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潜入②

 僕とエリナは今、ユーハイム侯爵が王都に所有している屋敷にやって来ていた。エリナ曰く、今日の貴族達の会合はここで行われるそうだ。僕達のいる広間にはすでに他の貴族が集まっていた。来客のために食事も用意してある。

 結構堂々と集まってるんだね。いや、逆に堂々としているから怪しまれなかったのかな

 貴族達が堂々と集まっていることに僕は一瞬戸惑うもすぐに考え直す。ユーハイム侯爵が貴族の中でも高い地位を持っているため、他の貴族を呼んで話をするのは彼くらいの立場になれば普通のことだ。むしろこそこそと密会することのほうが逆に怪しまれるかもしれない。


「ラナさん」


 エリナがこちらに声をかけてくる。少し緊張しているみたいだ。


「……緊張してる?」


「少し。ですが大丈夫です」


「大丈夫だよ、僕がついてるから。なにか起きた時は僕がなんとかするし、君は堂々としてていいよ。さっ、侯爵令嬢と侍女の役割を演じるのに戻ろうか」


「はい」


 エリナは短く返事をすると深呼吸する。そうして近くのテーブルの食事を見て、


「アイリス、あの食事美味しそうね」


 と声をかけてきた。緊張せず堂々と振る舞えている。切り替えは出来たみたいだ。ちなみにアイリスというのは僕のことでアリス様の名前を参考に考えた偽名だ。


「ええ、そうですね、エリナ様。とっても美味しそう」


 そのまま2人で侯爵令嬢と侍女という演技を続ける。しばらくすると1人の男性が部屋の中に入ってきた。派手な服を纏い、自分の持っている力を誇示するように振る舞っている。


「お父様……」


 エリナがぽつりと呟く。彼が彼女の父親であるユーハイム侯爵だ。彼は来客に挨拶をして、最後に僕達のところへやってきた。


「エリナ、今日はよく参加してくれた」


「いえ、ユーハイム家のためですから」


「この家の跡取りとしてお前はよくやっている。待っていてくれ、あともう少しでお前に栄光を与えることが出来るぞ」


 栄光を「与える」……本人の意思は関係なしってことかな。


「ん? そちらの侍女は……初めて見る顔だが」


 ユーハイム侯爵の注意が僕のほうへ向く。僕は失礼のないように綺麗な作法で挨拶をした。


「お初にお目にかかります、侯爵様。私はアイリスと申します、先日からエリナ様の侍女として雇われてエリナ様のお世話をさせていただいています」


「とても優秀なんですよ、アイリスは」


 僕を褒めるようにエリナがフォローを入れる、上手、上手。


「ほう。それは結構、エリナのことをよろしく頼むぞ」


 ユーハイム侯爵は僕には形式的な会話しかしない。本当に興味がないんだな、侍女のような身分の人間には。


「おお」


 周りの貴族達からどよめきが起こる。誰かが部屋に入ってきた、イサーク様だ。

イサーク様は部屋に入室すると貴族達に挨拶していく。ここにいる彼らを観察していて気付いたことだけど、皆国王陛下の実力主義の人材登用などの改革に反対している貴族達だ。そして反対派の筆頭であるイサーク様。

 エリナが言う通り、イサーク様がこの貴族達の旗頭なのは間違いなさそうだね。本当にユーハイム侯爵と組んで国王陛下を排除するつもりか。


 やがてイサーク様がこちらにやってくる。彼はユーハイム侯爵と会話を始めた。


「イサーク様、本日は来ていただきありがとうございます」


「いいえ、ユーハイム侯爵。お礼を言わなければならないのはこちらです、このような場を設けていただき感謝します」


「そうおっしゃられるということはもう覚悟を決められたのですな?」


「ああ」


 イサーク様はなにかを決意した表情でユーハイム侯爵の言葉に答える。


「ふふ、それはなによりです。ようやくですな」


 イサーク様の言葉を聞いたユーハイム侯爵は満足そうな表情を浮かべ、部屋にいる人間に聞こえるように声を張った。


「皆の者、イサーク様がついに決断されたぞ!」


「おお!!」


 その場にいた貴族達からどよめきが起こる。皆顔には歓喜の表情を浮かべていた。

「ここに集まった皆に宣言する。私は父である国王陛下を討つことを決意した!」


 集まった貴族達を見て声を張り上げ高らかに宣言するイサーク様、自分に酔ったように言葉を続ける。


「近頃の我が父の行っている政策は今までこのアルバイン王国に尽くしてくれた君たちのような立派な貴族をないがしろにするものだ。私はそんな父が王国を統治していることを憂慮している。ゆえに私は心を同じくする君たちと共に父と戦うことにした! 父とそれを支持する者達を打倒するために力を貸して欲しい!!」



「「はっ!!」」


 力強いイサーク様の宣言に広間にいた貴族達が勢いよく返事をする。本当に戦の前のような雰囲気だ。

 イサーク様がここまで改革に反対する貴族達をまとめあげていたなんて。エリナが僕達に知らせてくれなかったら本当に戦いになっていたかも。


「まあそんなことはさせないんだけどさ」


 小さな声で誰にも聞こえないように呟く。僕は侍女服のポケットの中に忍ばせたものに触れる。その中に入っているのは音を記録することの出来る道具だ。これにイサーク様の今の演説を記録させてもらったから彼の反乱の証拠は十分だ。

 

 あとはここにいる貴族達を押さえて証拠とともに突き出すだけ。


「さてと……そろそろ動き始めようかな」


 僕が動こうとした時、横を通り過ぎる人影があった、エリナだ。彼女は父であるユーハイム侯爵のもとへと歩み寄ると彼の前に立って話を始めた。

  

 ここまで読んで頂きありがとうございます! 


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