懐古
そして迎えた建国祭の開始日。
僕は珍しく早く起きていた。窓の外を見ると王都は建国祭のために街中が飾り付けられている。普段はもう少し寝ているのだがなぜか目が覚めてしまった。まるでなにかを楽しみにしている子供のようで自分でも笑ってしまう。
「こんなふうに祭りに参加するのは久しぶりだな」
転生してからは領内のお祭りとかには参加したりしていたけどそれも大分前の事だしね。アーシャが子供の時にお忍びでお祭りに行きたいと言ってきたからそれについていったりもしたな。
学院時代は自分のその時の立場もあってお祭りのようなものとは無縁だったしね。
今回の自分はもう立場もちゃんとしているのだから堂々と楽しもう
、じゃないと損だ。
「ああ、そういえば……アリス様ともそういうことをしたことがあったなあ」
ふと前世のことを想い出す。前世のアリス様に仕えていた時もお祭りにお忍びで参加したことがあったな。
「あの時はまだアリス様のことを単なるお姫様としか見ていなかったっけ」
自分のその時の態度を思い返して苦笑いしてしまう。あの時の僕はアリス様をまだ信じられていなかったのだ。
僕は王都の景色を見ながらその時のことを思い返し始めた。
*
「ねえ、グレン」
美しいお姫様は少し離れて立っている護衛の僕に向かって呼びかけてくる。この王女様は僕のような卑しい身分から成り上がった人間にも積極的に声をかけてくる変わった人間だというのは彼女の護衛になってしばらく接するうちに理解した。
「なんでしょう、王女殿下」
僕はなるべく感情を込めない声で王女に返事をする。この前も僕を自分の護衛にするといきなり言い出したりとどうもこの方の考えは読めない。
「少し付き合って欲しい場所があるのですがいいですか?」
「それはどこですか?」
「今度、城下の平民が住んでいる地区でお祭りが行われます。そこに行くから一緒に来て欲しいのです。あ、もちろんお忍びでですよ」
なにを言い出すんだ、この王女様は……。
僕は思わず頭を抱えた、平民が住んでいる地域は治安もあまりよくなく王族が行く場所としてはふさわしくない。
「なぜ、王女殿下がそんなところに行く必要があるのですか?」
「王族の私が私の民がやっている祭りを見たいっていうのは悪いことですか?」
「悪いとはいいませんがなぜそんなものを見たいと思うのかということです。別にあなたは望めばいくらでもそんなこと以外に楽しいことはあるでしょう」
この方は少なくともそんなことを知らなくとも他に楽しいことがいくらでも体験できる立場の人間だしわざわざそんなことをする理由が僕には分からなかった。思い浮かぶのは自分より低い立場の人間を見てあざ笑いたいという欲求でもあるのかというくらいだ。
僕の言葉に王女殿下は苦笑いしながら答えた。
「今のあなたにはこう言っても信じてもらえないかも知れませんが……私は平民も身分の人達も大事な民だと思っています。だから見ておきたいのです、その営みを」
僕にそう言っても信じてもらえないのは王女殿下も分かっているのだろう。現に僕も内心ではなにも知らないお姫様の戯言だと思ってしまった。だけどその瞳は真剣そのものだった。
「……まったく困った王女殿下ですね。分かりましたよ、護衛として付き添います」
僕は彼女の真剣さに押されて了承の返事をしてしまった。
「ありがとうございます」
僕の返事を聞いた王女殿下は頭を下げてくる。
「やめてください、王女殿下がただの護衛に頭を下げるなんて」
普通はこんなことはしない、護衛が主人を守るのが当然だと貴族は思っているから。本当にこの人は変わっている。
「ここには私とあなたしかいないから誰かに見られる心配をする必要はありませんから大丈夫ですよ。いつも私を守ってくれてありがとう、グレン」
にっこりと微笑む王女殿下の笑顔は見るものを魅了する笑顔だ。僕は真摯に感謝を伝えてくる王女殿下にそれっきりなにも言えず、ただ困ったように肩をすくめた。
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