させなければいけない。しかし、J塔ならば塔から近い場所にあるので……うまく計算すれば、まとめて地面に引きずり込んで、対戦車砲、対空砲、戦闘機なんかをまとめて使用不能にできるんだ」


 もちろん、それを成功させるためには綿密な計算が必要になってくる。どこの地面をどれくらい柔らかくすればいいのか?そして、どれくらいの深さにトンネルを掘り、どれくらいの威力の爆弾を設置すればいいのか?などなど。

 その計算をするためにも、トーリスとケンスケの偵察調査が必須というわけだ。地面の下にもなんらかのセンサーが張り巡らされていたら、作戦を根本的に見直さなければいけない。同時に、敵の基地の規模、兵器の種類や数なども可能な限り知る必要がある。

 この百年の間で、偵察機や超遠隔望遠鏡などの技術によって、ある程度支配地域の様子を知ることはできている。塔の近くに基地がある、などの情報を得られたのもそのためだ。しかし、これからの作戦、それだけでは到底足らない。もっと詳しく、もっと正確な情報が必要になってくるわけだ。


「いきなり基地の地面が陥没して、兵器の数々も工場も人が住んでる宿舎もお釈迦になってみろ。侵略者どもだって慌てふためくに違いない。同時に、大きく戦力ダウンもさせられる。破壊されたバリアからこちらの戦闘機が侵入しても、すぐに迎撃される確率がぐっと下がるんだ」


 そして、もう一つ重要なことがある。それは。


「さらに。この場所は侵略者にとって重要な港町が近い。港町まで崩落させて壊すつもりはないが……敵にとってはそうじゃない」

「というと?」

「宇宙戦艦グランノース最大の弱点は、砲の威力が強すぎるということ。そして、広範囲に攻撃ができる分、細かなコントロールがきかないんだ。……敵が侵入してきても、そのバトルフィールドが自分達にとって重要な町の真上、あるいはど真ん中だったら?グランノースで上空からバカスカ爆撃することもできなくなると思わないか?」

「あ……」


 そう。

 港町が近いことで、宇宙戦艦グランノースの使用を大きく制限することができるのだ。彼らが街を捨てる選択をしない限り、グランノースを使って迎撃することが困難になるのである。

 そして、あの港町は他の地域との物流の重要拠点となっているはず。あの町を捨ててグランノースでまるごと壊滅させる、なんて選択はそうそうできまい。仮にそれをやったとしたら――大混乱に陥るのはむしろ、侵略者側である。


「町にいる侵略者たちを捕虜にすることができれば、今後の交渉材料としても使える。同時に、侵略者についてさらなる情報を得る大きな足掛かりになるだろう」


 トーリスはゆっくりとみんなを見回した。


「さて、作戦の概要は以上。詳しいことは、俺とケンスケの調査結果によって決定されることになる。何か質問は?」


 まだ穴の多い作戦だし、何より無茶な点があるのは百も承知。不安がる隊員たちが多く出てもおかしくないと思っていた。

 しかし次の瞬間、沸き起こったのは意外にも――歓喜の声であったのである。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!いける、いけるゼエエエエエエエエ!この作戦なら、きっとあの忌々しい侵略者どもに、一泡吹かせてやれる!」


 立ち上がって叫んだのは、バランだ。


「なあ、みんな!落ちこぼれだ、最弱だ、なんて言われてた俺ら第十司令基地のメンバーの底力!今こそ、上の奴らに見せつけてやろうじゃねえカ!侵略者に勝とう、今こそ、反逆の狼煙を上げる時だ、違うかっ!?」

「その通りだ!」

「おっしゃああああああああああああ!やるぜえええええええええええええええ!」

「やるよやるよ、私もやるよ!」

「一緒に頑張ろう、みんな!」

「クリス司令、トーリス副官!俺ら、あんたらについていきます!」


 それは。彼らが長いこと、この瞬間を待っていたことの証明だった。自分達が役に立つことの証明を。そして、仲間をたくさん殺してきた侵略者たちに一矢報いることができるということを。

 トーリスが想像していた以上に、ここのいる者達は戦う力と生きる力に満ち溢れていたのだ。


――……ああ、本当に、いけるかもしれない。


 騒ぐ彼らを止めることもせず、トーリスは唇をかみしめた。そうしなければ、顔がにやけてしまいそうだったから。


――やってやる。俺達で。俺達、第十司令基地メンバーの力で!


 今こそ、運命に風穴を開ける時なのだ。


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