vsアリス④
アリス様は相変わらず余裕がある。さっきの銀桜の攻撃を受けてもほとんど効果があるようには見えない。
(まったく厄介な体だね。邪竜に吸血鬼、それからノースフィールドの肉体なんて。この世界で最高のものを詰め込んでいるじゃないか)
邪竜や吸血鬼はこの世界で最も恐れられる怪物だ。その力を取り込み肉体は強靱なノースフィールド家の者に魂を定着させている。無茶なことかもしれないけれど僕の戦友であったクレイはそれをやってのけた。
(一体それを成し遂げるためにクレイはどれだけの犠牲を払ったんだろうね)
戦友はそれだけアリス様が復讐できるようにすることに執念を燃やしていたのだろう。アリス様が復讐を可能にするために彼女に最高の力を与えようとしたのだ。
「・・・・・・本当に大したやつだよ、君は」
かつての戦友に改めて僕は感心してしまう。その執念は悲しい方向に向いてしまったのが残念だけど。
「今戦いとは別のことを考えてたみたいだけれどそんな余裕あるのかしら?」
アリス様は少し不満そうにしている。その表情だけ見るとどこにでもいる少女と大差ない。
「戦う時は集中して欲しいものね。せっかく楽しめそうなのに無視されるのは興が削がれるわ」
邪竜の炎が僕へと襲いかかってくる。僕は紅禍を振るい、その炎を断ち切ってアリス様目指して駆ける。
「まだまだよ。これはどうかしら?」
アリス様は軽く手を振るう。大量の血の槍が生まれ、一斉に僕目がけて放たれた。
(まともに捌くのは不可能だね、なら!)
僕はもう一つの魔剣、銀桜を振るう。美しい虹色の刃が放たれ大量の血の槍を粉々に粉砕していった。
僕は雷と風の魔力操作を利用して一気にアリス様との距離を詰める。そのまま右手に持った紅禍を彼女目がけて振り下ろした。
「そんなに簡単に斬られてはあげないわ」
血の壁が紅禍を受け止める。紅禍の効果のおかげで壁自体は壊れたがアリス様には届かない。
「宙に浮いた体は隙だらけね」
アリス様の周囲の地面から血棘が伸びて僕に襲いかかる。血の棘は僕の体を捉え、あらゆるところを貫いた。
「くっ……!」
宙に体が浮いた状態ではまともに防御の態勢をとることは出来ず、僕は血棘に貫かれる。
「っ……!」
「あはは! どうしたの、こんなところであっさり終わっちゃつまらないでしょ、グレン!」
「終わる気なんてないですよ! こんな攻撃で!」
銀桜を振るい、血棘を破壊する。この攻撃で負った傷自体は大したことはない。僕は二振りの魔剣を構えて戦闘態勢をとる。
「うふふ、意気込んでた割にはまだまだね。もう少しきちんと私を楽しませてくれないと最強の名が泣くわよ、グレン」
「言われなくてもそうしますよ、アリス様」
挑発するようなアリス様の台詞に僕は不敵に微笑んだ。まだまだ勝負はこれからだ。