vsアリス②
「……」
爆風が私――アリス・ローゼンタールの頬を撫でる。土埃が大量に舞い上がり、敵である二人の少女の姿は見えなくなっていた。
「まったくこんな程度の攻撃で死んだのなら興ざめだわ。もっと楽しめるかと思ったけれどあっけないものね」
戦いのあっけない幕切れに私は落胆していた。正直に言えばアルバインの娘はまだしもノースフィールドの末はもう少し楽しませてくれると思っていたのに。
「まあいいわ。どの道消さなきゃいけなかったから変な労力をかけずに殺せたのはかえって行幸だったかしら」
少しの名残惜しさももう消えてしまった。後は残った有象無象をすべて始末し、グレンを私のものにするだけだ。
「まだ終わりじゃありませんよ。アリス様」
「!?」
突然聞こえた声に私の意識は引っ張られる。次の瞬間には私目掛けて一振りの剣が振り下ろされた。
私はその剣を後方に飛んでかわす。さっきの私の攻撃で巻き起こった砂埃は晴れていく。そこにいたのは銀の美しい髪に青い瞳を持つ少女。
「ああ……!」
その姿を見た時、私は感嘆の吐息を漏らす。かつての姿とは違う、けれど私にとっては前世も今も変わらず大事な人間だ。
「グレン、また会えたわね。とても嬉しい……!」
私は心の底からの己の感情を吐き出した。気持ちを言葉にする度にああ、やっぱり私はこの人のことが好きだということを自覚する。こんなふうになっても彼のことになると一人の人間として心が躍るのだ。
「ねえ、グレン、私のものになってくれる用意は出来た?」
王都での戦いで私と彼らの圧倒的な力の差は見せつけた。彼自身私と戦っている最中に心が折れていたし、後はその彼がどう決断したか答えを聞くのみだ。
私の質問にグレンはすぐには答えなかったがやがて顔をあげて私を見つめる。
「アリス様、僕はようやく決心がつきました」
「へえ、じゃあ聞かせてくれる? あなたがどんな決断をしたのかを」
「僕は……あなたを止める」
「……私と一緒には来てくれないの?」
「ええ、今のあなたと一緒にはいけない。僕はあなたにこんなことを続けて欲しくない。だから僕はあなたを止める道を選びます」
グレンはきっぱりと宣言する。その瞳に宿っているのは強い意思。
「はあ」
私は落胆して溜息をついた。そして右手に血の剣を生成する。
「そう、それは残念。王都でさんざん思い知ったと思ったけれどまだあなたには教育が足りなかったようね。いいわ、いまからまた打ちのめしてあげる。あなたが今大事にしているものをひとつひとつ壊して……あなたを私のものにしてあげるわ」
私の宣言にもクレイは動じない。彼もまた静かに剣を構えて戦闘体勢に入った。