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記憶/二年生十二月

「行こうか」

「うん」

 電車が止まるのを待って、開いたドアから降りて。

 ホームで人の流れの中で間合いとタイミングを自然に調整して手を繋ぎ合う。

 二人だけで出かける時の、自然な行為。

「こっち、だったよな?」

「そうだよ」

 厳重に予習済みの目的地を確認するのが一割、それを理由について来てくれているかを確認するのがもう一割。

 理由を付けて顔を見たいのが後残り全部。

「えへ」

 季節柄、電飾の多めな街の中でも一際キラキラした笑顔が素直にエスコートされながら見上げてくれた。




「こっそり準備するのもいいけれど、お互いに選ぶのも素敵だよね」

 それが週間天気に一二月中旬が入り始め否応にも何にしようかの最終判断を考え始める時期に桃香がにっこりと発した言葉。

 その後には「これから何十回もプレゼントするんだから、色んなパターンがいいよね」と続いた、隼人にも全く異論はない。

 なので。

「わ、すっごい大きなツリー」

「だな」

 お互いに空けた日曜日、少し足を延ばしてちょっとだけ普段よりお洒落にして、大きめのショッピングモールへと足を踏み入れる二人だった。




「えへへ」

「ん?」

「楽しいな、って」

 登校用とは違う、ローズピンクのコートの前をちょっと暑くなったと開けてから、桃香がそっと寄り添い直してくる。

 ついでにさっきまでの指同士ではなく、腕同士でくっ付いてくる様に……ま、知り合いがいる気配もないし良いかな、と考えされるがままに任せる。

「そうだな」

「ね」

 それに桃香の言葉通り、二人して色々な雑貨などを見て歩くのは楽しくてそういう意味で早くもクリスマスを満喫していた。

「今のところは最初の頃に見たカップか?」

「うん、すっごく可愛かったんだけど……もうあるもんね」

 それぞれの家に、それぞれ用が。

「買ってもちょっと余るな」

「壊れた時の予備ってことにもできるんだけど……」

 勿体ないかな? と小さめの笑みを浮かべた桃香の目が、別の方向で固定する。

「はやくん、ちょっとあっちのお店もいい?」

「ああ、勿論」

 逆らう理由なんてなく、引かれるままに別の店へと。




「このエプロンの色合い、好きかも」

「へぇ」

 雑貨店に下げられているグレー味のある青がメインで縁取りが水色系のチェックのエプロンに触れつつ桃香が言う。

「確かにちょっと新鮮でいいかもな」

 青系も時々着るがパステルかデニム生地が多い桃香のイメージを浮かべながらそんなコメントをすれば。

「あ、そっちじゃなくってね」

「ん?」

「はやくん用、かな? って」

「ああ、なるほど」

 男女どちらでもオーケーか、と納得しながらこれも候補かな? と脳内のメモに書き加える。

 そんなことをしながら眺めていた商品棚の奥に。

「あれ?」

「どしたの?」

 ふと、気になるものがあってそちらに歩み寄れば物理的にも当然に桃香の身体も付いてくる。

「この柄、見たことある気がして」

 棚の一角に一つのデザインの布地で統一されたコーナーがあって、そこに目が留まった。

「うん、あるよね」

「……ああ」

 桃香の反応が呼び水になって、一気にピースが嵌まる。

「桃香の部屋に居る熊の服か」

「せいかーい」

 片腕は絡めたままで器用に小さな拍手が贈られた。

「ええと、確か……小学校に上がったばっかりの時のクリスマスプレゼントだったっけ? その前の年に貰ったウサギの友達が欲しいってサンタクロースに頼んで」

「うんうん」

「店で余った段ボールで部屋の一角にその子たちの家、作ったよな? しばらく撤去しなくて困らせたりもしたけど」

「あったね」

「そこから一ヶ月ひたすらその二人で遊んだよな……で、雪が降った日に寒そうだからってストーブの近くに置いていたらほんのちょっとだけ左足の所が焦げて桃香が大泣きして」

「そだね」

「あとは、ちょっとリビングにお客さんが来た時邪魔だったからって公園言っている間に親父さんに別の部屋に避けられて帰った時居なくなってて桃香がべそかきながらすっごく怒ったり」

「うん」

「他にあったことと言えば……」

「はやくん、はやくん」

 ストップストップ、と桃香の手が胸の辺りをとんとんと叩く。

「いっぱい覚えててくれるのはうれしいけど、お店の中だから」

「あ……すまん」

「ううん。続きは、お部屋に帰ってからね?」

 一瞬だけ、指先が鼻に触れて。

「でも、ほんとによく覚えてくれてるんだね」

「なんというか……桃香と話しているとそうなる気がする」

 言った後、ふと昔見た本の説明を思い出す。

「確か、単純にそれだけじゃなくて他の何かと絡めると記憶が深くなる、って」

「……」

 そう呟くと、隣から見上げてくるにこりとした顔と目が合う。

「そりゃ、そうなるか」

「なっちゃうよね」

 笑いあって、ついでに桃香が隼人の腕を抱き締めるのが強くなって。

 それから。

「あ、そのリボン、買っちゃう?」

「ん、プレゼントの副賞で。あの二人に付けてもいいと思うし、桃香がしても勿論かわいいから」

「えへへ」

 会計をして、小さな紙袋を持って雑貨店を出てから。

「また、思い出すこと増えちゃったね」

「あればあるほど、いいだろ?」

「うん♪ あ、さっきのツリーの所でハンドベルの演奏もあるって」

「聴きに行くか?」

「それも楽しいよな」

「ね」

 さっきまで以上に身を寄せてクリスマスムードの中に足を進めた。





普段表には出していない方も中々に重めな奴、というお話です。

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