死闘②
「へえ、もう立ち直ったんだ、あなた」
冷ややかな声が私――アーシャ・ライアムに浴びせられます。私の視線の先にいるのはアリス・ローゼンタール。王都を灰にし、私を殺した恐ろしい怪物です。
彼女から発せられる殺気は凄まじいものです、私は彼女の放つ殺気に気圧されてしまいました。
「あら、のこのこ出てきて私の殺気に怯む程度なの? それじゃノースフィールドの末裔の足手纏いじゃない」
相手の指摘はもっともです。今の私は彼女に恐れを抱いています。
それでも引き下がるわけにはいきません。
「……あなたのことはラナから聞きました。アリスさん」
「!?」
私の言葉を聞いたアリスは驚きました。しかしその顔は怒りで歪んでいきます。
「……そう、グレンはあなたに話したの。私のことや関係性も」
「はい」
私は彼女の問いに短く答えました。私は言葉を続けます。
「あなたの過去を聞いた時、正直同情してしまいました。あなたがあんなことをする理由も理解出来ます。きっとすべてが憎いのでしょう」
私の言葉をアリスはこちらを睨みながら聞いています。けれど攻撃はしてきません。
「けれど私は……ライアム公爵家の者です。私は領民達を守る責任があります。そしてラナのことも……私にとっても彼女は大事だから」
ラナの名前を出した時、アリスから放たれる殺気が一段と大きくなりました。
「あなたが今の世界のすべてを破壊したいというなら私はそれを全力で止めます。だから……たとえ怖くとも引くことはしません」
そのまま私は剣を構えます。アリスはそれを見て笑い始めました。その笑いには私に対する嘲りと憎しみが込められています。背筋に悪寒が走って動けなくなりそうなのを必死に堪えます。
「立派な人間ね、あなた。でも……」
彼女の怒りに反応してか周囲に紫炎が生まれます。
「今の私はそういう人間に一番苛立つのよ!」
放たれる邪竜の炎、それをなんとか光属性の魔法で防ぎます。
「私に1度殺された人間が偉そうに決意を述べるのを見るのは本当に腹が立つ! グレンのことも自分のものみたいに語って! あなたは今すぐ殺してあげるわ!」
彼女は血で剣を作ると私に斬りかかってきます。私は迎え撃つために光属性の魔法を放ちますがアリスはそれをものともせず私へと突撃してきます。
「くっ……!」
私の攻撃を突破したアリスは血の剣を振り下ろしてきます。魔力で盾を生み出しそれを防いでも彼女の勢いを削ぐことは出来ません。
「そんな程度で私を止められると思ったの?」
苛立ちを含んだ言葉が私に投げかけられます。やがて私の生み出した盾に亀裂が入り砕け散りました。
「消えなさい」
「そうはさせない」
「!?」
アリスが私目がけて攻撃を放とうとした時、割り込んできた影がアリスの血の剣を弾き飛ばしました。
「私もいることを忘れないで」
「大公様」
「忌々しいわ……! 本当に強さは一級品ね!」
割って入った大公様に対してアリスは心底鬱陶しそうでした。しかし彼女の戦意は衰えていません。むしろ戦意を高揚させながら高らかに宣言しました。
「まあいいわ。二人になっても今のあなた達じゃ大した脅威にはならない。きちんと殺してあげるから安心して」
怖い……!
アリスの力に私は完全に萎縮してしまっていました。あんなものにどうやって勝てばいいのでしょう。
ふと大公様の姿が目に写りました。大公様はアリスの宣言にも動じている様子はありません。彼女は私のほうを見て語りかけてきました。
「アーシャ、今の私の力じゃ一人であの魔王を倒すのは厳しい。だから力を貸して、一緒に闘って欲しい」
一緒に闘って欲しい、その言葉が私の恐怖に支配されそうな心を奮い立たせてくれます。
「……はい! 大公様」
力強く答え、私は再び立ち上がりました。