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ゲーム/二年生十一月十一日

「はやくん」

「ん?」

 繋いでいる手を揺らして呼びかけられるいつもの下校ルート。

「今日は、帰ってすぐにお部屋行ってもいい?」

 課題の内容、量や桃香の家の手伝い等でその日によって異なる過ごし方。

「いいけど」

「じゃあ、準備したらお邪魔するね」




「問題です」

「ああ」

「今日は何の日?」

 定位置からニコニコの問いかけにすぐ桃香の言いたいことに思い至る。

 具体的には今日昼休みに主に絵里奈が盛り上がっていた話題、だが。

「とりあえず、記念日の一番多い日」

「そうだけど」

「個人的には従姉妹のうち一人の誕生日、かな」

「そうなんだ、おめでたいね」

 わー、と軽く拍手が起きる。

「詩乃ちゃんか望愛ちゃんのどっちか?」

「いや、また別の子だけど」

「そっかぁ」

 うんうん、と大きく二度頷いた後、桃香の手が伸びてくる。

 頬を軽く摘ままれて……一方桃香は軽く頬を膨らませて。

「いじわる、なの?」

「……ごめん」

 でもすぐにそこに行くのもなんというか、憚られる気がしたのだ。

 どこをどう遠回りしたところで最終地点は同じだろうけれど。

 観念してチョコレートが塗られたスティックタイプのスナックの名前を出せば。

「うん」

 とても良い笑顔で、頷いてくれるのだった。




「それでね」

「ああ」

 桃香が持参してきたトートバックから箱を一つ取り出しながら提案する。

「ちょっと、ゲームなんか、どうかな?」

 知ってた、と内心で頷くものの……一応話は最後まで聞くことにする。

「どんなゲームなんだ?」

「えっとね、これを両端から折らないように食べていくんだけど」

「……?」

 桃香が開けた箱からふわりと甘い香りが漂う。

 その香りの質も量も、想定とはちょっと違う。

「これって」

「ドライフルーツをスティックにしてみたんだけど」

「……」

 どうしてまた? と疑問符満載の顔で桃香を見れば。

「だって……」

「だって?」

「途中で折れちゃったら、いやだし」

 しっかりと乾燥しているものの、基本的にそれらは元となるゲームに使用するモノに比べて強度と粘りのあるものがチョイスされており……。

「ズルくないか?」

「いいの!」

「というか、ゲームの趣旨」

「ゴールするのが大前提だよ」

「おーい」

 手段と目的が逆転しているぞ、なんて思いつつ。

 したいならそう言ってくれればこっちも吝かではないのに……と帰宅して緩んだ気持ちで桃香の肩に手を置き顔を近付ける、も。

「だーめ」

「!!?」

 軽い身じろぎで逃げられる。

 初めての体験の、あまりの衝撃に、固まる隼人。

「ちゃんと、ゲームをクリアしてから」

「……」

「あ、あれ?」

「わかった」

「わ……はやくん本気のお顔」

「そりゃあ、そうなるだろ?」

 意味はやや不明だけれど。

 断固としてクリアする必要はたった今生まれていた。




「えーっと、じゃあ」

「ん」

 互いに正座して向かい合う。

 ゴールに待っている行為自体はかなり自然になってきているのに、妙な緊張が生じていた。

「ちなみに、これって」

 そっと一本手に取って匂いと色で見当はついているものの尋ねる。

「レモン、だよ」

「桃じゃないのか」

「……それは、わたしでいいでしょ?」

「……なるほど」

 軽く頬を染めた桃香のそれが伝染するのを感じる。

「それに、ほら」

「ん?」

「その、えーっと、レモン味って、言うでしょ?」

「いや、それって」

 所謂一番最初にのみ適用されるんじゃなかったか? と言いかけてその甘酸っぱさに口が止まる。

「……はやくんは、どうだった?」

「どう、って」

「その、はじめての時って」

「……」

 さっきより追熟された桃香になんてことを聞きやがる、と思いつつも同じ箱に入れられた果実が隣の物の影響を受けるのと同じことになる。

「いや、あの時はその……いっぱいいっぱいで余裕なんてなかったし」

「そなの?」

「当たり前だろ」

 前髪をかき混ぜながら記憶を辿る、も。

「すごくいい匂いがして柔らかくって……」

「わ……」

「桃香を……ええと、桃香と、その……やっぱり桃香が相手だって嬉しかった」

「……えへへ」

 やや直視が難しい状況で、桃香の指が真っ直ぐ鼻先に伸びてくる。

「わたしも、そんな感じだったよ」

「……そうか」

「うん」

 しばしそのままで居てから。

 ずっとこのままという訳にはいかないとまずは言葉を口にする。

「じゃあ、その……する、か?」

「……うん」




「どっちが先に食べればいいのかな?」

「結果は変わらないと思うけれど」

 こんなゲームに作法とかあるのか、とさっきより若干余裕を取り戻した頭で考える。

「まあ、強いて言うなら」

「?」

「桃香が先の方がやりやすい気がする」

「そう?」

「ああ」

 普段の傾向からそう判断する。

 つまり、桃香に待っていてもらうところに行くという方法。

「ん……と」

 黄色い半透明のスティックを口にした桃香が目を閉じて僅かに顔を上げる。

 その様を見るのが好きだからというのも理由の一つ。

「じゃあ、いくぞ」

「うん」

「いただきます」

 桃香の両方の二の腕を押さえながら考える前に口にした言葉に、違うだろう? と思った後、でも食べることに違いはなかったと思い直しながらドライレモンを齧る。

 濃縮された甘さと皮の苦みを知覚した後、レモンの弾力越しに桃香が少しずつそれを食んでいる感触が来て……唇を重ねる以上のことはあるまいと油断していた自分を恥じる。

 前段階は前段階で、来るものがある。

 ただ、それで停止していて桃香にばかり食べさせるのもおかしいかと考え直し口を動かす。

「……」

 幸か不幸か、桃香の目論見通りドライレモンは折れず……無論、二人とも中座することなく。

 停止しかかった前半をペースで追い上げ、丁度仲良く半分ずつを口にした。




「はやくん……」

「ん」

「どう、だった?」

 普段の平均値より長めにキスをした後、もう若干のインターバルを置いて尋ねられる。

「これはこれで、その」

「……」

「桃香としている実感があって、悪くなかった」

「えと」

 自分の口元に触れた桃香が、もう一歩踏み込んで。

「味変、せいこう?」

「まあ、その……うん」

「よかった」

 にっこりと笑う顔に、逆に。

「桃香こそ、どうだったんだ?」

「……いつもよりはやくんがゆっくりくるから、どきどきだったよ」

「ん」

 それは気が合うな、と内心だけ思ったところで。

「あと、レモン味だったね」

 人差し指を立てて言う姿に、思わず吹き出す。

「確かにな」

「でしょ!」

 一頻り笑ってから再び視線が触れ合って、残り香のような味を今度は通常の方法で確かめた。





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