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夜空

作者: 来栖雅之
掲載日:2010/02/26

 どっからだろう。

 涙が溢れてきそうなのに、それなのに、出てこない。

 どこに消えたのだろう。むかしむかし、あるところに、置いてきた、とか。

 「しらない」

 冷たい、ひんやりとしていて、暖かくない。誰も彼も、みんな他人なのは、わたしだって知っている。

 バスを待っている。たくさんの人に紛れて、夜行バスを待つ人たち。その中の一人のわたしが、夜空の三日月を眺めていて。

 だからどうしたということもなくて。

 それが辛い。

 「ねぇ、もっと何か無いのかな。わたし、何かが欲しいのに、違う。何かが欲しかったのに、ぜんぶ、飛んでっちゃった」

 「こんなところで。重いよ」

 だって、冷たいんだから仕方が無いじゃない。

 何もかもどうでもいいはずなのに、わたしは全部突き放しているはずなのに、そんなの、無いよ。

 なにも手に入れられないのに、全て奪い取られるんだよね。

 知らない何かに。

 「うそだね」

 「なにが」

 「きみがなくした」

 「なにを」

 「たのしく生きたいってこと」

 そうかもしれない。

 首を持ち上げてみた。人がたくさんごみごみしていて、その中の一人のわたし。

 三日月は雲にまぎれて、隠れて消えた。

 「私はね、世界の中に生まれたのに、世界から疎外されている気がしてしまうんだ」

 「つかれている人の話は、つかれるよ」

 「そんなこと言わないで。あなたまで、わたしの世界を疎外するの」

 「つかれているんだもの」

 ため息をついた彼は、人ごみの中で、人ごみにまぎれてしまった。

 わたしは一人になった。

 三日月は雲と口付けを交わすこともなく、覆い尽くされて消されてしまった。

 また涙が出て来た。どっから溢れてくるのだと思う?

 ねえ、ねえ。

 お願いだから、聞いて。

 溢れて止まらないんだ。わかるでしょ。わかるでしょ。あなただって、寂しいんじゃないの。あなたは、一人ぼっちなんじゃないの?

 わたしだけだって、言わせる?

 君はそうやってそっぽを向いているけど、何を見てるの?

 わたしが伝えたいことをあなたはいつだってわかっていないのに、わかっているつもりになって得意になって、わたしを哀れんだり馬鹿にしたり怒りを感じたり、やめてほしい。わたしがいつあなたに理解されたのだと言うんだろう。わからない。全てがわからないんだから、教えて欲しい。

 「ねえ、星とかって、見る?」

 「あんまり」

 「今度、しし座流星群が来るんだよ」

 「ふぅん。でもあれだよな、しし座の人って関係あるのかな」

 「わからないけど」

 「そっか」

 「今度一緒に見ようよ」

 「いいよ」

 夜行バスがやってくる。

 人ごみが動き出して、白い箱に荷物を積み込んで、街から飛び立って、街へとたどり着くために。

 わたしも荷物を業者の人に渡して、乗り込んで座席に座って、窓側だった。

 「ずるいな」

 「ふふん」

 知るか、って、いう話。

 夜空を見上げてみたら、はは、三日月。

 そして、流れ星。

 

 

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