大公②
「大公様、アーシャ様とラナ様がこちらにいらっしゃいました」
僕とアーシャを案内した侍女は部屋の扉をノックして中にいる大公に呼びかける。しかし部屋の中からはなんの返事もない。
「ん? 誰もいないの?」
「いえ、そんなはずは……。大公様、失礼しますね」
僕らを案内した侍女は断りを入れてから部屋の扉をあける。中には大きなテーブルとたくさんの椅子が並べてあった。
その椅子の一つに灰色のショートヘアに紺色の可愛い服を来た少女が座っていた。目は閉じており、どうやら眠っているようである。彼女の目の前のテーブルの上にはお菓子を食べた後の皿と紅茶の飲んだティーカップが置いてあった。横には黒と金の色を基調とした華やかな剣が立てかけてある。
「これは……」
「失礼します。大公様、大公様」
侍女が慌てて寝ている少女を起こしに行く。肩を揺すると少女は眠たそうな目を擦りながら目を覚ました。
「んん……おお、アーシャにラナがやっときた。わたしは待ちくたびれてしまった。罰としてお詫びの品を所望する」
僕とアーシャを確認するなり、彼女は遠慮のない言葉を浴びせてきた。
「あはは……相変わらずだね。シャルロッテ」
僕は椅子に座っている少女に苦笑いしながら声をかける。相変わらず気ままなのは変わっていないらしい。
彼女こそが大公ーーシャルロッテ・ノースフィールドだ。この幼さからそうは見えないだろうが代々世界の危機と闘ってきたノースフィールド大公家の現当主だ。
「まったくだ。このわたしが来てやったというのに随分待たせて……おかげで寝てしまった」
「それは君が突然来たのも悪いんじゃないかな」
「ラナのくせに生意気。あとでお仕置き」
待たされたことがよっぽど嫌だったのかシャルロッテは相当機嫌が悪いみたいだ。ジト目で僕のほうを見てくる。
「お久しぶりです。大公様。今日は一体どんなご用件でこちらに来られたのですか」
アーシャが僕とシャルロッテの会話に割って入る。確かに彼女が出てくることは珍しい。普段は持っている屋敷に引きこもっていて、ほとんど表に出てこないからだ。彼女が出てきたということはなにかよくないことが世界にとって起ころうとしているということだろう。
「アーシャ、久しぶり。会えて嬉しい」
アーシャには可愛い笑顔を浮かべて丁寧に挨拶するシャルロッテ。僕の扱い雑だなあ……。
「今日ここに来たのは二人が遭遇したって言っている謎の人物について聞きたかったから」
「「!?」」
シャルロッテの言葉に僕とアーシャは驚く。あの件で大公家は動くと思っていなかったからだ。
「どうしてその件を知っているのですか?」
「ん……ノースフィールド家の諜報は優秀。各地で不穏なことが起こればすぐに私に報告が来るようになっている」
えへんと胸を張るシャルロッテ。こういったところは年相応で幼いんだよね。
「その話を聞いてよくない予感がしたからここに話を聞きにきた。それに数ヶ月前からこの子が反応している」
シャルロッテはそう言って立てかけてあった美しい剣を僕らに見せる。剣は淡い光を放っていた。
「神剣がね……」
神剣ーーシャルロッテが持っている剣のことをそう呼ぶ。いつ作られたかも分からない剣で代々ノースフィールド家に受け継がれてきた。世界の危機に反応し、警告する機能を持っているようでノースフィールド家はこの剣と共に世界の危機を退けてきた。
「この子が反応するということはなにかよくないことが起きている証拠。二人もよく知っているはず」
シャルロッテの言葉に僕らは頷く。事実彼女は世界の脅威になりそうなもの達をその手で何度も葬っている。僕らが討伐した古竜の時もどこからともなく駆けつけてきた。彼女と知り合ったのもその時だ。
「最近王国で魔物の強さも上がっていると聞いている。お前達二人はそれを引き起こした張本人と遭遇したからそいつについて聞きたい」
彼女が動いてくれるのはこちらとしても心強いので僕とアーシャは迷うことなく彼女に謎の男について説明した。
*
「なるほど。面倒な力を使う」
僕達の話を聞いたシャルロッテは心底厄介だというふうに呟いた。
「転移を封じれれば捕まえられると思うんだけどね」
僕は昔使っていた魔剣ならあの転移を破ることが出来るかもしれない。ただそれがないと転移を止めるのは難しかった。
「おまけに魔物を操って逃げるための時間を稼がれるしさ。なんとか対策したいけど」
「ん……ありがとう、二人とも助かった。相手がどんな力を持っているか知れたのはとても有意義」
「お役に立てたのなら光栄です」
シャルロッテは追加で出されたお菓子を次々と食べながら考えこんでいたがやがて席を立ち、部屋の入り口へ歩いていく。
「もう行くの?」
「うん、聞きたいことは聞けた。ありがとう、二人とも。わたしもその男を探してみる。だだ……」
シャルロッテは僕のほうをじっと見て黙り込む。ぼ、僕になにかあるのかな……
「ラナはあの男に気をつけたほうがいい気がする。その男はラナと因縁があるかもしれないから」
「!?」
シャルロッテの言葉に僕は肝を冷やす。彼女には謎の男が僕と前世で因縁があったかもしれない人物は伝えていない。それなのになぜ……。
「ん……そういうことだからわたしはもう行く。お菓子美味しかったからまた食べさせて欲しい」
そう言い残すと小さな少女は部屋から去っていった。
「……」
「ラナ? さっきシャルロッテが言っていたことはどういうことでしょう……?」
アーシャはシャルロッテの言葉に困惑しているようだ。それはそうだろう、彼女が知っている情報では僕とあの男の関係なんて推察しようがないから。
「……なんでもないよ。少し休んだら国王陛下に挨拶にいこうか」
胸のざわめきを誤魔化すように僕は足早にその部屋を去った。
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