第5話「和算島殺人事件 五」
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マスターキーで施錠を解除し、ドアを開ける
使い古されたドアなので甲高い音が鳴り、耳を突き刺す。雅は京極の瞳孔をじっくりと見る。段々と、段々とだが小さくなっていくのが見える
そのまま数秒が経つ
「うわぁぁぁぁぁっっっ!!!」
京極が叫び尻もちをつく。江口は京極の傍に寄って中を見るも、口を開けたまま動かない。
2人の目は地獄を見ているかのようだった
(何が・・・)
あまりの状況に雅は狼狽えながらも中を見る
・・・
そこには綾波がいた。宙に浮いている。綾波が。あまりにおどろおどろしい光景であった
2人が動かなくなるもの納得できる程に
「け、けいさ・・・」
叫ぼうにも叫べない。全身の鳥肌が立ち、体を思い通りに動かせない
しばらく綾波を凝視していると、端から夕日が来るのが見えた
「何し」
「来るなぁ!!!」
やっと大声を出すことが出来た。しかしいきなり大声を出したから夕日がビクッとし、不安そうな顔をしている
夕日の元に寄る
「大人に警察を呼んでもらうよう言ってくれるかい?」
「う、うん」
夕日が去ったことを確認すると、再び綾波のところへと戻る。江口が京極を起こして現場から去ろうとしていた
「雅君・・・警察は呼んだかい?」
「えぇ、今呼んでると思います」
「さ、雅君も船のところへ」
「現場に忘れ物をしてきたんで、後で行きます」
そう言って雅は綾波が死んだ現場へと向かう
恐怖心もあった。だが同時に怒りもあった
(綾波はきっと・・・殺されたんだ! もし殺されたんだったら絶対に・・・)
雅には疑心が宿っていた。これは本当に自殺なのか?と
自殺だとしか思えない状況。しかし雅には理解できなかった。何故和算島に来てまで、しかもお風呂場で首吊り・・・
現場に入り、周りを目玉が飛び出そうなほどに観察する
すると、浴槽から白い糸が出ているのが見えた。先端には輪っかが作られている。雅はこれで鍵を閉めたのだと確信した
実際に輪っかを鍵のつまみの部分に引っかけてみるとピッタリあったのだ
(他殺の可能性が高まった)
そして雅はこの白い糸の感触・見た目に覚えがあった。しかし本当に”ソレ”なのかは分からない
ライターでもあれば良いのだがと思った
スマホでソレを作るために必要な材料を調べる。
(「水酸化ナトリウム」と・・・!?)
水酸化ナトリウムを調べた際に出てきた情報を見た瞬間、全身に衝撃が走る
あまりの衝撃にスマホを落としてしまった。だがこれだけでは”彼”が犯人だとは決めることはできない
現場をより観察する。白い糸は何に繋がっているのか、糸を辿ると浴槽の穴まで続いている。スマホで穴の中を照らすと、鉄の球に繋がっているのが見えた
(この浴槽の穴は直径4cm程度であるので、この球の直径は3cm程度と言ったところか・・・)
糸を慎重に引っ張って鉄の球を取る
確かにこれさえあればトリックで密室を作ることが可能だ。だがもし糸がソレだったとしたら糸の強度の問題がある
しかし、この鍵は弱い力で閉めることが出来るのを思い出す
(これだったら可能だ!・・・物理トリックが!!!)
その時だった
「おい! 何してる!」
知らない人の声が聞こえてきたが誰か分かる。警察だ
そこには2人、警察らしき人がいた。1人は警察服を来ていたが、もう1人は灰色のコートを着ていた
警察服の男が言う
「君、勝手ことされたら困るよ」
「すみません・・・ですが、この事件は自殺ではなく他殺だと思われます」
「そういうのは、我々が捜査することだ」
「まぁまぁ、話ぐらい聞いてみようぜ」
灰色のコートの男が宥める
「俺、安藤 満、そしてこの警察服の男は壁山さ。ちょっと堅苦しい男なんでね」
「堅苦しいは余計だろ」
「まぁ兎にも角にも、君の推理を聞かせてもらうよ」
雅が質問をする
「江口さんから密室であったことは聞いてますか?」
「あぁ、聞いてるよ」
雅は先ほどの白い糸と鉄の球を見せる
「これさえあれば密室が作れるんです。こんな風にね」
輪っかを鍵のつまみに引っかけ、鉄の球を上から浴槽の穴に落とす。するとつまみが動き施錠される
「理屈は分かりましたが・・・」
壁山は不服そうな顔を浮かべ指摘する
「上から落としては部屋から出てドアを閉めるまでには時間が足りないでしょうに」
「なら、転がせばいいんですよ」
「だとしても」
壁山が雅から鉄の球を取る。そして浴槽内に置き、穴に向かって転がす。しかし力加減が弱かったのか入らない。再度試すも今度は強すぎたのかすぐに穴に入ってしまった。さらにつまみが動かなかった
「穴に入り、且つ部屋から出てドアを閉めるまでの時間を確保できる力加減を見つけるのは至難の業じゃないかい?」
「それにさっき見たように、転がして穴に入ったとしても鍵は閉まらない」
(それは盲点だった・・・)
雅は考える。犯人が浴槽を使った理由を・・・
すると、ある方法を使えば穴に入って施錠することができ、且つ時間を確保出来ることに気づいた