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忍び寄る影

アーシャ達が部屋で会話していた時から少し時間は遡る。


「どうして! どうしてあの女が!」


 僕ーーダリアン・ローレンスは怒りのあまり、部屋にあった机に拳をたたきつけていた。大きな音が響く。


「ダリアン様、どうかされましたか?」


 音を気にしたのか執事が声をかけてくる。その気遣いさえ苛ついた。


「なんでもない! 下がれ!」

「は、はい」


 怒鳴りつけて執事を下がらせる。今日の一件に対する怒りで他のことはどうでも良くなっていた。


「なぜあの女がライアム家の養子になるのだ。あんなどこの馬の骨ともしれん生まれの人間が!!」


 それがひたすら気に入らない。幼い時に拾われ、ライアム家に拾われたあの女は今王国では名の知れた人間になっている。そして……次期ライアム公爵たるアーシャは彼女を頼りにしている。


 そうこの僕よりもだ。


 もともとローレンス家はずっとライアム家に仕え、支えてきた。父からはライアム家を支えるように言われて僕は育った。

 しかし、今自分は必要とされているだろうか? アーシャは僕よりも彼女ーーラナを頼りにしており僕はむしろ煙たがられている有様だ。

 学院の時も彼女のことを考えてラナのことを排除しようとした。彼女のような得体のしれない人間といると今後のアーシャのためにもよくないと思ったからだ。

 しかしその結果はアーシャに叱責される結果に終わってしまった。僕はなぜ叱責されたかが未だに分からない。

 あれは彼女のことを思ってやったことなのに、どうして叱責されないといけないんだ!


「そうだ! 僕の行動はすべて彼女ーーアーシャのため! なのにそれを理解しようとせずライアム公爵閣下はあんな女を養子にとり、地位を与えることを決めた!」


 僕は両手を広げ、誰も聞いていない中、独白を続ける。


「この僕が! アーシャやライアム家の未来を考えているのに! あいつらはあの女のことばかりを心配する! 父上は僕の進言に耳を傾けてくれない! なぜ僕だけこんなにも不遇なのだ!」


 誰も聞いていないのは分かっている。しかし自分の不遇を嘆かずにはいられない。


「こんな扱いを受けて! 僕がライアム家に尽くす理由はあるか? いやないだろう! いっそあの家に取って変わることを考えてもいいくらいだ!」


「くく……そうだ、お前は奴らに取って変われる器の持ち主だ」


 誰もいないはずの部屋に突如響いた声に僕は悪寒を覚える。後ろを振り返ると黒いローブを来た謎の人物が立っていた。性別ははっきりとは分からないがおそらく声の感じからして男だろう。


「お前の気持ちはよく分かる。今日の君に対するライアム公爵の態度は明らかに不当なものだ。ずっとあの家のことを考えて進言してきた君の今の気持ちを考えると心が痛むよ」


 僕はその人物に恐怖を覚え、後ずさる。だがなぜだろう、彼から目が離せない。


「な、何者だ! お前は! どうやってこの部屋に侵入した!」

「まあ落ち着け、俺はお前の味方だ。お前にあの女ーーラナに勝つための力を与えに来ただけだよ」

「な、なに?」


 男はこちらにゆっくり歩いてきて僕の手になにかを手渡す。それは指輪のようなものだった。


「これは持ち主の魔力操作技術を著しく向上させる魔導器だ。これを使って彼女を正面から打ち負かしてしまえ、そうすれば皆君の実力を認めるさ」

「!?」


 僕は唾を飲み込む。ごくりと喉がなり、一筋の汗が額を流れる。あの女に勝てる? 本当なのか? あの無敗の最強剣士に。


「ほ、本当にあの女に勝てるのか!? あの女は間違いなく当代最強の剣士の一人だぞ、こんな指輪一つで勝てるようになるとは……」

「なら少し試してみたらいい。その指輪をつけて魔力を操ってみろ、普段のお前より遙かに効率よく魔力を操れるはずだぞ」

「……」


 男の言葉は胡散くさいことこの上なかった。多くの人間が魔力操作に苦労しているのだ、こんな指輪一つでなにか変わるなんてなにかがおかしい。

 しかし、男の言葉に僕は惹かれていた。あの忌々しい女に勝てるというのは僕にとってはとんでもない魅力だった。


「この指輪をつければあの女に勝てるんだな?」


 男は僕の言葉を聞いて、頷いた。


「もちろんだ。凡人がその指輪をつけても使いこなすことができないだろう、だが君のように才能がある人間なら話は別だ。必ずその指輪を使いこなし、彼女を打ち負かすだろう」


 男のその言葉はまるで毒のように僕の体を犯していく。気付けば僕は指輪をはめていた。


「!?」


 指輪を嵌めた途端、僕の周りを大量の魔力が渦巻く。そのすべてを僕が制御している実感がある。


「はは……」


 全能感が僕を支配する。今の僕ならなんでもできる、そんな気分だ。


「素晴らしい!! 素晴らしい!! この力があればあの忌々しい女をきっと倒せるぞ!! ははははははははは!!」


 気分が高揚していた僕はフードの男が僕をあざ笑うような笑みを浮かべてこちらを見ていたことにも気づかなかった。


「待っていろ、ラナ! 僕は貴様を超える!」


 僕はフードを被った人物を見る。彼はなにも言わず僕のほうを見ていた。


「くくく……貴様には感謝する。これほどの力を与えてくれるとは。本当に何者なんだ?」

「何者かね……魔術師とでも呼んでくれればいいさ。一つはっきりしているのは俺は君の味方ということだ」

「魔術師ね、随分ともったいぶった名前だな。だが僕のラナを倒すという目的に強力してくれるならお前の詳しい素性などどうでもいい」


 僕はラナをうまく倒すためにどうすればいいか思考を巡らす、そして僕をないがしろにしたライアム家の二人にも屈辱を与える方法を考える。


「おい、お前」


 僕はフードの男に呼びかける。


「なんだ?」


 男は特に感に触ったような雰囲気でもなく、淡々と答える。その反応は酷く無機質な機械のようだ。


「お前は僕があの女を倒すのに強力してくれるのか?」


 僕の問いかけに男は首肯する。


「もちろんだ。お前を助けるために俺はここにいるのだから」

「なら少し相談に乗ってもらいたい。あの忌々しい女を始末するのに良い方法はないか? やったことが僕だとばれないように」


 男は僕の発言を聞いてしばらく考えこんでいたがやがてなにか良い案を思いついたのか顔をあげた。


「奴の性格を利用するとしよう、くくく……」


 不気味な笑いが僕の部屋に木霊した。



 ここまで読んで頂きありがとうございます! 


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