開戦
ラナと話した後、私--アーシャ・ライアムは自分の部屋に戻って溜息を吐きました。ラナの前ではなるべく普通に振る舞ってみせようとしましたがやはり動揺は大きかったのです。
「まさかラナが転生した人だったなんて……」
ラナは普通の人ではないとは思っていました。人より大人びた雰囲気があっていつでも私が悩んだ時にいいアドバイスをくれる。同年代とは思えないと感じていたのも事実です。ずっと感じていた違和感に今日の彼女の話を聞いて納得してしまいました。
「しかもあの時戦った人アリスがラナがかつて仕えていた人だったなんて……」
ラナは自分の過去とアリスという人について話す時苦しんでいました、見ているだけでこちらが辛くなってしまいました。
「あんな状態の彼女に積極的に戦えなんて言えませんよね……」
必死に言葉を探して彼女を励ましました。けれど今でもあの言葉が正しかったどうかは私にも分かりません。
「……今は私の立場としてやるべきことをやらないと」
正直ラナから聞かされたアリスという人の過去には同情をしてしまいました。人を救いながら捨てられた、そんな経験をして転生でもしたなら今の世界を憎んで滅ぼしたいと思うのも道理です。
けれど私はライアム公爵の娘、将来この領地と民の命を預かる者として彼女の過去に同情したとしても彼女の蛮行を止めなければなりません。
「……正直、また戦うのも怖いですけれどね」
前回の戦いでは私は彼女に1度殺されてしまいました。大公様のおかげでなんとか今生きていますが彼女がいなければ私は今ここにはいないでしょう。大公様もあの時に力を使っているから今回彼女と戦っても全力では戦えないとおっしゃっていました。
そんな状況で再びあのアリスと戦うのは恐ろしいことです。
「それでもやらなきゃ……」
私達が戦わなきゃ多くの人が死ぬのですから、気持ちをなんとか奮い立たせます。それでもラナが隣にいない心細さは消えてくれませんでした。
*
「見えたわね」
私は遠くに見える街を見つめる。視線の先にあるのはライアム公爵も住んでいるライアム領の中心地だ。自分の配下である魔族達に領地を攻めさせてはいるが中枢は私自ら壊滅させることを決めた。
「ええ、しかし良かったのですか? あなたと私だけでここに来ても? もっと確実にライアム領を落とせたと思いますが?」
「いいの、どうせ他の人間は私の眷属と化した魔族に勝てないだろうし。任せておけば勝手に死ぬわ。それよりも目障りなアルバインの王族を殺してグレンを手に入れることを優先したいから。あなたは私の力に不安でも覚えるの?」
「とんでもありません。あなたが強いことは誰よりも知っています。万全を期すために言っただけのこと」
「ふふ、分かっているわ。ごめんなさいね、意地悪なことを言って。それじゃおしゃべりはこれぐらいにしてそろそろ始めましょうか」
私は高揚感を覚えながら行動を開始する。ずっと叶えたかった願いが叶うまで後もう少しだ。
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