勇者vs魔王
「なにが……!?」
クレイが驚愕の表情を浮かべる。虹色の光は邪竜を直撃し、動きを止めた。
「あの光は……」
あの光に僕は覚えがある。間違いないあれは。
「シャルロッテの……」
僕の呟きを聞いたクレイが忌々しそうに顔を歪ませる。
「まさかこんなに早く出てくるとは……! 足止めは役に立たなかったか!」
ゆっくりとこちらに近づいてくる小さな影、やがて姿が露わになる。灰色の髪を持ち、手には黒と金を貴重とした華やかな剣。
世界の危機と代々戦ってきた大公家の当主――シャルロッテ・ノースフィールドがそこに立っていた。
「おのれ……!!」
「お前か」
じろりとシャルロッテはクレイを睨む。小さな体からは似つかわしくない殺気が放たれた。
「随分と足止めを喰らって遅れてしまった。前からこの剣が反応していたのはお前達だったのか」
「……!!」
クレイは戦闘態勢に入る、しかし、
「ん、お前は邪魔」
シャルロッテの姿が消えたかと思うと次の瞬間にはクレイが吹き飛ばされていた。そのまま起き上がってくる気配はない。
「じっとしてて、わたしが相手を本気でしなきゃならないのはあなたの主人」
そういってシャルロッテは邪竜の頭に乗っているアリス様を見上げる。アリス様はこちらをじっと見ていた。
「ん、その前に皆を助けないと」
シャルロッテは目にも止まらぬ早さで倒れているアーシャの元へと移動し、手をかざした。虹色の光がアーシャの体を包み、彼女の指先が動く。
「うっ……」
「起きた?」
「大公様」
「ん、よかった。まだ間に合って。よく持ちこたえてくれた、後は私がなんとかする」
シャルロッテはリアナと国王様も治して回復させた。そして僕の元へとやってくる。
「ラナ、よく頑張った。後は私に任せて」
傷ついた全員を癒したシャルロッテは改めてアリス様と向き合う。
「……ノースフィールド家、やっぱり出てくるんだ。世界の守護なんて古くさい使命を帯びた一族なんて私が綺麗に消してあげる。やりなさい、標的はあの女よ!」
アリス様の指示を受けて邪竜がシャルロッテに襲いかかる。炎が口腔内で輝き、シャルロッテ目がけて放たれた。
「ん、そんなものは効かない」
シャルロッテが神剣を振るう。虹色の光が邪竜から放たれた炎と激突した。剣から放たれた光は炎を貫き、邪竜の首を消し飛ばした。
頭を失った邪竜はゆっくりと崩れ落ち、動かない。たった一撃でシャルロッテはあの恐ろしい竜を仕留めてしまった。
「あ~あ、私のお気に入りだったのに」
アリス様がこちらにゆっくりと歩いてくる、邪竜が倒されたのにその表情には焦りはない。
「にしても本当にご苦労様。世界の守護なんて使命を今だにこなしている哀れな一族に少し同情するわ」
「……アリス・ローゼンタール。かつての本物の英雄」
シャルロッテがゆっくりと口を開く、その声音には哀れみが含まれていた。
「歴史から消された悲しい英雄、墜ちた女王。あなたのことは『一族の記憶』で知っている」
「あら、なら話が早いわ。だったら私がなんでこんな行動をとっているのかも分かるでしょう、止まることがないってことも」
シャルロッテは一瞬、表情を歪めるがすぐに元に戻った。
「……ノースフィールド家の当主として世界の脅威となったあなたを野放しには出来ない。あなたはここで倒す、例えあなたにどれだけの過去があったとしても今のあなたは明確に脅威だから」
シャルロッテは神剣を構え、宣言する。それをみたアリス様はにやりと笑った。
「ノースフィールド家の当主に世界の脅威認定されるなんてある意味光栄ね。でも私を倒す? あはは! やれるものならやってみろっ!! 今の私を止められるのなら!!」
勇者と魔王の戦いの火蓋がここに切って落とされた。