王都炎上⑦
「……これは……!!」
僕は現れた屍の竜の異様を見上げる。肉は腐り、骨が見えているような無惨な状態だ。それなのにこの竜がどんなものか僕は理解出来た。
「これは……僕達が倒した邪竜……」
「そう。私達が前世で倒した邪竜の死体を私の眷属として利用したの。敵の時は大分苦労させられたけれど自分の味方になると本当に頼もしいわね」
楽しそうに語るアリス様。けれどあの竜はそんなもので済ませていいものではなかった。あの竜は人々を大量に殺し、人間の脅威と君臨した災害だ。そんなものを出すということは。
「それで王都を吹き飛ばすつもりですか……!?」
「ええ、そうよ。この国は絶対に滅ぼす、私のすべてを奪って幸福に過ごしている者達にも罰を与えるの」
「一体……!」
僕は唇を噛みしめながら叫ぶ。
「一体、なにがあなたをそこまで変えたのですか! あなたはこんなことをするような人間じゃない! それなのにどうして……!」
「もうあなたが知っているアリスはどこにもいないのよ、グレン。でもあなたは絶対私のものにする」
アリス様がこちらに迫ってくる。僕は迎え撃とうとしたが、光の槍がアリス様を貫いた。
「今のは……アーシャ!?」
「あの女……!!」
アリス様が忌々しそうに吐き捨てる。視線の先にはぼろぼろの姿で立っているアーシャの姿があった。
「邪竜の炎を受けてまだ立ってくるなんて……光属性の適正がある人間の耐性を甘く見ていたかしら」
「……ラナは……」
アーシャは苦しそうに言葉を絞りだす。立っているのもやっとの状態だろうがそれでも彼女の闘志が衰えているようには見えない。
「ラナのことは私が守ります……」
「彼女はお前のものじゃない」
アーシャの言葉を遮るように吐き捨てるアリス様。次の瞬間にはアーシャの側まで移動し、アーシャのお腹を殴っていた。
その場に崩れ落ちるアーシャ、アリス様はそれを冷ややかな目で見下ろす。
「あなたはよく頑張ったほうよ。でも私には及ばない。今度こそあなたを殺すわ」
アリス様の手には血で出来た剣、彼女はそれを振り上げる。
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
僕は全力でそれを止めようと駆け抜ける。しかし横からなにかが僕の体を吹き飛ばした。僕はそのまま地面を無様に転がる。
「邪魔はさせない」
「クレイ……!」
僕がクレイに足止めをくらっている間にアリス様の剣がアーシャに振り下ろされた。もともと重傷を負った彼女はそれを防ぐこともできない。
袈裟切りに振り下ろされた剣は彼女の体を切り裂く、アーシャはそのまま地面に倒れた。まだ体は微かに動いていたがアリス様が止めと言わんばかりに剣を突き刺し、彼女の体は完全に動かなくなった。
「あ……ああああああああ……!!」
僕はその場に膝をつく、自分にとって大事な人を守ることさえできなかったことに絶望しながら。
「あはははははははははははははははははは!!」
アーシャが動かなくなったのを見たアリス様は勝ち誇ったように哄笑をあげる。
「ねえ、グレン。これであなたが守ろうとしていたものの一つはなくなったわ。でもこれじゃあなたのしがらみを絶つにはまだ足りない。だから」
ふわりと宙に浮いたアリス様は邪竜の頭部に乗る。
「もっとあなたに絶望を与えてあげる。その後でじっくりあなたがどうするべきかを私達と一緒に考えてもらうわ」
なにかまずいことをしようとしているのは分かる。分かっているがアーシャを守ることができなかったことが僕の心を蝕んで動くことが出来ない。
「この王都を滅ぼせ、竜よ。その業火ですべてを焼き払え」
アリス様の命令に答えるように屍の竜が咆吼する。王都に響き渡るおぞましい咆吼に誰もが震え上がった。
やがて邪竜は空へと飛び上がる、邪竜の口腔内に紫色の炎のようなものが生まれていった。
「放て」
短い主からの指示とともに滅びの炎が王都に向けて放たれた。