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8.

「ソレイユ! 待って! ソレイユ!!」


「リアン…………っ」


 はぁはぁと荒い息を吐くソレイユは、ローブの奥の紅い瞳で自らの行手を塞いだ騎乗の2人を見つめる。


「おい、落馬するぞ……っ!」


「ソレイユ!」


 バタバタと騎乗で暴れ出したリアンに、男が血相を変える。そんな2人を肩で息をしながらぼんやりと見つめると、ソレイユはジリと後退った。


「……来ないで、リアン」


「いや! やっと見つけたんだから!! もうどこにも行かないで!!」


「落ち着け、リアン……っ!!」


 我を失ったように泣きながら暴れるリアンを、確かに心配している男がそこにいた。


 リアンに火を点けろなんて酷いことを言った一方で、ひどく矛盾する行動ばかりするその男を、()()させているのは自分なのだと、ソレイユはその紅い瞳を伏せる。


「ーーごめんなさい、伯爵様。3年前、収穫祭のぶどうジュースに毒を入れたのは僕なんです。リアンは関係ない。リアンを……僕の双子の片割れを、伯爵様に取られた腹いせだったんです。ーーでも、まさかあんなひどいことになるとは思わなくて、怖くなって逃げました」


「ち、違う!! 違うんです伯爵様!! 私です!! この子は関係ありません!! 私が、あなたに毒をーーっ!!」


「………………」


 馬上で血相を変えて伯爵に追い縋ったリアンは、その男の顔を見て言葉を失った。全てを悟ったような、感情を読み取れない男にリアンの血の気が音を立てて引いた。


「お願いします! 何でもします!! お願いします!! 伯爵様、ソレイユを……っ……この子を見逃して下さい!! 何でもします! 何でもしますから!! 私を焼いて頂いても構いません!! お願いします!! お願いです! ……っ……この子を殺さないでぇ!!」


 男の服を握りしめて必死に懇願するリアンの姿を見たく無いとでも言うように、男は眉間にシワを寄せてその瞳を閉じる。


 そんな2人をソレイユは黙って見つめると、おもむろにそのフードを取り払った。


 雲間から覗く月明かりに照らされて、その銀髪が風に揺れる。リアンの面影と重なるその風貌で、その紅い瞳だけが穏やかに揺れた。


「銀の魔女は僕なんです。リアンは関係ありません。それを今から証明いたします」


「ソレイユ……っ!?」


 その言葉に男が目を開くのと、血相を変えたリアンが無理矢理に馬から飛び降りるのと、ソレイユが持っていた小瓶を一飲みするのは同時だった。


 地面にうつ伏せたままに顔を上げたリアンの伸ばした手は届かず、涙が溢れる碧い瞳が見開かれる。


 月を隠す夜の闇に、リアンの絶叫だけが響いたーー。






「別にいいのよ、私みたいな変な知識を持つ独り身のおばあちゃんは、多分遅かれ早かれ狙われたでしょうから」


 ソレイユとリアンを育てた産婆はそう言って、ゆるく笑った。


 2人の産みの母は双子を産んだその時に亡くなったとその産婆は言う。それが本当であるのか嘘であるのかはわからなかったけれど、産婆の誤算はそれだけではなかった。


 魔女狩りが過激化する中で、産まれた赤子が双子というだけで標的にされそうなものであるのに、あろうことか1人が紅い瞳を持っていた。


 ただの双子であるならば、遠い地で別々に育てることで誤魔化すことができたのかも知れない。しかし紅い瞳は不吉の象徴であり、そんなことも不可能となった。


 産婆は当初、ない時間の中で考えた。リアンだけを連れて行こうと。そうすれば、きっと1人は生かすことができる。


 そう自分に言い聞かせ続けたけれど、小さな産声をあげるか弱い赤ん坊を、心優しい産婆はどうしても置き去りにすることができなかった。


 産婆は身を潜めて2人を育て、各地を転々としながら渡り歩いた。人里でなくても生きていける技術や知識を教え、産婆として培った薬に関する知識も余すことなく教えてくれた。


 全ては2人が、ソレイユが、魔女狩りの魔の手に囚われないように。


 それは産婆が持病で亡くなって、2人きりになってからも続いた。


 リアンとソレイユはいつも一緒だった。けれどソレイユはわかっていた。


 リアン1人だけならば外の世界で生きていける可能性があるけれど、それをリアンが選択することが無いであろうことをーー。







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