vsアリス③
僕はじっとかつての主を見つめる。世界から捨てられ、世界を滅ぼすことを選んだかつての主を。
「ラ、ラナ……来てくれたの……」
もうぼろぼろの状態のリアナが僕のほうを見て驚く。横では同じくぼろぼろのシャルロッテがじっと僕を見つめていた。
「ごめん、リアナ。遅くなった、後は僕に任せて」
僕の言葉にリアナは素直に頷いた。
「そう……するわ。悔しいけれど私じゃやっぱり勝てなさそう。あなたにこれを託すわ」
そう言ってリアナは僕に持っていた魔剣を渡す。銀桜と紅禍、かつての僕と共に戦場を共にした相棒達だ。
「……どうして僕にこの剣を?」
「私の勘。なんとなくあなたならこの二振りの魔剣を使いこなせそうだから。だから必ずあの子に勝ってね」
「……ありがとう。絶対に負けないから」
僕は右手に紅禍、左手に銀桜を握りしめ、構える。アリス様はそんな僕の姿を見て楽しそうに笑っていた。
「その二振りの魔剣はやっぱりあなたが持つのがふさわしいわね。その剣を持って私の元へと戻ってくれれば最高なのだけれど」
「それは出来ません。言ったはずです、僕はあなたを止めるためにここに来たんですから」
僕の答えを聞いたアリス様は口の端をつり上げ不敵に笑う。
「ならまた敗北を味わってもらいましょう。私を止めるというのならここで私を殺すことね」
血を蹴って吸血鬼と竜の力を持つ魔王が迫る。繰り出されるのは血で作られた剣。
(まずは小手調べってことかな)
アリス様はこの戦いを楽しんでいるようだった。振るわれる血剣を銀桜と紅禍で受け止める。
「ふっ!」
右手に持った紅禍を横薙ぎに振るって相手の血剣にぶつける。血の剣は砕けて宙に溶けるように消えていった。
「まあこんな程度は裁けて当然よね」
アリス様は一旦僕から距離をとる。今度はあの邪竜の炎が僕目がけて放たれた。
僕はその炎に向けて紅禍を振るう。禍々しい炎は僕に当たる前に消え、雲散霧消する。
「流石紅禍。この攻撃まで斬るなんて、魔力が含まれていたら基本的に無効化か。使う人間が使うと厄介ね」
「おしゃべりしている暇はありませんよ、アリス様」
僕は左手に持った銀桜を振るう。銀桜から虹色の光が放たれアリス様へと直撃した。爆発が起き、土埃が巻き上がる。ノースフィールドの神剣の放つ攻撃を模した一撃だ、普通なら当たればただでは住まない。
しかし、
「痛いわ、グレン」
「……」
土埃の中からアリス様の声が聞こえた。姿を現したアリス様は腕を吹き飛ばされていたがその腕はすぐに元通りに再生する。
「ふふふ、ちょっと遊んじゃった。あなたが言葉通り本気で私を止める気があるか分からなかったから。でも今の一撃で分かった、あなたの言葉に嘘はない。本当に私を止める気なのね」
「最初からそう言っています。王都での僕の様子を見たら疑われるのは無理もないですけれど」
「うふふ、それならますます楽しめそうだわ。本気になったあなたを完膚なきまでに倒して、今度こそ私のものにしてあげる。さあ、もっと楽しみましょう、この戦いを」