閑話
ーーラナ達が王都に着く少し前。魔族領にて。
死体、死体、死体。辺り一面に魔族の死体が転がり、血の匂いが充満している。地面には戦いの痕跡が刻まれ、先ほどまで凄惨な戦闘があったことを物語っていた。
その中心に立っているのは一人の少女。美しい金髪と白い肌を返り血で染め、
静かに佇んでいる姿はこの戦いの勝者が誰かを物語っていた。これだけの殺戮を起こしたのに彼女の顔にはなんの感慨も浮かんでいない。
「弱い、とてもつまらないわ」
アリスは転がった魔族の死体を蹴りながら、退屈そうに吐き捨てる。新たな魔王となることを決めてから彼女とクレイは魔族の領土を自分達のものにするために他の有力魔族を叩き潰して回っていた。
彼女が魔王になると宣言した時、力のある魔族達はそれに反発しアリスに戦いを挑んできた。
しかし彼女はそのすべてを逆に討ち滅ぼし、圧倒的な力を見せつけた。滅ぼした魔族が従えていたもの達はアリスの配下に入っている。彼女の軍団は着実に出来上がってきていた。
「少しは期待していたのに魔族ともあろうもの達はここまで弱いとはね。数百年前とは大違いだわ。前の私が生きていた時より遙かに弱体化してる」
正確には彼女達が生きていた時代に有力だった魔族は前世のアリス達が倒してしまい、今は有力なものが残っていないというのが実情だった。アリスの前の魔王がようやくまとめあげたところだったのだ。
「酷なことを言われないほうがいいかと。今のあなたに敵う魔族などそういないと思います」
「そうなの? もうちょっと強い魔族がいて欲しかったわ」
クレイの言葉に私はもの足りないといった様子で返すアリス。この調子でいけば魔族は遠からず彼女の支配下に入るだろう。
それが済めばいよいよ人間との戦いだ。すでに人間側にこちらの味方を作ることもしている。戦力として魔族をまとめ上げることは絶対にしなくてはならない。
「ここまで順調に来ています。魔族を掌握すればいよいよ人との戦争です」
「今の私は魔族でさえもこんなふうにあっさり倒してしまうのよ。人が私の相手になるのかしら」
「油断は禁物です、人にも強者はいます。我々に対して当代の勇者がどう対応してくるかも分かりません。慢心して前のようになりたくはないでしょう」
「……」
クレイの指摘にアリスは黙り込む。
「分かったわ、あなたの言葉だから従ってあげる」
言葉では従っているが、憮然とした態度は変わっていない。内心では不満なのだ。
(仕方がないこととはいえ、連日作業のように魔族と戦い続けていれば無理もないか。なんとかせねば)
*
「ねえ、クレイ。私、グレンに会いたいわ」
ある日、アリスは唐突にそんなことを言い出した。玉座に腰掛けて足をぷらぷらさせながらなんでもないことのように。
「……さすがにそれは控えてもらえるとありがたいのですが。今、彼女と会ってこちらのことを勘づかれるのはまずいです」
「どうして? 私は顔を知られていないし、今の彼に会っても問題ないでしょう。敵とは認識されないと思うわ」
「それはそうですが……」
(日頃の鬱屈をこんな形で晴らそうとするとは……)
アリスのお願いにクレイは内心で頭を抱えていた。確かに今世では彼とアリスは出会っていない。しかし万が一こちらの正体に勘づかれることがあってはいけないのだ。あの勇者に私達がどう見なされているのかも分からないのだし。
「ねえ」
クレイが考え込んでいるといつのまにかアリスは彼の近くまで来ていた。彼女は彼の瞳をのぞき込む。
「駄目……かな? 一度今の世で彼がどんな姿をしていてどんな生活をしているのか見てみたいの」
懇願するような声音でクレイにお願いしてくるアリス。
「はあ……」
クレイは溜息をついて天を仰ぐ。本当に自分はこの方にお願いされると敵わないな。
「分かりました。彼と会えるようになんとかしましょう」
「本当!? ありがとう!!」
クレイの回答を聞いたアリスは彼の手を取って感謝の言葉を伝えてくる。これで満たされるのだから自分も単純だと思いながらクレイはアリスを見て微笑んだ。
「ええ、できれば二人きりになれるようなタイミングと場所であなたをグレンに会わせます。会うに当たっての懸念は私がなんとかしましょう」
「ごめんね、我が儘言って」
「いいえ」
どのみち不満をため込んでいたからどこかで発散する必要はあっただろう。この機会にそれを発散させるのは悪いことではないかもしれない。
「ああ、やっと、やっとあなたに会えるわ!!」
グレンに会えることになったアリスは心の底から嬉しそうだ。上機嫌になってその場でくるくると回転を始める。
「今のあなたはどんなふうな姿なの? クレイ曰く性別は女性みたいだけど……でもいいわ。私のグレンに変わりはないもの。ああ! 会える時が楽しみ! どんなことを話そうかしら!」
そしてクレイはラナが王宮図書館で一人で調べ物をしていること、勇者であるシャルロットが王都を離れたことを確認し、アリスと彼女を再会させた。
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