夜空
どっからだろう。
涙が溢れてきそうなのに、それなのに、出てこない。
どこに消えたのだろう。むかしむかし、あるところに、置いてきた、とか。
「しらない」
冷たい、ひんやりとしていて、暖かくない。誰も彼も、みんな他人なのは、わたしだって知っている。
バスを待っている。たくさんの人に紛れて、夜行バスを待つ人たち。その中の一人のわたしが、夜空の三日月を眺めていて。
だからどうしたということもなくて。
それが辛い。
「ねぇ、もっと何か無いのかな。わたし、何かが欲しいのに、違う。何かが欲しかったのに、ぜんぶ、飛んでっちゃった」
「こんなところで。重いよ」
だって、冷たいんだから仕方が無いじゃない。
何もかもどうでもいいはずなのに、わたしは全部突き放しているはずなのに、そんなの、無いよ。
なにも手に入れられないのに、全て奪い取られるんだよね。
知らない何かに。
「うそだね」
「なにが」
「きみがなくした」
「なにを」
「たのしく生きたいってこと」
そうかもしれない。
首を持ち上げてみた。人がたくさんごみごみしていて、その中の一人のわたし。
三日月は雲にまぎれて、隠れて消えた。
「私はね、世界の中に生まれたのに、世界から疎外されている気がしてしまうんだ」
「つかれている人の話は、つかれるよ」
「そんなこと言わないで。あなたまで、わたしの世界を疎外するの」
「つかれているんだもの」
ため息をついた彼は、人ごみの中で、人ごみにまぎれてしまった。
わたしは一人になった。
三日月は雲と口付けを交わすこともなく、覆い尽くされて消されてしまった。
また涙が出て来た。どっから溢れてくるのだと思う?
ねえ、ねえ。
お願いだから、聞いて。
溢れて止まらないんだ。わかるでしょ。わかるでしょ。あなただって、寂しいんじゃないの。あなたは、一人ぼっちなんじゃないの?
わたしだけだって、言わせる?
君はそうやってそっぽを向いているけど、何を見てるの?
わたしが伝えたいことをあなたはいつだってわかっていないのに、わかっているつもりになって得意になって、わたしを哀れんだり馬鹿にしたり怒りを感じたり、やめてほしい。わたしがいつあなたに理解されたのだと言うんだろう。わからない。全てがわからないんだから、教えて欲しい。
「ねえ、星とかって、見る?」
「あんまり」
「今度、しし座流星群が来るんだよ」
「ふぅん。でもあれだよな、しし座の人って関係あるのかな」
「わからないけど」
「そっか」
「今度一緒に見ようよ」
「いいよ」
夜行バスがやってくる。
人ごみが動き出して、白い箱に荷物を積み込んで、街から飛び立って、街へとたどり着くために。
わたしも荷物を業者の人に渡して、乗り込んで座席に座って、窓側だった。
「ずるいな」
「ふふん」
知るか、って、いう話。
夜空を見上げてみたら、はは、三日月。
そして、流れ星。




