逢瀬③
店を出た僕とロゼちゃんは王宮図書館に向かって歩いていた。綺麗な夕日が僕と彼女を照らす。
「ロゼちゃん、ごめんね。もっと時間があればゆっくり相手をしてあげられたんだけど」
「いいえ、いろいろとお話が聞けて楽しかったです」
僕の前を進むロゼちゃんは言葉通り満足しているようで軽快なステップを踏んで歩いていく、そのうち歌でも口ずさみそうな様子だ。
さっき店で話をしていた時は少し機嫌が悪いのかと思った時もあったけど今は本当に機嫌がよさそうでよかった。
「楽しかったならよかった。わざわざ会いにきてくれた人間につまらなかったと思われたくはないしね」
「そんなことはありませんよ、やっぱりラナさんは凄い人でした」
ふと立ち止まって僕のほうを振り返るロゼちゃん、そして僕をじっと見つめてくる。
「どうしたの? そんなに僕をじっと見つめてきて?」
「その……ラナさんにとって今一番大切なものって……やっぱりお話に出てきたライアム家の方ですか? よく話の中で名前が出てきていたので大切な方なのかなって」
「え? ああ、うん……そうだね、少なくとも今の自分にとって一番大事な人はアーシャだよ。もちろん他にお世話になった人や友人達も大事だけどね」
アーシャがいなかったら今の僕は生きていなかったかもしれない。彼女には返しきれない恩がある。少なくとも今の僕にとっては他のなによりも大切な人だ。他のことと彼女のことなら僕は迷わずアーシャのほうを優先する。
「彼女には本当に助けてもらったから。だからロゼちゃんの言っていることは間違ってないよ」
「……ふーん」
僕の言葉を聞いてロゼちゃんはしばらく黙り込んでしまう。表情は変わっていないけどどこか雰囲気が冷たくなった気がした。もしかしてアーシャのことを話すと機嫌が悪くなってる? でもロゼちゃんとアーシャにはなんの繋がりもないし機嫌を悪くする理由も思い当たらないけど……。
「そうですか。……いいなあ、そのアーシャさんって人は。誰かから大切に思われて」
しばらくしてロゼちゃんが口を開く。その口から紡がれた言葉はどこか羨望の混じった声音だった。
「ロゼちゃん……?」
「ラナさんみたいに凄い人に愛されているなんてそのアーシャさんって人のことが羨ましくてつい本音が漏れちゃいました。私も誰かにそんなふうに愛されてみたいなあ……」
「ロゼちゃんならいくらでもそうしてくれる人はいると思うけど。それに僕は凄くなんて……」
ロゼちゃんが近寄ってきて僕の唇に指を当てて言葉を遮る。大人びた表情をした彼女に少しどきりとしてしまう。
「それ以上の言葉は不要です。ラナさん、謙遜も過ぎれば恨みを買いますよ。程々にしたほうがいいと思います」
「……今日初めてあった子にもそんなことを言われるとは思ってなかったよ……」
何故だろう。アーシャやリアナにも似たようなことを言われるし、前世ではアリス様にも言われたな、謙遜は美徳かもしれませんがもっと自信を持ちなさいと。
「ふふ。やっぱり似たようなことを周りの方から言われてるんですね」
やっぱりと言った顔でロゼちゃんがくすくすと笑う。いやそんなに言われてそうに見えるのか、僕。
「……頑張って直すよ。ロゼちゃんの言う通り周りの人間にも注意されてるからね」
「それがいいと思います。せっかくライアム家の養子になったんだからもっと堂々としていたほうがいいですよ」
「そうだね、正式に家の人間になったしロゼちゃんの言うとおり堂々としていないと」
国王様の前でも恩を返すと宣言しちゃったからね。僕のせいでライアム家が侮られたりするのも嫌だからこれからは振る舞いも気をつけないと。
「なんだか僕のほうが励まされてるみたいになっちゃったね」
「ふふ、こんなことでいいならいくらでも」
ロゼちゃんは楽しそうに僕に微笑む。大人びたところもあるけどこういうところは年相応に見える。ちょっと不思議な子だけど悪い子ではない。
「あ、王城が見えてきましたよ!」
いつのまにか王城の近くまで来ていた、ロゼちゃんともお別れだ。
「ラナ様。今日は私の無理なお願いを聞いてくださってありがとうございました」
「ううん、大丈夫だよ。僕も楽しかったから。もう日も暮れるから早く行ったほうがいい、お世話になってる人がいるんでしょう。その人の元に早く帰るんだ」
「はい、本当にありがとうございました」
ロゼちゃんは行儀よく挨拶をすると元来た道を戻っていった。一人で行かせるのは不安だけどあの子なら変な寄り道せずに帰るだろう。
「さてと僕も調べ物を頑張りますか、今朝ロゼちゃんと会う前に見つけた本のようなものもあったし本当に僕が転生したことに関係するなにかが見つかるかもしれないしね」
王宮図書館はまだ少し開いている、終わりの時間まで目一杯調べ物をしよう。今日見つけたような本がまた出てきたらこの調査は無駄じゃなくなる、明日からも王都にいる間は可能な限り、ここに来て手がかりを探すんだ。僕は一人王宮図書館へと向かって歩き出した。
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