第1話「和算島殺人事件 一」
初めてのミステリー小説です。温かい目で見守っていただけると幸いです
誤字脱字等は指摘していただけると幸いです
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「この島の真実を知ってしまったからだよ」
「ったくアイツもついてないな、深く知ろうとしなければそれで良かったのに」
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有理町
その日も雅 哲は一人とぼとぼと、ため息をつきながら落田高校へと向かっていた
5月になったというのに風は冷たく、厚着をしている人もいた。所々に雪が残っており冬がまだ去っていないことを感じさせる
高校への道のりにある公園に目をやる。年端もいかない子供たちが遊具で遊んでおり、親たちはベンチに座りながら話している
「俺にもあんな頃があったな・・・」
ボソリと呟く
横断歩道を渡り、”落田坂”と言われる長くて急な坂を歩く
新入生はこの坂で体力を使い果たしてしまい、授業は死んだ魚の目で受けるという話もよく聞く。事実、雅がそうであった。だが3年生になったからだろうか、慣れてしまった
落田坂を超えたら、高校に着く
階段を上がってそそくさと3年A組の教室に入り、誰にも挨拶をせず数学の本を開く。高校数学の範囲の本ではなく、大学数学の範囲の本である
雅は数学オリンピックでも銀メダルを取る程の実力者であり、1・2年のころは先輩に教えることもあった
ただ、雅自身は金メダルじゃないことをコンプレックスに思っている。そのせいか、最近は心の底から数学を楽しめていないというのが現状である
授業の始まりを告げるチャイムがなる。本を閉じ、ドアに目をやる
ガラガラガラという音と共に、神妙な面持ちの先生が入る
生徒たちはえもしれぬ緊張を感じる。何せこの先生はいつも笑顔で挨拶してくれる人だからだ
先生が教壇に手を着き、生徒たちを見つめる
微かな手と唇の震えがある
「雅・・・」
自分の名前を呼ばれ動揺する。心臓の鼓動が早くなり、ドクドクと体の内側から聞こえてくる
何かをやらかした記憶はない
(一体なんだ・・・)
その瞬間、先生が笑顔になる
「雅、おめでとう。和算島へ行けることになったが、どうする?」
生徒たちの緊張が解け、笑う人までいた。雅といえば呆気にとられていた
(和算島、聞いたことがある)
江戸時代に発展した日本独自の数学”和算”
そんな和算を研究する和算家たちが集った島、”和算島”。そこには幾多の和算書があり、そして和算島の象徴とも言える”和算城”がある
雅自身、和算島に興味があるため決断は早かった。しかし何故自分が選ばれたのか理由が気になった
「行きます!!!・・・けどどうして僕が?」
先生が笑顔のまま説明する
「日本のとある和算団体が是非とも、この町一番の数学の天才である君を連れていきたいと!」
「棚から牡丹餅とはこのことか」と思いつつ、この町一番の数学の天才と言われたのが嬉しく、思わずニヤケ顔になる
そのニヤケ顔を見たクラスのお調子者キャラが囃し立てる。クラスはどっと笑いに包まれた
先生曰く、明日バスで分子市まで行ってから船に乗るとのこと。船に乗るのは雅含め8人である
8人は少なくないか?と思ったが和算島自体、宿泊施設と言えるものが和算城しかないため必然的に人数が少なくなってしまう
説明の後はいつも通りに授業が進んでいき、あっという間に家に帰る時間になった
帰りの落田坂は下りになるから快適である
家に着き、学校での件を話す。過保護な両親のことだから許可されないと思ったが、無事に許可され胸をなでおろす
夕飯まで2階の自室に引きこもり、ひたすら数学の問題を解く。好きだからという理由もある。だが金メダルを取れなかった自分への戒めとしてもやっていた
夕飯を食べた後、和算島へ持っていくバッグに物を詰め込む
文房具、紙(およそ300枚)、スマホ、お菓子・・・諸々の物を入れて、眠りに着こうとする
しかし、明日が楽しみだからだろうか中々眠りにつけない。こういう時は素数でも数えよう
「2、3、5、7、・・・」
しかし眠れない。何度も寝返りを打つ
結局、眠りにつけたのは深夜の2:00あたりである
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朝起きると、時刻は8時をまわっていた。有理町から分子市までのバスの出発時刻は8:32
急いで朝の支度を終え、バッグの中身を確認してから家を出る。今日は昨日とは打って変わって気温が高く、寒暖差の影響か頭痛がする
バス停に着くと、既にバスが待っていた。バスに乗り込み、分子市へと向かう
運転中に雅は気づいた。酔い止めの飴を舐めるのを忘れていたなと。気づいた瞬間に襲ってくる吐き気。加えて頭痛
分子市まではざっと30分程度
この地獄を後30分耐えなきゃいけないのかと絶望するのであった