第4話「和算島殺人事件 四」
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玄関に全員が集まり、和算島の文化財紹介が始まる。
和算島の端にある倉庫には「塵劫記」や「算法少女」などの有名どころの本もあれば、間宮派独自の本もあった
本の内容については漢文やくずし字が読める鶯が活躍した
「鶯さん! この行列っぽいのは何ですか?」
「あぁ、これは行列だよ。当時でも行列の概念はあったんだよ」
「へい! 鶯! この数字はベルヌーイ数かい?」
「あぁ、そうそう。和算にも・・・」
書物を紹介し終わったところで間宮派がどのような生活を送っていたのか、実生活に和算をどう応用していたかなどを聞き、幾何学的な建造物・アートも見た。中でも木で作られた一辺3m程度はありそうな”正多面体”の建造物は皆をあっと驚かせた
そうこうしている間に夜になり、文化財紹介は終わった。終わるころには天気が荒れており、波が勢いよく立っている
和算城の中央に集まると、棚の上にフラスコやビーカーなど実験器具が置いてあった。江口曰く、間宮派の人々はここで実験をしていたらしい
広い机の上には京極が作ったカレーが置かれており、皆で食べることになった
食べ終わった後、雅は綾波と共にお風呂場へと行く
綾波の顔を見る。何やら考え事をしているようだった
「綾波さん、何か考え事してるんですか?」
それを聞いた瞬間、綾波が真剣な眼差しで雅を見る
「この島の・・・真実に気づいたかもしれない」
「え?」
しかしすぐに笑顔になる。何かまずいことを隠そうとしているかのごとく
「いやでも、夜に話すようなことじゃないな! 明日話してやるよ」
気になったが深く追求しないことにした
お風呂場に着き、どんな浴槽なのかを見るためドアを開ける
「な、何これ?」
そこには浴槽ではなく桶があった。桶の下は鉄が剥き出しになっており、さらに下には火を炊くような場所があった
独特な風呂だなと思っていたら、後ろから江口が声をかけてくる
「五右衛門風呂、ご存じでしたか?」
「うわ!? いつの間に・・・知りませんでした」
「もし五右衛門風呂が嫌なら、隣のお風呂は浴槽のためそちらを利用してください」
「じゃあ、隣のやつ使います・・・」
「五右衛門風呂いいのになぁ、私は五右衛門風呂使います」
そのまま雅は隣の浴槽を使った。
お風呂を上がり、中央で髪を乾かした後自室へと戻る
そのまま眠りにつこうと思ったが、文化財紹介の時に知った和算独自の文化”算額”の問題を解く
しかし眠気には抗えず、すぐに眠ってしまった。最後に鉛筆を落とす音を聞いた
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夜中、夕日はトイレに行こうとしていた。城にトイレはなく、いちいち外に出なくてはならなかった
親である鸞を起こして行こうと思ったが、自分1人で行こうと決める
外に出て、トイレへと向かう。トイレに着くと、夕日は違和感を感じた
トイレの向かいにあるお風呂場、片方だけ中の電気が点いているのだ
(こんな時間に・・・誰だろう)
途端に恐怖を感じ、トイレに籠る。何分経っただろうか、外に出るとお風呂場の電気は消えていた
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部屋のスピーカーから江口の声が聞こえてきた
朝起きたばっかりだからだろうか。こもって聞こえる
「おはようございます。今日で和算島とも、この魅力的な仲間たちともお別れです。荷物などを持って、東方向の玄関まで来てください」
重い体を気合で動かす。東方向の玄関まで行くと既に6人が集まっていた
「(後は綾波さんだけか)」
皆で待つこと10分。綾波は来ない。雅は分子市で綾波が船の場所の勘違いしたことを思い出し、集まる場所を間違っているのではないかと思った
「江口さん、僕別方向の玄関見てきます」
そう言って北方向、西方向、南方向と見ていったが綾波はいない。まだ部屋で寝ているのかと思い、7番の部屋のドアを叩く
「綾波さん! もう出発の時間ですよ!」
ドアを叩いているところに江口が通りかかった
「別の玄関にもいないようだね。部屋かな?」
江口が大声で綾波の名前を呼ぶも、部屋から反応はない。雅はドアノブに手をかける
鍵はかかっていない。そっとドアを開ける
そこに綾波の姿はなかった
「あ、綾波さん?」
江口が動揺する。玄関にもいなければ部屋にもいない。それは雅も同様だった
動揺しているところに泉が走ってくる
「トイレにもいませんでした・・・が、お風呂に鍵がかかってます!」
「なるほど、朝風呂・シャワーかな。呼びかけてみましょう」
江口は風呂があるところまで向かう。雅もついていく
風呂場につき、浴槽の方のドアを開けようとするも開かない。誰かが入っている証拠だ
「綾波さん!! いますか!!」
江口が呼びかける。しかし反応はない
異常だと察知した江口は、マスターキーを持つ京極を呼ぶ。京極が走ってくる。江口の表情から只事ではないことを察し、現場に緊張が走る
「開けますよ・・・」