公爵令嬢のお願い
アーシャと手合わせしたあと僕は訓練場にあるシャワー室で汗を流して朝食を食べた居間に戻ってきていた。例のお菓子を侍女に用意してもらっているところだ。
僕の目の前には負けたことがよほど悔しいのかふくれっ面をしたアーシャが座っている。
「アーシャ様、いい加減機嫌を直してください」
「……嫌。悔しいもの。今回は勝てると思ったのに……」
あー、これはしばらく機嫌が直りそうにない。我が主は負けず嫌いなのだ。
「ほら、お菓子が運ばれてきましたよ。そんな顔をしてたらおいしいものもまずくなりますよ」
「……」
運ばれてきた丸いお菓子を皿からとってアーシャの口元に持っていく。今回のお菓子は王都からのものらしい。彼女は不機嫌な表情のままだったがやがて口を開けてお菓子に食いつく。
「!? サクサクしておいしい……」
僕も一つ摘まんで食べる。おお、おいしい。確かにサクサクして食感もいいし、味も甘すぎずちょうどいい感じだ。
アーシャはこのお菓子が気に入ったのか次々に摘まんでいく。食べている時の表情はとても幸せそうだ。
「紅茶もどうぞ」
「「ありがとう」」
紅茶を持って来てくれた侍女に二人でお礼を言う。
(これ、また手に入れられるように名前とか後で確認しておこう)
とてもおいしいお菓子に出会えたことの幸福を噛みしめながらアーシャと僕はゆっくりティータイムを過ごした。
*
「とてもおいしかったですね」
「そうですね、僕も気に入りました」
僕達はお互いに満足して休憩を終え、部屋に戻る途中だ。アーシャは先ほどの訓練で負けた不機嫌はお菓子で吹き飛んでしまったらしい、今は歌でも歌い出しそうなくらい上機嫌だ。
「ふふ、やっぱりアーシャ様もお菓子が大好きなんじゃないですか」
「な、これはただ純粋な感想を述べただけです!」
僕のからかいに向きになって反論するアーシャ。昔から自分が恥ずかしいと思っていることを指摘されるとむきになって反論してくるのは変わらない。
「あなたはいつも私を子供扱いして! そうやってからかって遊んでくるのはやめなさい」
「は~い」
間の抜けた返事をしながら僕はアーシャの前を歩く。ふと彼女が歩くのをやめて立ち止まっていることに気付く。
「どうしたんですか? アーシャ様」
「ラナ、その今日の夜はあなたの部屋に行ってもいいかしら?」
「いいですけど……どうしてですか?」
「久しぶりにあなたと会えたし話がしたい。それに……少し話を聞いてもらいたくて……」
言いにくそうに切り出すアーシャ。あまり表にださないが公務のことでいろいろとあったのだろう、少し精神的に参っているように見えた。
だから、
「いいですよ。僕も一人で過ごすのも退屈だなと思ってたので。遠慮なく言ってください」
僕の返答にアーシャは可憐な笑みを浮かべる。うん、本当に綺麗なんだよねー、僕の主は。
「よかった。それじゃ夜にあなたの部屋に行くわね」
「はい、お待ちしています」
そう言って僕はアーシャと一端別れて自分の部屋に戻るのだった。
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