vsクレイ③
つだってあいつ――クレイ・トワイライトは俺が欲しいものを持っていた。
例えば戦闘の技術。あいつの剣の腕は本当に天才的だ、見ただけで相手の技を模倣し、より洗練された剣技に昇華する。魔力操作の精度も高く、戦闘で剣技と組み合わせた応用も上手い。その実力でアリス様にも認められていた。傍目からみたら人が羨むものをあいつはすべて持っていた。そのくせ俺に対しては、
「クレイの魔力操作は本当に凄いね。いつみても無駄がないから」
「クレイが一緒に戦ってくれるなら僕は安心出来る」
なんて褒め言葉をなんの躊躇いもなく吐くのだ。
正直いらいらしていた、すべてを持っているような人間にそんなことを言われても嬉しくもなんともない。今から思い返せば嫉妬だったのだろう。今グレンとの関係がこんな状態になって自分のことを冷静に分析できるとはなんとも皮肉だが。だけど同時にどうしようもなくあいつのことを尊敬もしていたのだ。
だからこそ許せなかった、あいつが魔王との戦いで死ぬ時に俺とアリス様にすべてを任せていったのが。
あれだけの人間が責任を負わず、世を去ったのが俺は許せなかったのだ、おまけに俺の好いた王女を悲嘆にくれさせたのだから。
だから俺はお前が嫌いなんだよ、グレン。
*
「ぐっ……!」
僕の攻撃を受けて吹き飛ばされたクレイが地面を転がる。僕はそれをじっと見つめていた。
「くそ……お前はいつも、いつも……」
「……ごめん、クレイ」
僕は謝罪の言葉を口にする。クレイは僕の言葉を聞いて訝しんだ。
「……どういうつもりだ、今更」
「君を苛立たせているのはきっと僕の前世で死ぬ時の態度でしょ。前世でなくなる時に一人満足して君とアリス様に後のことを託した。……君はきっとそれが許せなかったんだ」
「……」
僕の話をクレイは黙って聞いている。僕はクレイへの語りかけを続けた。
「そりゃ託されたほうはなにを勝手にと思うよね、酷く重い責任を一緒に頑張っていこうと思ってた人間に押し付けられるようなことになっちゃたんだから。あの時の僕は酷く無神経だった」
「……そこまで理解しているならもう俺とアリス様の邪魔をするな。なんの未練もないならなぜここで出しゃばってくる! 俺達の正当な復讐をなぜ邪魔をするんだ!」
「……君やアリス様を止めたい、そして今の僕にとって大事な人達を守りたい。これが今の僕の意志だからだ。僕は前世で失敗したことをまた繰り返すつもりはないよ、今度こそ自分がやるべきことをやるんだ」
僕ははっきりと宣言する。僕の宣言を聞いたクレイの顔が怒りに染まっていった。
「なにを今更。俺達を止められるなら止めてみろ! アリス様のあの憎しみを受け止め、彼女を思いとどまらせることが出来るなど出来はしないさ!」
クレイはそのまま一気に僕との距離を詰めてくる。僕はクレイの攻撃を受けて反撃をするが彼もそう簡単には引き下がらない。お互いに決定打に欠ける激しい攻防が続いた。
「相変わらずだね、君の戦闘技術は衰え知らずだ」
「当たり前だ! 勝手に死んだお前と違ってこちらはずっと戦っていたのだからな!」
クレイの姿が消える、彼がいた場所にあったのは黒い渦だ。
「これで終わりだ、消えろ!」
クレイの声が聞こえてきたのは僕の後方からだった。転移を利用して僕の後方に移動し、風の刃を資金距離で放つつもりだ。
「……そう来ると思った」
「!?」
僕はクレイの放った風の刃をかわし、彼へと反撃する。彼が転移を使ってくるのはなんとなく読めていた。
「ぐっ……!」
「迂闊だったね。転移する戦法を僕が知っているのにそれを肝心なところで使うなんて。冷静に戦況を見る君らしくない」
僕は戦友へ言葉を送り、最後の一撃を彼へと打ち込んだ。
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