王都炎上⑧
炎がすべてを灰へと帰していく。
屍竜から放たれた炎は王都のすべてを破壊していった。王城もなにもかもが吹き飛ばされすべてが瓦礫の山へと変わっていく。炎の直撃を浴びた人は悲鳴をあげる間もなく、死んだ。
「あ……」
目の前の光景に僕は呆然とする。アーシャに続いて自分にとっても大事な人達がいた王都が火の海になってしまったことに。
「あは」
呆然としていた僕の耳に届く嗤い声、アリス様のものだ。
「あははははははははははははははは! 最高よ! この瞬間をどれほど待っていたか!」
心の底からこの光景を喜んでいる嗤い声だった。
「私を殺したもの達が気づいた王国の中心はもはや滅んだ。ああ、胸の空く思いだわ!」
「もう……やめて」
僕の口から掠れたような声が漏れる。しかしそれがアリス様に届くことはない。彼女はひたすたこの破壊を楽しんでいた。
「グレン」
声をかけてきたのはクレイだ。しかし今の僕にはもはや反応する気力すら残っていない。自分が守ろうとしていたものが無惨に崩れ落ちたことで今の僕には二人と戦う意思が残っていなかった。
「どうだ、今の気分は?」
「……」
「答えはないか、よほど効いたらしい」
グレンはそのまま僕の側までやって来て耳元で囁くように語りかける。
「なあ、お前は自分が転生者であることをどう思って生きてきた?」
「どうって……」
「ずっと心のどこかで疎外感を感じていたんじゃないのか? 自分はこの時代に本当は生きている人間ではない、なぜ自分は転生して生きているのかと」
「……!?」
その言葉が僕の心を抉る。それはずっと僕が転生してから抱えてきた疑問そのものだったからだ。
「さっきも伝えたがお前は俺がアリス様の復讐を手助けするために転生させたんだ。少し邪魔が入って妙なことになってしまったがお前を転生させた目的はアリス様の復讐を手伝わせることにある」
クレイの言葉から耳が話せない。毒のように僕の心を犯していく。
「お前は今の人生で大事と思っていたものをすべて失った。だがそれがお前の本来あるべき姿なんだ、本来は今回の人生で大事なものが出来る必要なかった。お前の本当の役割はすべてを壊すことにあったのだから」
「僕の本当の役割……」
「そうだ。アリス様の剣となりその復讐の助けとなることだ。今こそ生み出された役割を全うしろ。お前が本当にいるべき場所は俺とアリス様の側だ。断じてあのアーシャという女の側ではない」
「それは……」
「お前は本当はあの女と同じ時代を生きている人間ではないんだぞ? とうの昔に個人としての人生は完結している人間だ、守ろうとしていたのがどうかしていたのさ」
クレイの言葉に僕は言い返すことが出来ない。
そうだ、彼の言う通りだ、僕は本当は彼の言うようにこの時代の人間ではない。アーシャを守ろうとか考えていたのが本当は滑稽だったのだ、もう死んでいる人間なのに。
「さあ、俺達と一緒に来い」
クレイから手が差し出される。僕は彼の手をとるか迷ってしまった。
「なにをしている。もう理解出来たはずだぞ、自分の立ち位置と役割を」
急かすようにクレイが言ったその時――。
王都を覆う炎を切り裂いて虹色の光が屍竜を貫いた。
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