死闘③
ああ、なんて忌々しい。
シャルロッテに鼓舞されて立ち上がってきたアーシャという少女に対して私――アリス・ローゼンタールは苛立っていた。
この時代では強いほうなのだろう、しかし実力は自分に遙かに及ばない。実際本人も私に怯えている。
それでも私に立ち向かおうとする彼女には見ていて心底鬱陶しかった、視界に入れたくもないくらいだ。
さっさと殺してしまおう、そんなことを考えると同時にどうして私はあのアーシャという娘にこれほど苛立っているのかと考えてしまった。
もちろん彼女がグレンの大事なものであるというのが気に入らないのも事実だ、そこにも激しい怒りを感じている。だけどその感情は怒りや憎しみの類いであって苛立ちではない。
(ああ、そうか。きっと私が持っていなかったものを彼女が持っているからだ)
私は最後一人ぼっちだった、人を信じたゆえに結局一人きりで死んでしまい歴史の記録からも消された敗者だ。
けれど彼女は人を信じて周囲の人間と一緒に戦っている、彼女自身周囲の期待や善意に答えようとしている。人の善性を信じているのだ。 それはかつて前世の私が信じて失敗したことだった。だからなのだろう、自分が成そうとしてできなかったことをしている彼女の姿に苛立ってしまうのは。
(嫉妬か……人間はやめたのにまだこんな感情を持つなんてね)
ノースフィールドの末裔であるシャルロッテとアーシャを相手にしながら私は自分を自嘲した。そんなものは転生した時に捨てたはずなのに。
(……理解した、やっぱりあなたは今の私にとって最も憎むべき人間の1人だ)
必死に恐怖を殺して私に向かってくるアーシャの攻撃を捌きながら私は改めて彼女に対して敵意を自覚した。
「その程度?」
「……っ!」
私はアーシャの攻撃にすべて対応しながら彼女に問いかける。攻撃が通じていないのを見てアーシャは表情が険しくなった。一緒に攻撃を加えているシャルロッテに関してもやはり本調子でないのか攻撃に冴えがなかった。
「勇んで私に戦いを挑んできたのにこんなものなら拍子抜けね」
私は片腕を横に振って炎を生み出し周囲を焼き払う。アーシャとシャルロッテの2人は回避のために後ろに下がった。
「はあ……」
終わらせよう、力を落としているノースフィールドの当主も怯えた目障りな小娘なんて今の私の敵ではない。
「消えて」
血の槍を生み出し、2人目がけて一斉に放つ。2人共血の槍に対して防御の態勢をとった。
「攻撃が終わったって誰が言ったのかしら」
私は笑いながら禍々しい炎を生み出し、2人目がけて放った。槍の防御に気をとられていた2人は炎に反応できない。
「さようなら」
「いいえ、まだよ!」
「!?」
凜とした声が響く。次の瞬間、炎は切り裂かれて消滅した。炎が消えた後に立っていたのは美しい金髪に強い意志を秘めた青い瞳でこちらをみている少女――リアナ・アルバインだった。