決意
「誰かと思えばお前か。グレン」
クレイは現れた僕に冷ややかな声をかけてくる。まあ王都での僕を見ていたら当然だろう。
「今更出てきてなんのつもりだ。前の戦いで俺達から尻尾を巻いて逃げたくせに。貴様が今更出てきて出来ることなどなにもないだろう」
「……そう言われても仕方ないよね」
僕があっさり発言を肯定したことにクレイは驚いた表情を浮かべたがすぐに元に戻った。
「そこまで分かっているならなぜここに出てきた? なにがしたい?」
「決まってるでしょ」
クレイの質問に僕は迷わず答える。
「アーシャや皆を守るため、そして……君やアリス様を救うためだ」
僕の言葉を聞いたクレイは不愉快そうに表情を歪めた。
「救う? 救うだと?」
静かに、けれど確かに怒りの籠もった言葉をクレイは僕に叩きつけてくる。
「笑わせてくれる! お前になにが出来たんだ! さっさと死んで俺とアリス様にすべてを任せて満足して逝きやがって! 肝心な時に一緒にいなかった人間が救うなどと傲慢なことを言うな!」
「そうだね、君が言うようにこの気持ちは僕の我が儘みたいなものかもしれない。君やアリス様がした苦労のことを分かるなんて僕は言えない。だけど……」
僕は言葉を区切り、クレイに向けてはっきりと自分の気持ちを告げる、かつて伝えられなかったから今回はきちんと伝えるんだ。
「僕が君やアリス様を救いたいと思っている気持ちは本物だ。だから僕はこの気持ちに従って行動する。前世じゃ出来なかったから。その結果こんなことになっちゃったしね」
前世で僕達は世界を救うために行動した。その結果僕たち自身の気持ちに向き合うことがおろそかになってしまっていたのだ。だから死んだ後のことを任せてアリス様やクレイに重荷を背負わせることになって、それが二人をこんなふうにしてしまった。
今回はその間違いを繰り返してはいけない、僕自身がクレイと向き合わなきゃいけないんだ。
「ははは、いいだろう。そこまで言うのなら俺とアリス様を救ってみせろ! かつて世界を救ったように! 出来るとは思えんがな!」
クレイが戦闘態勢に入る。僕も両手に雷属性の魔力を集めて剣を作り、構える。
戦う用意は調った、後はクレイと真っ向から向き合うだけだ。
「ラナ……」
アーシャが僕に声をかけてくる。
「ありがとう、アーシャ。部屋に来てくれた時に君が違う選択もあるかもしれないって言ってくれたおかげで僕はここにやってこれた」
「えっ……」
「僕はさっき言ったように皆を守って二人も止めるつもりだ。ここからは僕が戦うよ、これは僕がやるべきことだから」
「僕が戦うじゃありません、まったく」
僕の言葉を聞いたアーシャは少しむすっとした表情で僕の隣に立つ。
「ア、アーシャ?」
「私もまだ戦えます。あなたを一人で戦わせたりしません。彼を救いたいなら強力します。どのみち彼を倒さないとリアナ達を助けにいけませんから」
「……ありがとう、それじゃフォローよろしく」
過去を終わらせるために僕はクレイに向けて駆けだした。