vsクレイ④
「はあ……はあ……!」
荒い息を吐いて僕は地を踏みしめていた。僕の視線の先には殴り飛ばされてもう動けなくなっているクレイが倒れている。
「……なぜだ」
ぽつりと呟くような声、耳を澄ませていなければ聞こえないようなか細い声だったけれど僕にははっきりと聞こえた。
「なぜお前ばかりがすべてを手にするんだ! いつもそうだ、お前は才に恵まれ、皆から愛され、俺が愛している女性の心も魅了し……俺が欲しいと思ったものすべてを持っていくな……」
それはクレイの気持ちの吐露だった。生きている間は決して聞くことが出来なかった彼の本音。ずっとそれを隠して僕と接してきたのだろう。
「クレイ」
僕はクレイに近づいていく。彼の傍まで来た僕は膝をついて彼の顔を覗き込んだ。
「宣言した通り僕は君達の目的を絶対に止める。君やアリス様に人間を滅ぼすなんてことして欲しくないし……今の時代の友人達を守りたいから」
「はっ」
僕の言葉を聞いたクレイは蔑むように笑った。
「いいさ、俺を下したとしても今のアリス様は止められないぞ。ノースフィールド家の最高の肉体に邪竜の力。俺が持てるすべてを用いてあの方の復讐のために最高の力を与えたからな。お前の力でなにが出来ると思う」
「僕一人じゃない。皆でアリス様を止めるんだ」
いつのまにか僕の傍にアーシャが立っていた。彼女は僕の言葉を聞くと強く頷く。
「ははは……くだらない」
クレイは不愉快そうに僕達のことを睨む。まだ僕のことを許せていないのだろう、いや彼の恨みや屈辱は目的を達するまで決して消えないかもしれない。けれど恨まれていても彼は僕の大事な友人だ、だから彼に疎まれてももう向き合うことから逃げたりはしない。
「まあ英雄を気取りたいなら好きにしろ。だがな、今のアリス様は昔とは違う。復讐に取りつかれた暴君だ。お前がアリス様を説得出来るかどうか見物だな」
「してみせる、必ず」
クレイの嘲笑を僕は強い言葉で否定する。だってそのためにこの場にきたのだから。
「……本当にむかつくな、お前は」
クレイは最後に悪態をつくのを聞いた僕は立ち上がり、アーシャのほうを見る。
「待たせてごめん、アーシャ。早くリアナとシャルロッテを助けに行こう」
「はい、でもクレイさんとは……」
最後まで悪態をついていたクレイの様子を見ていたのかアーシャは不安そうに僕のことを見ていた。
「今はこれでいいんだ。さあ急ごう、大分時間も使ってしまったし」
「……分かりました、あなたがそう言うなら」
最後まで穏やかに話すことが出来なかった戦友を置いて僕とアーシャは最後の戦場に向かった。
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