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一年の計は元旦にあり/二年生一月

「んー……」

「……」

 すりすりすりすり……。

「えへへー……」

「……」

 すりすりすりすり……。

「うにー……」

「……」

 ごろごろごろごろ……。

「えへー」

「……あのな、桃香?」

「なぁに?」

 すりすりすりすり……。

「その、そろそろな……」

「はやくん、はやくん」

「うん」

「はやくん、昨日まで四日間里帰りしてたんだよ」

「ああ……その、ただいま」

「うん、おかえりー」

 一瞬だけ離れて、笑顔で返事をした後、再び胸元に頬擦りをし始める。

「昨日の夜はちょっと遅かったし」

「新幹線、激戦でそこしか取れなかったから」

「今日の午前中はわたしがお店のお手伝いだったし」

「初売りは大事だろ」

「うん、そうなんだけどね」

 ピタリと動きを止めると、一際強く顔を埋める。

「とっても、おあずけだったの」

「だよな」

「だから、仕方ないよね?」

「……かもな」

 埋め合わせというか、鬱憤の発散というか、そういう時間。

 それに。

「はやくんだって」

「ん?」

「いつもよりちょっと、ぎゅー……が強めだよ?」

「……そうか?」

「そうでーす」

「桃香が言うんだったら、間違いないな」

「えへ……うん」

 世界でたった一人の判定資格保持者が嬉しそうに声を弾ませる。

「さみしかった?」

「……実は」

「えへへ」

 否定できる筈もない事実。

「はやくん」

「うん」

 潜めた声色で。

「実は、わたしも」

「桃香は実はも何もないだろ」

「えへ」

 足りなかった何かしらが埋まっていく時間。

「でも、その分今がしあわせかも」

「そうだな」

「それだけは、ちょっとだけ、いいね」




「じゃあ、改めて」

「ん」

「あけましておめでとう、はやくん」

「ああ。今年もよろしくな」

「うん、もちろん」

 ようやく腕の中から離れて、それでも指先同士は絡めたままで。

 年が変わる瞬間の通話と、昨日の夜のわずかな間のハグでも交わした挨拶を、もう一度。

「えへへ」

 下げ合った頭を戻して、目が合うと。

 再び桃香の顔が緩んだ笑顔になってそのままふわりと隼人の腕の中に戻ってくる。

「……」

「わ」

 そこをふと思いつきで、柔らかな二の腕に手を添えて反対側を向かせて抱き締めた。

「どしたの?」

「気分転換」

「そう?」

「あと、桃香の頬がちょっと赤いのと、窒息しそうで心配になった」

「やりすぎちゃった、かな?」

 気の抜けた笑い方に、後ろから頭を軽くぶつけてみたりもする。

「ちょっとだけ、な」

「えへへ……」

 後ろから回した腕に触れられながら。

「これも好きだけど、わたしからはやくんをぎゅってできないのは、ざんねん」

「ん……」

「だからその分、はやくんお願い」

「わかった」

 細心の注意で、力を籠める。

「痛くないか?」

「だいじょぶだし、もっと強い方がすき」

「ん……」

 言われるままにもう少し抱き寄せて、香りとぬくもりを全身で感じる。

「えへへ……」

「どうした?」

「大好きだな、って……はやくんのことと、はやくんにこうしてもらうこと」

「ん、俺も」

「ね」

 軽く身を捩った桃香に合わせて、後頭部に接触していた顔を斜め下に下げて、軽く唇を啄んで。

 前の通りをバイクが一台通り過ぎていくだけの無音を過ごす。

「……何だか」

「うん」

「今日はもう一日こうしているだけな気がする」

 桃香の体温を摂っているときでないと出ない声色で呟けば。

「そうだよ?」

 言下に、ほわっと笑って断言される。

「だって、まだ『お付き合い一周年だね』のぎゅうが残ってるもん」

「なのか」

「うん。で、そしたらね……多分また、昨日まで会えなくて足りなかった分、お願いしたくなるの」

「さっきまでの……いや、今しているのは?」

「別腹、だよ?」

 ねー、と吐息を漏らしながら、背中の体重を預けられる。

「訂正」

「?」

「今日一日どころか今年一年こうな気がする」

「えへ……そだね」

 もう一度しっかり回した手に、そこを抱き締めるように腕を重ねられてから。

「でも」

「ん」

「今年だけで、足りちゃうの?」

 悪戯っぽい笑いを含んだ声に、もう一度後ろから額を当てる。

「ごめん」

「うん」

「そんな筈、無かった」

「はやくん」

「ん」

「わたしも、一緒」




 そして。





「……ほんとに」

「ん」

「暗くなってきちゃった、ね」

 そういう過ごし方を、飽くことなく。





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