勇者vs魔王⑥
「けほ、けほ……!」
血を吐いたシャルロッテが膝を突く。アリス様に止めを刺せる機会を彼女は失ってしまった。
「……あははははははははは! まさか自分から力尽きてくれるとはね!」
アリス様の高笑いが響き渡る。シャルロッテは睨みつけるも明らかに強がっているのが分かってしまう。
「さすがに死んでいたあの子に生命力を譲渡した後で神剣の制限解除をしたのは肉体に負担が大きかったみたいね。忌々しい光の剣も維持できないみたいだし」
アリス様の指摘通りシャルロッテの周りからは先程まで顕現していた光の剣が消えていた。
「……まだ、私は負けてない……勝手に勝ち誇るな……」
シャルロッテは立ち上がり、剣を構える。彼女の瞳からは戦う意思は消えていない。
「いいわ、あなたを殺せる機会なんてこれからないだろうし。ここで殺してあげるわ!」
アリス様が駆け出す、その手に握られているのは血剣。シャルロッテも剣を振るいアリス様を迎え撃つ。激しく切り結ぶ二人、しかし、
(シャルロッテの動きが悪くなってる……)
先程はシャルロッテはアリス様を押していたが今は逆になっていた。明らかにシャルロッテの動きが悪くなっているのだ。
(このままじゃシャルロッテが……)
僕の中で嫌な予想が膨らんでいく。
「あっははははははははははははは!」
「くっ……」
「威勢よく吠えた割に動きが冴えないわよ! そんなんじゃ……」
アリス様の言葉と共に血棘がシャルロッテに襲いかかる。剣を振るい棘を破壊するシャルロッテ。
「っ……!」
しかし捌ききれず、彼女の脇腹に棘が突き刺さる。シャルロッテの動きが止まったところにアリス様の容赦のない蹴りが叩き込まれた。強烈な蹴りを叩き込まれたシャルロッテは建物の壁を突き破って吹き飛ばされる。
「まだよ」
吹き飛んだシャルロッテを追い付いたアリス様は邪竜の炎をシャルロッテに叩きつけた。轟音とともにシャルロッテは地面に叩きつけられる。
「シャルロッテ!」
僕は思わず叫んでいた。アリス様の攻撃を止めようと彼女へ向かって駆け出す。
「……邪魔はさせん!」
「!? クレイ……!?」
シャルロッテに吹き飛ばされていたクレイが復活し、僕の行く手を阻んできた。
「どいて! シャルロッテを殺させるわけにはいかない!」
「ははは! お前が行ってどうなると言うのだ! 躊躇っているだろう! アリス様と戦うのを!」
「……っ!?」
クレイに自分の心を見透かされ僕はなにも言い返せない。彼の言う通りアリス様と戦うことに僕はまだ戸惑っていた。
「クレイ、ありがとう。それじゃ――」
僕が足止めを喰らっている間にアリス様はシャルロッテを仕留めようとする。
「炎は防いだようね。でも立っているのもやっとなんじゃないかしら?」
「……っ!」
シャルロッテはアリス様の言う通りなんとか立っているような状態だった。あれでは次の攻撃は防ぎようがない。
「楽しかったわ、あなたとの戦い。時代が過ぎ、血が薄くなったせいで力が衰えたといってもさすがノースフィールド家の者。その名に恥じない強さだったわ。だけど、相手が悪かったわね」
アリス様の手に紫炎が生み出される。今のシャルロッテではあれを防ぐのは難しいだろう。
「さようなら」
別れの言葉と共に邪悪な炎が放たれた。