幕間
シャルロッテからノースフィールド家の記憶を見せられてから僕はライアム邸の自室に引きこもりがちになっていた。
アリス様達は自分の支配下に置いた魔族を使ってアルバイン王国全土への攻撃を開始したようだ。いくつかの領地は大変なことになっているらしい。
ライアム領も攻撃を何度か攻撃を受けたため、僕達も魔物と戦って撃退した。ライアム領は他の領と比べて力のある領だから今のところは酷い目にはあっていない。
けれど僕の心は今だに晴れないままだった。このままアリス様達がライアム領に襲ってきたら僕は彼女達と戦えるのだろうか?
正直、戦える気はしない。また王都の時みたいに迷って相手を斬れないかもしれない。
「なにが最強だよ、笑っちゃう」
自嘲気味に呟いた言葉は虚しく部屋にこだまする。その時、部屋の扉が控えめにノックされた。あまり人と話したい気分ではないけれど仕方ない。
「誰?」
「ラナ、私です、アーシャです。今、少しよろしいですか?」
問いかけた僕の声に答えたのは聞き慣れた幼なじみの声だった。安堵感を覚えながら僕はその声に答える。
「ああ……うん、いいよ」
アーシャは遠慮がちに扉を開けて部屋へと入ってくる。ベッドに腰掛けていた僕の隣に彼女は座ると遠慮がちに話し始めた。
「その……ずっと聞こうと思ってたんですけど……あなたとあのアリスという少女は知り合いなのですか? なにか浅はからぬ因縁があるようでしたけど……」
やっぱり彼女の目を誤魔化すことは出来ないか。
「……今から僕が離すことを信じてもらえるかな? たとえどんなに荒唐無稽に思える話でも」
「……はい。私はあなたのことを知りたいですから」
僕の静かな問いかけにアーシャは静かに頷く。彼女の瞳は真剣そのものだった。
僕は自分の秘密も含めてすべてをアーシャに離して聞かせた。僕が転生者であること、アリスとクレイも同じ転生者で僕にとって大切な人達であること。シャルロッテから見せてもらったアリス様達に関わる記憶のこと。
アーシャは内心は驚いていたのだろうけれどただ黙って僕の話を聞いていた。すべてを聞き終わった後、彼女は静かに口を開いた。
「それであなたは部屋に引きこもりがちだったのですね」
「……ごめん、情けないことは分かっているんだ。でもシャルロッテが見せてくれた過去を見てアリス様達を倒せばいいのかますます分からなくなったんだよ」
アリス様のあの結末は復讐をするには十分な理由になってしまうから。自分にとって大事な人なのにあの過去を知って僕はますますアリス様を斬ることを躊躇っている。
「……」
アーシャは僕をじっと見つめた後、そっと腕を回して抱きしめてきた。
「ア、アーシャ!? なにを……!?」
「話してくれてありがとう。でもようやくあなたがなにに迷っているかが分かりました」
じっと僕を見つめてくるアーシャ、その瞳は真っ直ぐで美しい。僕は思わず見入ってしまった。
「彼女の過去は……正直聞いていた私でさえ悲しく辛いと感じてしまいました。……けれど私は彼女の過去を知ったとしても……ライアム家の者として民を守らないといけない。もし彼女にライアム領が襲われたら私は全力で彼女を阻止します」
アーシャは僕から離れるとにっこりと笑って語りかける。
「もしあなたが彼女と戦うことが辛いなら戦いに参加しなくてもいいです。彼女はきっとあなたに酷いことはしないだろうから。あるいは戦う以外の選択肢も見つかるのかもしれません」
「っ……アーシャ……」
「いづれにしてもあなたの選択を私は尊重します。どうか後悔のないように行動してください、今まで私を守ってくれたあなたがどんな行動をとっても私はあなたを恨んだりしませんから」
そう言ってアーシャは僕の部屋から静かに出て行った。