クレイとアリス
ーー時は遡ってラナ達がイサークの企みを阻止しようと動いていた時のこと。
「ふむ、上では派手にやり合っているようだな」
ラナ達がイサークと戦っている時、クレイは王都を巡ってある細工をしていた。
「ふふ、イサーク殿下はいい囮となってくれた、感謝しなければな。まああの男が魔剣を得たところでうまく扱えはしないだろう」
あの魔剣をきちんと扱えるのはそれこそ前世のグレンくらいだろう。正直イサークが魔剣と輝晶石による身体強化をしても鍛え上げられたあいつの剣技には絶対に叶わないとクレイは確信していた。力というものはうまく扱えるようになるまで時間がかかるもの。イサークが手に入れた力は確かに強い。が、積み上げた地力の差は簡単に克服できないものなのだ。
「……あの男の執念だけは認めるがな。私が教えたとはいえ、使ってみた魔剣をすぐ有用なものと認識して自分のものとして使うことを決め、必要なら自分の肉体をも改造して目的を達成する。嫌いではない」
俺もある意味では似たようなものか。執念深く醜い人間なのは。だからイサークの執念に対し敬意を払っているのかもしれない。
「……いかん、余計な感傷だな。素早く目的を果たすとしよう」
クレイは頭に浮かんだ余計な考えを振り払い、作業を再開する。この作業が終わり、アリス様のほうも必要なことを終えてしまえばいよいよ動くことになる。
「アリス様……もうすぐ、もうすぐあなたの願いを叶える時がやって来ます」
ここにいない主に向かってクレイは独白する。前世で不当な死を迎えた彼女に今度こそ正しい立場と権威を与えるのだ。
そのために彼はここまでやって来た。人を転生させるなどという馬鹿げた行為を大真面目に成すために数百年の月日の中で数えきれない失敗をし、やっとクレイはアリスを新しい肉体に転生させることに成功した。魂を定着させるための肉体も最高のものを用意した、今のアリスは過去の彼女より強いとクレイは思っている。
「まあ、転生させたグレンのほうは奪われてしまったが……本当にあの一件は俺の失態だった……!」
自分が犯した大失敗にクレイは舌打ちをする。今思い出しても忌々しさがこみ上げてくる。あの一件さえなければかつての友はクレイと共に行動していたのに!!
「お前の居るべき場所はそこじゃないんだ、グレン。まあいずれお前をこちら側には引き込んでやるさ。さて作業も終わった、そろそろここを去るとしよう」
上のほうから聞こえて来ている戦いの音がまだ聞こえている内にここを去ろう。ここで戦って消耗するわけにはいかない、今ここでやることはすべて終えたのだからアリス様の元へと戻ろう。
クレイは転移のための入り口を生み出し、その中へと消えた。
*
「アリス様、ただいま戻りました」
「あ! クレイ、おかえりなさい!」
魔族領の玉座の間に戻ってきたクレイの姿を見てアリスが駆け寄ってくる。
「もう遅いんだから。こっちのほうはあなたに言われたことをきちんと終えて待っていたのにあなたったら私のことを待たせるんだもの。女性を待たせる男は嫌われるわ」
ふくれっつらで抗議をしてくるアリス、クレイはその様子を見て苦笑いしてしまう。
「申し訳ありません。今回は時間がかかる準備でしたので。ですがいよいよ下準備が整いました」
クレイの言葉にアリスが微笑む。その笑みはとても幸福そうだった。
「ああ! やっと私が表に出られる時が来たのね! あはは、退屈な戦いを続けた甲斐があったわ!」
「ええ、申し訳ありません。いろいろと下準備をした結果、思ったより時間がかかってしまいました」
「いいの。あなたがここまでしてくれなかったら今の私自体いなかったのだもの。おまけに私がすべてを手に入れるための準備までしてくれた。あなたの献身を罵るなんてとんでもないことだわ」
「光栄です、あなたのお力になれたことが私はなによりも嬉しい」
アリスからの賛辞を受けたクレイはとても満足そうだった。
「それでアリス様、こちらの兵隊の準備は?」
「ええ、もう準備は出来ているわ。ほら、見て。これが私の可愛くて従順な下僕達よ」
アリスが指し示した先には大量の魔族達がいた。そのすべてに輝晶石が埋め込まれており、目は虚ろで焦点があっていない。静かにしているのがとても不気味だった。その中には魔族の中でアリス達が来る前には圧倒的強さを誇っていた者達もいた。
「全員ちゃんと私の命令を聞くようにしているわ。強力な魔族も殺して私のものにしたからきっと助けになるはずよ」
「素晴らしい。ご自身の力をこれほどに使いこなせているとは。これだけ掌握出来ていればこれからの行動にも支障は出ないでしょう」
「うふふ、褒めてくれてありがとう。ああ、わくわくするわ! ねえ、いつ私達の計画を始めるの?」
「どうせなら派手に始めましょう。私達の目的を広く知らしめるためにふさわしい日時と場所は決めてありますから」
クレイはアリスにある日を伝えた。クレイから示された日にアリスはにこりと笑う。笑顔だけ見れば可憐な少女だ。けれどその笑顔はとても嗜虐心に満ちていた。
「ああ、なるほど。いいわね、この日で私もいいと思うわ」
「では、私はこの日に向けて準備を進めます。アリス様もそれまではゆっくりとされてください。魔族を従える戦いでお疲れでしょう」
「そうさせてもらうわ。ああ、本当に楽しみ! もう少しで世界とグレン、両方が私のものになるのだから」
玉座の間に楽しげな少女の笑い声が美しい音楽のようにいつまでも響いていた。
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