第6話「和算島殺人事件 六」
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「そういうことか! 壁山さん、安藤さん、見ててください!」
「おぉ?」
すると雅はお風呂の穴に栓を入れ、蛇口を捻り水を出して貯める。壁山と安藤は最初何をしようとしているのかよくわかっていなかったが、段々とその思惑に気づき始めた
待つこと数分。水がある程度溜まった。水の中に鉄の球を入れ、栓を抜く
即座に穴の方向に転がす。それはある距離で止まったかと思われたが、何と穴に吸い込まれていった。さらにつまみが動いた
「栓を開けると水が吸い込まれていきますよね。その吸い込まれていく力を利用したんです」
「さらに栓を鍵が閉まる直前まで動かしておけばトリックは可能だ」
「確かにこれだったら時間を確保できるし・・・密室も作れるな」
壁山は唖然としていた
「トリックは分かった。ご協力ありがとう。では、犯人は我々が見つけるので」
「犯人だと思われる人も分かっています。ですが思われるを確定にするためにライターが必要なんです」
「ライター? 何故だ」
「この糸が”ナイロン”かどうか見極めるためです」
そう言うと安藤が苦い顔をしながら、ポケットに手を突っ込み、ライターを取り出す。それは雅のことを信頼している証拠だった
「どうぞ、ただ燃やすのは一部だけにしてくれ。その糸も貴重な証拠品なので」
ライターをつけ、糸に近づける。数十秒もしたら糸が溶けてきて、独特な匂いが漂う
「安藤さん、この匂いどんな感じですか?」
「どんな感じと言われても・・・例えるんだったら”肉を焼いたような匂い”だなぁ」
その言葉を聞くなり雅は走った。皆がいる場所へと
(やはり犯人はアイツか!!!)
皆がいる場所へ着くと、他の警察官が事情聴取をしていた。江口が雅を見るなり叫ぶ
「雅君! 君も事情聴取を」
「あんたなんだろ! この殺人の犯人は!!!」
涙を浮かべながら言う。周りは一斉に江口を見る。雅以外皆、事態を読み込めてない
「・・・え!? 何を言っているんだ!」
「注射器、見せてもらえませんか」
すると江口はあっけらかんとした表情で言う
「なるほどね・・・私が糖尿病を偽って、彼を注射器で毒殺して首吊り状態にしたと推理したんだな? バッカだね〜。私は本物の糖尿病患者だよ。それにあそこは密室だったじゃないか!」
江口の軽蔑するような目で雅を見る
すると、鞄に手を突っ込み糖尿病患者だけが所持が可能な手帳を見せてくる。
「ほれ見ろ」
「それこそが”心理トリック”だよ」
「何だと」
「あなたは糖尿病を患っている。だからこそ注射器を持っていても不審に思われず、その中身は意識外になるんだよ」
「人のプライバシーに踏み入る気か!」
江口が激昂する。このままでは埒が明かないと思った雅は警察に協力を求める
「警察官さん、江口さんから注射器が入っているケースを・・・」
「江口さん、ご協力お願いできませんか?」
しばらく沈黙すると、口を開いた
「へっいいよ、注射器ぐらい。ただこれで何もなかったら、お前を名誉毀損で訴えてやる!」
雅にケースを渡す。それを慎重に開け、5つの注射器に張られている番号を見る。スマホで調べた番号と一致するか確かめる
(一致している!!!)
「江口さん、この番号は偶然にしては出来すぎている。それに一二四-〇九-四と漢数字が貼られている注射器の中身、液体じゃなくて固体じゃないか」
「だ、だからどうしたんだい。何かの間違えで固まっただけだろ」
江口に若干の動揺が見られる。雅はそれを見逃さない
「その番号に何か意味があるんですか?」
警察が疑問を呈す
「えぇ、これは”CAS登録番号”なんです」
「CAS登録番号だと・・・」
「その・・・CAS登録番号って何ですか?」
鸞がさらに聞く
「化学物質を特定するための番号のことだよ。このCAS登録番号の通りに行けば、注射器に入っているのは”水酸化ナトリウム溶液”、”ヘキサメチレンジアミン”、”アジピン酸ジクロリド”、”ヘキサン”」
「それがどうしたってんだよ! ただの偶然だろうが!」
「どうかな」
雅はお風呂場でのトリックを図を用いて説明する。そして糸がナイロンで作られた可能性が高いことを指摘する
「今、この注射器に入っている化学物質でナイロンが作れることを証明してみせますよ」