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<12・Ground>

 地面の下から制圧する。

 そんなこと、今まで考えたこともなかった。だが。


「あ」


 思わず声を上げるトーリス。


「れ、レナの能力ですか!?」

「ご名答」


 にやり、と笑って指を一本立てるクリス。


「彼女の能力は“大地”。地面を、自分の好きな強度、材質に変化させることができます。彼女自身まだ自分のスキルを完全に把握しきれていないので、もう少し研究する必要はありますが……大地を貴重な鉱石、例えばダイヤモンドなんかに変化させることはできないものの、液体や泥のような柔らかいものから、頑丈な鉄筋コンクリートまで変化させられるということまではわかっています」

「その力を使えば、トンネルを掘ることも可能ということですか……!」

「そういうことです。これは、バリアシステムの弱点を突くのにも最適なんですよ」


 彼は交互に人類側の塔の点と、敵の塔の点を棒で指した。


「我々と敵は同じバリアシステムを使っていますからね。その仕組みや解除方法なんかは最初からわかっているわけです。もちろん弱点も。塔を破壊されてしまうと、その塔が守っている範囲のバリアが解除されてしまうわけですが……弱点はそれだけじゃない」


 彼は指示棒をぐる、と弧を描くように動かした。

 そう、自分達の生活圏をドーム状に囲うように。


「バリアは地面から発生し、こんなかんじで地面までを覆っている。つまり、球体ではなくドーム状態なわけです。つまり、地面の下は守られてはいません。この弱点は人類側も気づいているので、バリアの下は地面深くまで頑丈な鉄筋コンクリートで何重にも囲って防御しています」

「それは知りませんでした……」


 なるほど、とトーリスも理解する。鉄筋コンクリートでいくら覆っても、バリアとは強度が比較にならないくらい脆いはず。だが、地面を大型の機械で掘り進んでいけばどうあがいても大きな音が出るし振動も出る。人類も馬鹿じゃないから、それに気づかないはずがない。

 そしてそんな大がかりなことをすれば人類側も手を打つ。向こうが無防備に掘り進んでいる場所を、地面に予め埋めた地雷で爆破して木っ端みじんにするくらいは普通にする。それもかねて、中立地帯には遠隔で爆破できる地雷(この地雷というのは、昔のそれとは違って踏んだだけで爆発するタイプではない。どちらかというと遠隔でコントロールできるダイナマイトのようなものだ)を、様々な深さに埋めて対応しているという。

 いくら敵が強靭でも、地面の下で使える機械や武器は限られる。人類の地雷で吹っ飛ばされて生き埋めにされてはどうにもならない。――敵が今までその手段を取ってこなかったのは、爆弾系の技術に関しては人類も馬鹿にならないものを持っているから、それを警戒しているからなのだろう。


――五年前に使った通り。中立地帯には大量に爆弾埋めて、いざという時まとめて吹っ飛ばせるようにしているというのは知っていたけど。なるほど、バリアの弱点を補完するためでもあったのか……。


 クリスの説明に感心してしまうトーリス。五年前の件を聞いた時は人類の無情さに恐怖心さえ抱いたものだが――一応、意味はあったというわけだ。


「もちろん、人類側もそれは同じ」


 プロジェクターの画像を切り替えるクリス。表示されたのは、少し可愛らしいデフォルメされたイラストだ。

 つまり、地面を断面図で見た絵である。右から敵の支配地域、中立地帯、人類が住む町と並んでおり、支配地域と中立地帯をドーム状のバリアが覆っている絵となっている。

 そして人類の生活圏から敵の支配地域に繋がるトンネルを、可愛らしいデフォルメされた人間たちがスコップで掘り進んでいる。途方もない作業であり、本来ならば人力でなど不可能に近いだろう。だが。


「レナさんの能力があれば、まったく話は変わってきます。人力と、音が小さな小型の機械だけでトンネルを掘り進めることも可能です」

「なるほど、敵に気付かれにくいってわけか」

「その通り。敵もコンクリートで地面の下を固めていることが予想されますが、レナさんの能力があれば完全に無効化できます。プリンのように柔らかい材質に変えて、サクサク掘り進めることができるでしょう。何より、今回の我々の目的は壁を壊して、敵の支配域に繋がるトンネルを掘ることではありません」


 ごんごん、と彼は壁を叩いた。

 そこの表示されている、敵の塔の絵を。


「塔の真下まで掘れば十分。真下の地面を脆いものにした上で……バランさんの爆弾を設置し、遠隔から爆破させます。すると、何が起きると思いますか?」

「!!」


 言うまでもない。

 塔は土台を失い、そのまま地面の陥没し、崩壊するだろう。そうすれば、塔は機能を失ってバリアが失われる。――長距離砲での砲撃も空爆も、人類の部隊がそこから踏み込むことも、敵の大混乱を招くことも可能というわけだ。


――そんな作戦、考えもしなかった。……陸上を進むか、空から爆撃するかしかないと思っていたのに……!


 そしてこの作戦はもう一つ、とんでもなく大きなメリットがある。それは、地面の下でトンネルを掘ることによって――敵の航空戦力を無効化できる、ということだ。

 つまり、空から爆撃される心配が一切なくなるということである。


「気づきましたか、トーリスさん」


 にやり、と笑うクリス。


「貴方が思っている通り。宇宙戦艦グランノースが出てきたら、その時点で人類は詰みです。あらゆる兵器が爆撃によって破壊され、無効化され、歩いている人間はみんな強力なレーザーと爆弾によってひき肉になってしまいます。そして、現状グランノースが“いないタイミング”で作戦を仕掛けるのはかなり難しい。何故ならグランノースは二隻以上いることがわかっている上、超高速テレポート機能を備えているからです。遠い惑星に遠征に行っていたのに、急にテレポートしてきて出現する可能性があるからまったく安心はできません。でも」

「地面の下なら、グランノースが空飛んでいても関係ない!爆撃されない!」

「そういうことです。なんならそのトンネルを、次の部隊が侵入する経路として使ってもいいですしね」


 同時に、と彼は言葉を続ける。


「グランノースは非常に強力な船ですが、実はいつも使えるわけではありません。理由は、その爆撃の威力があまりにも大きすぎるから。そして細かなコントロールもきかない。例えば……向こうの町に被害が及びかねない状況では、空から爆撃するようなことができないんです」


 合点がいった。確かに、今までグランノースに遭遇したのは、敵の支配域からそれなりに離れた場所ばかりであったと記録している。また、異星人が“人類の貴重な建物”と認識しているらしい一部の建物近くには、グランノースが飛んでこなかったという事例もあるのだ。

 最強の宇宙戦艦、唯一の弱点。それがまさか“強すぎて何でもかんでも壊してしまう”ことにあったとは。

 確かにそれならば、バリアが壊された支配域近くでグランノースは使えないだろう。今までは、バリアがあるからこそ(ちなみにグランノースの爆撃であってもバリアが壊されないのは実証済みである)、敵は今までグランノースを使って好きなだけ爆撃ができていたわけだ。

 自分達の町をも巻き込みかねないと知っていれば、グランノースを飛ばすこと自体を躊躇う可能性が高いだろう。塔を破壊してバリアを壊すということは、実はグランノースを封じるという観点でも大きな意味を持っていたわけである。


「勿論、この作戦にもまだ穴はあります。敵が地面の下にまでセンサーを仕込んでいないかどうか?地面の下に我々のように爆弾を仕込んでいないかどうか?それから……グランノース以外の戦車、ミサイルによる攻撃を防ぐための手立ても必要です。つまりこの作戦を練るためにはまず、情報収集が不可欠ということ」

「なるほど。その情報収集のために、今度はケンスケ・ヤマウチ准尉の透視能力を使う……というわけですね?」

「察しがよくて助かります。……私が何故、あの三人を真っ先に貴方に紹介したのか、これでよくおわかりいただけたかと」

「はい」


 そう、あの三人のスキルが、この作戦の要となる。地面の下に、敵のセンサーがどれくらい張り巡らされているかどうか。それをかいくぐる、あるいは無効化することができるかどうか。敵の戦車や兵器にどう対応するか。そしてどのような位置からトンネルを掘れば、より安全に、効果的に塔を破壊できるのか。


――希望が、見えてきた。


 あの日の戦場。グランノースを見た時の絶望を思い出していた。異星人たちに立ち向かおうと思ったのが間違いだったのか、人類はこんなにも無力だったのかと思い知らされたあの日。仲間たちが死んでも涙さえ出なくて、ただ自分もそのうちこんな形で死ぬのかとぼんやり思うしかなかった日。

 それが、報われるかもしれない。この司令官の元ならばやれるかもしれないのだ――あの忌々しい侵略者どもに、一矢報いることが。


「……その作戦の詳細を……俺と貴方で考えるわけですね。情報を“分析”して」

「その通り。……力を貸していただけますか、トーリス・マイン中尉」

「無論です」


 トーリスはぐっと拳を握りしめた。


「ぜひ、やらせてください。……死んでいった人達の仇を討ち、希望をつかみ取るために」


 自分達はただ、踏みつけられるだけの蟻ではない。

 証明してやろう。蟻も力を合わせれば、巨象を倒すこともあるということを。



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